鏡の中のバディ【夏ピリカグランプリ】
「あー、もっと可愛くなりたいよー。どうすりゃいいのかな」
ひなたは手鏡を片手にソファにごろんと転がった。お風呂上がりのスキンケアもそこそこに、ひなたは鏡の中の自分の顔を見ながら独り言を言った。すると、どこからともなく声が聞こえてきた。
「お前、何言ってんの?自分で自分を可愛いって思わないでどーすんの?」
ひなたは飛び上がって周りを見渡した。だけど、当然ここには自分一人しかいない。怯えるひなたにはお構いなしに、また声が聞こえた。
「ひなた、ここだよ。鏡の中だよ」
ひなたは手にした手鏡をまじまじと見た。鏡の中にはひなたが映っているが、その奥に若い男の姿があった。若い男は、爽やかでお世辞抜きで格好良かった。ひなたは、うわずった声で若い男に尋ねた。
「あ、あなた一体誰なの?一体何なの?」
「俺?俺はこの鏡の精で加賀美っていうんだ。お前が告白するってんで手伝いに来たんだよ」
「何でそんな事知ってんのよ?何を手伝うっていうのよ!?」
「そんな細かい事は聞くなよ。俺、お前の恋が上手くいくように指導に来たんだぞ」
ひなたはかなり驚いたが、好奇心が勝ってしまった。もう細かい事は気にするのはよそう。この加賀美という男は自分を助けに来てくれたようだ。それに、ひなたは不思議な事が大好きときている。
「加賀美さん、一体どうやって助けてくれるの?私、七夕のお祭りに颯斗を誘って告白しようと思ってるのよ」
「俺は、ひなたが自信を持って告白できるように指導してやる。俺に任せておけば大丈夫だから」
その日から加賀美による特訓が始まった。
自然な笑顔を作る練習。可愛く見えるメイクのやり方。可愛い表情の作り方。話の仕方。など加賀美の指示は多岐に渡った。初めこそ戸惑いを隠せないひなただったが、日を重ねるうちに加賀美の事を信頼して指示に従っていった。
「ひなた。お祭りは10日後だろ?そろそろ颯斗に約束を取り付けておきなよ」
「分かった。明日聞いてみるね」
翌日の夜。ひなたは手鏡を手に声を掛ける。
「加賀美さん。あのね、七夕の日約束取れたよ」
「おう、良かったな。後もうちょっと特訓やるぞ!」
そして七夕の前日、加賀美はひなたに言った。
「ひなた。お前、俺の事を怖がらずにいてくれてありがとう。明日は絶対に大丈夫だから頑張れよ。ひなた、ちょっと目を閉じて。」
ひなたが目を閉じると、手鏡がひなたの唇にそっと触れた。
帰宅後、ひなたは加賀美に報告した。
「加賀美さん!あのね、颯斗と付き合える事になったの。加賀美さんのお陰よ。ありがとう」
「何言ってんだよ。ひなたの実力だよ。良かったな」
そう言うと加賀美は飛び切りの笑顔を浮かべた。その時、加賀美は心なしか姿が薄いような気がするとひなたは思った。
翌日からひなたがいくら手鏡を覗き込んでも声を掛けても、もう加賀美がひなたの前に現れる事はなかった。
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⭐ 夏ピリカグランプリに参加させて頂きました。
なかなか思いつきませんでしたが、書けて良かったです。
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