見出し画像

#60|「ごめんね」と言えるより大切なことがある。置き去りにしたくない「子ども本人の気持ち」

公園はしばしば、子どもが「初対面のお友だち」とのコミュニケーションを経験する場になる。

ふとしたことで意気投合し仲良く遊び始めることもあれば、いまいちソリが合わずトラブル寸前になることも。いずれにせよ、普段のコミュニティ外での人間関係作りはとても大切な経験だ。


この日もいつもの公園で、いつものようにマイお砂場セットを広げ砂遊びをしていた娘(4)。


娘が穴を掘っていると、ある女の子が近づいてきて娘の道具を黙って使い始めた。子ども同士が道具をシェアするのはよくあること、私も気にとめずにいたら、彼女のお母さんが慌てて追ってきて言った、「お友だちのでしょ、勝手に使っちゃダメよ!」。


「ちゃんとお友達(=娘)に『貸して?』って聞いてみなさい」と畳みかけられたその女の子は、素直に「貸して、一緒に使おう」と言ってきた。

娘は小声で(初対面の子には、いつも小声だ)「いいよ」と言う。


ああ、一緒に砂遊びするのね、と思っていた。
だがこの日は違ったようだ。


女の子が娘の道具で遊び始めたのを横目に、娘は急に道具を片づけ始めた。「…すべりだい、やってくる」と言いいながら。


ここから離れたい?
娘の気持ちに気づいた私はとっさに片づけを引き取り、先に滑り台に行かせた。

道具はその女の子のお母さんに「使ったらこの袋に入れて、置いといてもらえますか?あとで取りに来ますから」と預けて後を追う(これもよくある)。



日本の全体管理型の教育では「個人の気持ち」より「全体の調和」が優先されやすい。
さらに多くの日本人は、全体管理型の教育を経て社会に出ている。
つまり社会は「全体調和を重んじる教育」を受けた人々で構成されていることになる。

「全体調和優先思考」は、学校教育現場を超えて日本人の精神性や価値観に浸透しきっているといってもいいだろう。


私たち親、あるいは保育の現場も、子どもたちに接する際、無意識レベルで「全体の調和」を優先していまいか。

トラブルを避け、相手に悪く思われないという『大人の理屈』を優先した結果、大事な大事な「子ども本人の気持ち」が尊重されない事態になっていないか。



この日の娘は、道具を貸したくない気分だったんだろう。いつもなら初対面の子でも一緒に遊び始めるところを、そそくさと片付け離れようとしたのは、何かあったはずだ。


それなのに、なぜ娘は「いいよ」と返事した?
気持ちと反対の返答が口を突いて出たのは、なぜ?


理由はこれ。
『お友だちに「かして」と言われたら、「いいよ」と言いましょう』、そう刷り込まれている
無思考・条件反射的に「いいよ」と返答すべきものなのだと。


かくいう私も、これまでに何度も同じ場面で「いいよ」を”代弁してきた”。

まだ言葉が達者でない年頃では、道具の貸し借りの場面は「全体調和に関する暗黙の了解」を持っている大人同士のやり取りの場になる。

大人同士は、まして初対面なら「そうあるべき返答」でその場をやり過ごすことになる。そして子どもは、そんな親のやりとりをしっかり聞いている。

あるいは保育園でも言われているのかもしれない。



謝罪の場面も同様だ。

『あなたのしたことでお友だちが嫌な思いをしたら、(問答無用で)「ごめんね」と言いましょう。「ごめんね」と言われたら、(問答無用で)「いいよ」と返しましょう』と。


子どもたちが無思考・条件反射的に口にする「ごめんね」「いいよ」。そんな表面上の”解決”で学び得られることは何だろう。

◆ とりあえず「ごめんね」って言えばいい
◆ ごめんねって言われたら「いいよ」って言わないといけない

その時にどう感じているかという自分自身の気持ちは、脇に置かれたままに!



滑り台から降りてきた娘をつかまえて、私は伝えた。
さっきの砂場のことなんだけど…

「あのね、『貸して』って言われてもあなたが貸したくないなと思ったら『いいよ』って言わなくてもいいんだよ?『これは私のなの』って言っていいんだよ。困ったことになったときは、ちゃんと私が助けるからね」

砂場のことなんてケロッと忘れた様子の娘は、うんうんと空返事だけしてまた滑り台に走って行ってしまった。



タイトルに書いた「『ごめんね』と言えなくてもいい」は極論だ。悪いことをしたら、嫌な思いをさせたら謝罪する。それはとても大事なこと。誠意をもって謝罪できる人であってほしいと思う。

でも。

全体調和や周りへの配慮ばかりを考えて、自分の気持ちに蓋をすることが幸福につながるとも思えない。


嫌なときは、嫌だ。
あなたはそういうけれど、私はこう思う。
みんなはそうかもしれないけれど、私はこう感じる。


そんな風に自分の気持ちを感じ、表現できる人間になってほしい。そしてそうなれるように育てたい。


砂場のふとしたやり取りから見つけた、大事なことの話。

この記事が参加している募集

#子どもに教えられたこと

32,857件

一緒に楽しみながら高め合える方と沢山繋がりたいと思っています!もしよろしければ感想をコメントしていただけると、とっても嬉しいです。それだけで十分です!コメントには必ずお返事します。