UXライティング2

「UXライティングのはじめ方講座」に参加しました

2020年1月26日、デジタルハリウッド東京本校で開催された「UXライティングのはじめ方講座」に参加しました。講師は、売れっ子コピーライター(画像参照)の永井一二三さん。

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今回の講座は普段UXライティングを仕事にしているわたしにとって、とても学ぶことが多かったので、記事にまとめてみます。

なぜ参加したか

わたしは以前広告会社でコピーライターをしていたのですが、2019年1月からIT系の事業会社でコピーライターとして働いています。UXライティングも自分の職務の領域なのですが、この一年間完全に独学というか我流でやってきたので、さすがにやばくないか?と不安になりました(遅)。そこで一度、ほかの方がUXライティングについてどのように考えているのかを知りたいと思い、参加しました。

UXライティングとは

近年、シリコンバレーの企業を中心にUXライターと呼ばれる職業が生まれています。例えばGoogleでは、UXライターの求人に次のように記載されています。

文字情報によって、ユーザーのタスク完了を支援する。自社の商品がもつトーンと製品のUXデザインを牽引する存在。

これがUXライターおよびUXライティングの定義とも言えるものなのですが、永井さんはUXライティングについて、ライティング、コピーライティングと比較して次のように分類していました。

UXライティング

このように、ユーザーのインターフェース上で、非常に短いテキストによって、ユーザーの行動をサポートするのがUXライティングになります。

iPhoneは電話の再発明

ここで本論とは少し外れますが、永井さんがお話されていた事例でとても参考になったものを紹介します。

UXライティングがライティングやコピーライティングの延長線上にあるという話の中で、iPhoneのネーミングについての事例を取り上げていました。

iPhoneを一言で説明すると、「小型のコンピューター」や「手のひらサイズのインターネット端末」になると思います。おそらく「インターネットができる電話」と答える人はほぼいないでしょう。実際わたしも電話として使うことはほんとんどありません。しかしiPhoneには電話を意味するPhoneというワードが含まれています。

ではなぜ、「iPhone」と名付け、それを「電話の再発明である」とプレゼンテーションしたのか。それは、人間は既知のもので説明される方が理解が早いからです。iPhoneが発売された当時は、まだまだ「インターネット」や「コンピューター」よりも、「電話」のほうが圧倒的に認知されている時代でした。なので、より多くの生活者に全く新しい製品を身近に感じてもらうため、iPhoneと名付けたのです。

トーンについて

上記のGoogleの求人の記載のなかで、「自社の製品がもつトーン」という言葉があります。トーンについては、WIREDの事例を紹介していました。

WIREDは記事中で、特定の言葉について下記のように文言を統一しています。

イベント→イヴェント
ページビュー→ページヴュー
デバイス→デヴァイス
ドライバー→ドライヴァー

講座のあとにわたしも見てみましたが、次の記事がわかりやすいです。

こうして特徴的な言葉遣いを採用し、統一することで、WIREDらしさをつくり上げています。

UXライティングのこれから

今後需要が高まりそうなUXライティングについて、いくつか事例を挙げていました。

ひとつはスマートスピーカーです。例えばこちら。

「ねえ、Google」

まるで友達に呼びかけるような言葉遣いですが、ちょっと何か気になった時に、気軽に聞けるような存在であることをこの言葉で感じさせ、ユーザーの行動を促しています。また、チャットボットも不動産、転職、保険などの業界でよく効くと言われており、この領域でも今後UXライティングへの需要が高まると考えているそうです。

道路標識もUXライティング

この講義があった数日前に、道路標識の「横断禁止」が「わたるな」に変更される方針であることがニュースになっていました。

永井さんはこれを「命を救うUXライティング」と呼んでいましたが、日常生活の中にもこうしたUXライティングの考え方が応用されています。

Spotifyの『発見(discovery)』

今回いくつかUXライティングの事例紹介があったのですが、その中でもっと聞いてよかったなと思ったのが、Spotifyの『発見(discovery)』の事例でした。

広告業界のイチローと呼ばれるレイ・イナモトさんが、インタビューで次のように語っています。

消費者へのアプローチを巧みに行っている企業の例として、イナモト氏はスポティファイを挙げる。「彼らは言葉を慎重に選んでいます。『お薦め』という言葉を頻繁に使わず、『発見(discovery)』という言葉を使う。押し付けがましくないのです。『あなたが何が好きか分かっていますよ』と言うのではなく、『あなた』に発見させる。

わたしはこの事例こそ、優れたUXライティングだなと感じました。自分の仕事でもそうなのですが、UXライティングをやっていると、多くの人がおすすめ問題にぶち当たります。ユーザーに使ってほしい商品やサービスを、ついつい「おすすめ」というカテゴリでくくってしまうのです。しかし、後で気付きます。いや、おすすめってなんやねん、と。そんな中で、おすすめに『発見(discovery)』という言葉を当てるSpotifyはめちゃくちゃかっこいい。これがイケてるUXライティングか…!と目から鱗が落ちる思いでした。

D2Cでも重要なUXライティング

Takramのビジネスデザイナー・佐々木康裕さんの今月発売されたばかりの著書『D2C』にも、UXライティングに関する記述があります。これからのUXライティングとして、D2Cにおける役割についても紹介がありました。

D2C(Direct to Consumer)は「テック×小売り」を実現した新しい業態として、既存の業界をディスラプト(破壊)する存在となっています。そのD2Cブランドの主な職種にも、Copy directorやUX Copywriterなど、UXライティングを主なスキルとする職種が含まれているのです。

おわりに

近年、日本でもメルカリやサイバーエージェントがコピーライターを募集しているという話がありました。わたしもIT系の事業会社でコピーライターとして採用されたのですが、オンラインでの言葉に対する意識が高まっていることを日々実感します。

講義でも永井さんが話していましたが、UXライティングはまだ教科書と呼べるような書籍もないような状態です。生まれたばかりの領域であり、UXライティングを専門性としている人材もまだまだ多くありません。そんな中で、日々UXライティングと向き合いながら仕事をできる自分は、とても恵まれた環境にいるのだと思います。これからも、こうした勉強会で新しい知識を吸収しながら、人の心を動かすUXライティングとは何なのか?を追求していきたいです。

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