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LAST MONTH Episode4

<今回の主人公について>
2023年入社。経済学部、経済学科卒。
入社後、営業本部として東京に配属。
後の文章でも出てくるが、将来の目標を聞かれた際「社長になる」と答えたことで、皆から「シャチョー」や「シャッチョ」と呼ばれている。

【arctic monkeys】誰が私をなんて言おうと

2023年3月25日、私は死んだ。

私は朝11時に表参道駅にいた。道中、1時間程電車に乗っていたが何を考えていたか覚えていない。

多分、イギリスのロックバンドarctic monkeysを聞いていたと思う。3月12日に東京ガーデンシアター、3月13日にはzepp羽田で来日公演があり、両日見に行ったが、その熱量は一切落ち着いておらず、狂ったように聞いていた。特に1stアルバムのWhatever People Say I Am, That's What I'm Not(訳:人々が私をなんと言おうと、それは私ではない)をこの1か月ずっと聞いていた。このアルバムは若さゆえの勢いがある。私の社会人になりたくない、という反骨精神と、音楽性が妙にマッチしたのであろう。

音楽を聴き、気持ちよくなりながら銀座線の改札を出た。数分歩いた所に行きつけの美容院がある。その日、そこで私は長い髪を切り学生生活を終わらせた。

話は過去に戻るが、私は小中高サッカーをしていて、大学生になるまで暇な時間がなかった。だから大学生になったら、バイトをして、そのお給料で自由に好きなものを買える生活に憧れていた。それから、大学生になった私は、スーパーの品出しでバイトを始めた。お給料は趣味に全部使った。貯金もせず服を買い続けた。高校生の自分は1か月5000円のお小遣いとお年玉の範囲で買っていたが、バイトを始め、服に使える金額が増えると、当然一着にかかる金額も高くなった。

そこから卒業までは服に没頭し続けた。少しづつ自分のスタイルが出来てきて、自分で言うのも変だがかっこよかったと思う。周りからもよく言われたし、自分でもそう思った。自信が付いてきたこともあり、大学2年目になると髪の毛を伸ばしたくなった。

実は昔から髪の毛を長く伸ばしたいと思っていたが、明確に伸ばそうと決意したきっかけは、購入していたハイブランドのショーで、歩いていた長髪のモデルに強烈に惹かれたからだ。自分もあのような域にまで達したいという願望が出た。それが髪を伸ばし始めようと決めた理由だ。
昔はキムタクのような長髪の男が溢れかえっていたと聞くが、断じてキムタクになりたいからではない。まぁ好きではある。

それから髪を伸ばし続けて1年ほど経った頃、いきなりバイト先の店長に「髪を切れ」と言われたのである。自分より髪が長い先輩もいる中、自分だけ言われたことに対して腹が立ち、その場で口論が始まった。明らかに自分が悪いにも関わらず反抗するという、最悪で幼稚なアルバイターだったと思う。

その場では「自分は辞める」と啖呵を切りながら、結局のところ社員から全力で止められ、辞めることを止めた。最終的に卒業まで働くのだが、あそこで止めてくれた社員さんやパートの主婦さんには感謝しかないし、店長には謝罪もしたが、今でも「申し訳なかったな…」と思っている。

そういうことがあり、一旦髪の毛を切り働くことにした。就活にも合わせて、短髪を満喫した。しかし、その間もずっと長髪を諦めきれずにいたし、モヤモヤした状態で過ごしていた。

大学4年の4月に就職活動が終わり、そこからまた髪の毛を伸ばし始めた。10ヶ月が経ち、3月になる頃には自分が満足出来るくらいの長さになった。ここからが私の集大成である。4年間服に費やしてきた時間・お金の全てを表現する一か月。飲み会や旅行などで服を着る機会がとても多く、その度に何を着るかを考え、最高の状態で外出するのが快感でしかなかった。

時にはレオパード柄のフリース、ピンク・赤のパンツ、ゼブラ柄のニットなども着用した。長髪にサングラスもかけていたので、渋谷であれば違和感はないが、最寄駅では異質だったと思う。
もし自分が服を好きでなければ、絶対に近寄りたくないし関わりたくない存在であるが、自分がそのレベルにまで達したことが何より嬉しかった。
自分という個性を確立できたことは、この大学4年間で一番の収穫だったし、この状態で過ごした1か月は本当に楽しかった。

そして、2023年3月25日、私は死んだ。いや、生まれ変わったと言うべきかもしれない。髪の毛を切った。それは自らの学生としてのアイデンティティから社会人としてのアイデンティティへと昇華する区切りの瞬間だった。いま改めてそう思う。」

最初は憂鬱な気分だった。
学生が終わる感じがしたし、これから先、長髪に出来る機会はそうないと思っていたからだ。しかし、切ったことにマイナスな感情は一切なかった。
髪の毛を切っただけでアイデンティティを失うなんて事はなく、一切揺るがない自分が居ることに、安心したと同時に自信が付いた。

そこから入社式まではあっという間だった。役員の目の前で自己紹介した時には、社会人になったと実感し、その後には、「社長を目指します」と社長の目の前で大口を叩いた。元々そんなことを言うつもりはなかったけれど、社会人として覚悟を持つために、出てきた言葉であった。これから何度もきついと感じることがあるだろうけれど、その度に立ち上る自信があるからこそ出てきた発言だと思う。

それから4日間は精神的にも身体的も疲労した。
仲の良い友達と電話をし、お互いの近況報告をして心を休めながらも研修を受けた。
大変な時期に支えてくれる友達や同期がいることが非常に幸せだと思う。
そして、やっと金曜日になった。初めての華金満喫しようと思う。

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