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夜は涙で洗いながして~ピエロの夜はもういらない
飲み会が嫌いだ。
そこそこ若い女というだけで、振られる話題がすべて恋愛。これ、歳を重ねていくと“結婚”になるんですよね?馬鹿らしくて笑えてくる。
職場の送別会でも、ただの同僚の飲みでも、1時間もすれば恋の話になる。それほど興味もないくせに、話題がないからといって適当に他人の内部に踏み込んで来ようとするその根性が気に食わない。
「で、どうなの?」
「どうなのとは」
「恋愛とか~恋の話ですよ~」
ほろ酔いの勢いで、ニコニコと恋愛の話をされる。どうもこうもねーよ!と返したいところだが、それでは今後の業務に支障が生じてしまう。
「あはは、ないですよー」
こういうときに嘘をつくのは得策じゃない。返事を濁すと微妙な空気にもなるし。あくまで軽く正直に返す。
しかし、私の返事を聞いた人たちは決まって「そんなのダメ!」と言い出す。
ダメかどうかを決めるのは私だ。親から言われても苛立つのに、ガチの他人に口だされるのは本気で腹が立つ。というか、怒りを超えて呆れになる。こいつ、私の人生に関係ないよね?と、ぽかーんと口は開きっぱなし。
女性からは、その後に説教される場合もある。
どんな人が好きなの?理想高すぎない?結婚はいいよ、せめて子供だけは産んどいたほうが……。
余計なお世話、である。
まず、こんな職場の飲み会で本気で恋愛相談なんかするわけがない。好みのタイプも適当に言う。大体はそのとき好きな芸能人を言って、付き合いたーい!で終わりだ。付き合いとかよく分からないけれど。
そりゃあ、イケメンな芸能人は好きだ。大好物だ。だけど、付き合いたい男なんかいない。そこまで考えることも、最近なくなっている。
一番嫌いなアドバイスは「子ども産んどいたほうがいいよ」である。
私の子宮は私のもんだ。親からでさえも、使い道について口を出される覚えはない。半ば強制的に使っているし、今後もタイミングやらが合えば活用はするだろう。でも、それは私が決めることなのである。
盆や正月に親戚から「早く」と急かされることもあるが、そのたびに思うのは“黙れ”。これに尽きる。
恋愛のれの字すらも、私の人生にはノータッチだ。見るからにそう見せているし、周囲の人にもタイミングがあれば適当に「ないっすねー」と素面のときに言ってもいる。その「ないっすねー」には、「踏み込んでくれるなよ?」という意味をたっぷりと含ませているつもりなんだけど……コミュニケーションは難しい。伝わらないことが多い。
なぜこうもバカみたいな話題が振られるのかというと、それは“説教したいお節介”共がその辺にはびこっているからなのだろう。
恋愛について、女の人だけがどうこう言ってくるのか、というとそうでもない。男の人、特におじさんとかは「若いんだから」とか言ってくる。
若いからといって恋愛するわけでもないし、恋愛が一番大事なわけでもない。人それぞれなんだから、当たり前だ。学校でも、“個性が大事”って言ってるでしょ?
そもそも、若いから恋愛しなくちゃいけない義務でもあるのか。そこまで深く考えて話していないことはわかってるけどさ。
ちょっと若い子の前で偉ぶりたいんでしょ?
それなりに分別のある大人は、軽々しくそんなことを口には出さないもの。いちいちうるせえのは、大体にして持ち上げられたいタイプのオッサンなのだ。
“説教したいお節介”は、私という存在を利用して優越感に浸りたいだけ。違うよ~というかもしれないけれど、そんな風にしか思えない。自分の言葉にどれだけの価値があると思っているのか分からないけれど、私にとっては無価値である。深い!なんて感動したこと、一度たりともはない。
面倒だからと、適当にピックアップした好みにあれこれ注文を付ける。
もっと現実見よう!とか、当たり障りのないことを言って、本当に恋愛したくないの?と食い下がってくる。
ここで私が決行するのは、“こいつ変なのかも”作戦である。恋愛とか、“普通”のことはできないんだなって思わせるほうがラクなのである。
『実はですね~私、こういう小説やら漫画が好きで。その通りの出会いがないと、恋愛に踏み切れないんですね?』的な。
小説やら漫画に話題を切り替えることも出来るし、ガキ過ぎて“まともなお話”をするのがはばかられると思ってもらえたらそれでいい。友だちでもない人と、プライベートな問題が多分に含まれる“まともなお話”をしたいとは思えない。
そんなこんなで3時間くらい耐えれば飲み会はおわる。帰りは決まってひとり。
電車に揺られている間、私が抱えているのはやり場のないもやもやだ。
興味のない説教もどきを聞かされたことも腹立たしいし、自分自身が面倒くささ回避のためにバカな振りをしたことも悲しい。情けなくて、悲しい。
飲み会のあと、家に着くと決まって泣けてくる。普段、気にしてないと思っていることも、いろんな人から一気にいろんな言葉で投げかけられるとしんどい。
ご両親だって孫の顔見たいでしょ?とか、将来ひとりなんて寂しくなるよ?とか。
うちは弟がいるから大丈夫かな、ひとりの気楽さっていうものもありますよ。
必死に口角を上げながらした返事を反芻する。胸の奥がすっかすかになる。
誰に言われなくても、何かしらの覚悟はしている。一人で暮らしている女を、舐めないでほしい。
でも、言えないんだよなぁ。そんな風にして、道化役の私の夜はぶすぶすとくすぶっていくのです。
飲み会は基本的に参加しない。
「変わってるね」
「そんなんだからダメなんだよ」
それほど付き合いがない人に、こんな言葉をかけられるのは苦しいから。その痛みに気づかないふりをして笑うのは、むなしいから。
でも、もう大人になっちゃったしね。空っぽな、どうしようもない夜を過ごすことを受け入れなくちゃいけないときだってあるのだろう。きっと。
そんな夜、みんなのいう“普通”になりたかったとひっそりこっそり泣くのです。
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公式サイト「花筐」
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