見出し画像

“これまで”が急に遠い過去になった今、「危機」を捉え“これから”を掴む企業とは 【前編】

【特別対談】Business Insider Japan編集長 伊藤有氏 × 株式会社マクアケ 木内文昭(前編)​​

【スピーカー】
Business Insider Japan
 編集長 伊藤有氏
【ファシリテーター】
株式会社マクアケ 
 取締役 木内文昭

Withコロナでのオンライン化は企業毎に様々。最初から完成形ではなく日々最適化されていく

画像4

木内 withコロナの環境下で各社さんの対応や社内環境の違いに濃淡あるなと感じているのですが、最近の伊藤さんのご活動はいかがですか?自宅業務になられてからお日にち経ちますよね。だいぶ日常化した感じでしょうか?

伊藤氏 編集部はかなり早めにテレワーク体制に入ったので、ゴールデンウィーク明けでもう2ヶ月になります。在宅でチームワークを進めるいろんな試行錯誤が二巡した感じになってきました。編集部でも、社内コミュニケーションの課題に対する意識は大きいです。記者は各々が個別の分野を担当して取材しているので、一般企業でもよく起こっている、「誰が何しているかわからない問題」とか、一緒にやろうといった時の「温度感」が測りにくいとかが、当初はやっぱり発生しました。あと何事かの相談があるときに、これまではパッと僕の席に来て出来ていたものが、出来ない環境にいきなり変わって「相談がしにくい」状態になってしまった。これをどうしようかっていうのが一巡目でしたね。

画像4

当初は24時間つなぎっぱなしで1人zoomチャンネルみたいなものを作りました。いつでも相談できる環境ということで2週間弱ほど。会議とかは元々そんなに多くなかったというのもあるんですけど、フルオンライン化が問題なく出来たので、一巡目の問題に関しては「みんながフルオンラインでの環境に慣れる」という形でなんとか解決していきました。二巡目がくるとみんながフルオンライン化に慣れてくるので、相談のレベルに合わせて”この内容はzoom”、”これはslackで相談”と自然に切り分け始めました。そうなってくるとzoomに1日いる必要がないかなと感じ始めますよね。実際に誰も入ってこなくなったのでフェードアウトしてやめました(笑)。その代わりとして、ランチタイムの雑談時間を30分、なかば業務として設定してます。今は情報共有、相談事は安定している。といった感じです。

木内 社内環境のオンライン化実現はかなり進んでいらっしゃいますね。では取材とかインタビューとかはいかがでしょうか。ほぼオンラインに切り替わってますか?

伊藤氏 そうですね。お互いに感染リスクを避ける為、緊急事態宣言下では、「基本、オンラインで出来るものは全てオンラインで」という方針にしています。もちろん、現場にいくことが大事な取材もありますし、いわゆる「囲み取材」でしか取れない情報もあります。ただ、全部の取材でそれを強制する必要はない。接触時間を短くする為にまずはオンラインでインタビューし、後日写真だけを撮りに行くなど柔軟に切り替えました。「臨場感ある写真がほしい」と「取材だから会うべき」というこの2つは、必ずしもイコールではない、という考え方です。

木内 社内環境、社外への対応とも、ビジネスインサイダーさんはかなり進んでいると思います。この3週間ほどいろんな業種の大小いろんな企業の方々と意識してお話しさせていただいているのですが、「仕事で使えるPCが足りていないため出社しなければいけない」とか「通信環境が脆弱で業務に支障をきたしている」等のお話も耳にしていまして、組織ITリテラシーというか自宅勤務に対する対応度みたいなものが企業によって大小あると感じています。

伊藤氏 僕も大企業の方達とお話をすると、「情報を持ち出せないから出社するしかない」と、これまでセキュリティ対策として行ってきたことがこのタイミングでは全部真逆に働いているという感じがしていて、そういった企業は急いでPCの手配を始めたりしてますね。

木内 あるPCメーカーの方からお話を聞くタイミングがあったのですが、総じてこの環境下でノートPCの需要が高まっているというお話をされていました。

伊藤氏 企業の規模によってはノートPCを数千台規模で手配しなければいけないケースもあるかもしれません。中古PCマーケットも、すごい台数が急激に売れているという記事が3週間ほど前に出ていました。大企業だと一括購入の手配は出来るのですが、中小の企業だと兎に角PCを買ってくるみたいな感じになって中古PCを購入している流れがあるんじゃないかと思います。

画像6

本来なら10年かけて起こる変化が、ネジを一気に巻いて2、3年に短縮されて起こっている

木内 ワークスタイルもライフスタイルも変わり、「大事なもの」がガラッと変わったと感じていて、伊藤さんがおっしゃったように今まで対面が当たり前だったのが会わなくても結構いけちゃうな、みたいな事があったりして、本当に必要なものの取捨選択の見極めが進むんだろうなと思っています。

伊藤氏 僕は一つは効率化に向かうだろうと思っていて。新しいやり方(遠隔会議など)は効率的だけど、トラブル発生のリスク回避や、漠然とした不安感のために、従来のやり方を採用していたという人は少なくないと思います。でも従来のやり方ができなくなったのが「有事」の今です。で、少し時間が経った時に振り返ってみると、「やり方は変わったけど、アウトプットは変わらなかったね」という事象がかなり出てきて、従来のやり方から完全に切り替わる事も多いんじゃないかと思います。

画像8

木内 製造業などの物理的なもの以外、デスクワーク、会議や企画だったり、打ち合わせをして価値を創出するみたいな仕事に関しては、結構変わるだろうという感じがしています。

伊藤氏 「会社から固定席をなくす」みたいな動きはここ10年ぐらいで進みましたよね。でもそれって営業職のスペースの効率化やコストの最適化みたいな側面があったと思うんです。今が決定的に違うのは、「みんなで集まって働く」という事が短期的に困難になっていて、リモートを受け入れなければ事業継続ができない、という危機感です。これは、今まで進めてきた働き方改革から数段進んだ話とも言えます。この先、10年後にはやっているべきだとみんなが思っていたことを、10年分を一気にネジを巻いて2、3年に短縮されているんじゃないかと感じています。

木内 いろんな考え方がある前提で、この働き方の変化や影響はもちろんコロナによる変化が起点となっているんですが、本来(今後数年かけて)起こるべきはずだった変化が期間短縮されて起こっていると思っています。この環境変化に対応するしか選択肢はないので、それを前提としてどう活動していくかに向き合わなければいけないんだろうと感じています。

画像6

今起こっている効率化・スピードアップの源泉は「危機感」

木内 実はこの環境下で東証一部に上場されているような大企業の社長・役員の方々とのアポイントが増えています。今は企業に訪問しての会話はできないのですが、オンラインミーティング前提の環境下において、経営者のITリテラシーなどによっては企業変革をスピードアップしていく機会と捉えられて、逆に効率的に活動されている方も多いと感じています。実際は(この環境下で活動的になっているか否かが)二分されている現状にあるんだと思いますが、伊藤さんの目から見られて経営者の方々の変化への対応力は何から生まれていると思われますか?

画像9

伊藤氏 企業によって濃淡あるんですけど、今の状況に対する「危機感」以外ないと思うんです。特に大きな会社って守りの機能が充実しているので、普通、トップの役員にはそう簡単には会えない。下から順番に会っていって、ある程度「そのミーティングを要望している人はどんな人物か」というデューデリを済ましてから、ようやく役員に会う事ができる仕組みになっていると思います。でも今は、この守り方のスピードでは世の中の変わり方についていけない。何より、この守りの機能を作っていたのは、経営者ではなくて、実は中間の事業運営者の人達だったりしますよね。その人たちが「スピーディーに情報を上にあげていかないと進まない」というマインドに変わった事が理由だと思うんです。よくいう「企業のトップと現場は危機感がかなり強いけど、中間が動かない現象」が緩和・解消されたからスピードが変わり、会えるようになっているんじゃないでしょうか。

木内 「経営陣とミドルマネージャーの距離」を(オンラインミーテイングの環境下になることで)働きかける側の工夫次第で縮められ、普段だと捕まらない経営者の方々の時間が効率化された事によって、話がしやすい環境に変わっている感じがします。

伊藤氏 別のケースになっちゃいますが、知識人の方達にインタビューしたいと思った時に、通常は本業が多忙を極める方々にはなかなか時間をいただけないんですけど、今は社会が動いていない事が多いので前より対応してもらえる事も出てきていますね。

ーーーー 次回の特別対談(中編)
​​「危機」を「機会」と捉えて新しいスタンダードに適応する企業の条件とは
※5月25日配信予定

key_伊藤有

伊藤有氏:経歴
2000年代初頭から大手IT出版社の雑誌、およびPC/IT週刊誌で、ハードウェアからWebサービスまで、BtoCテクノロジー全般を主戦場に活動。媒体連動のWebメディアの立ち上げや、日本唯一のアップル発表会の現地生放送の企画・出演、3万人規模のコンシューマー向けITイベントの立ち上げ・企画・運営など形式を問わないメディア展開を手がける。編集長代理を務めた後、Business Insider Japan副編集長/テクノロジー統括、2020年1月から編集長。近年はAI/ディープラーニングの産業利用の現状と発展に興味持ち取材を続けている。


画像1