Misakushi

現在は「日本神話と比較神話学」を投稿中。

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日本神話と比較神話学 第二十三回 神々と人間の祝宴 オシホミミ、豊受大神、アリヤマン

神宮創建  神宮いわゆる伊勢神宮とは日本神話の主神・天照大神を祭る皇大神宮(内宮)と豊受大神宮(外宮)の二つの正宮と多数の別宮・摂社・末社からなる、日本において最高の権威を有する神社である。  その創建の由来は人皇第十代・崇神天皇にさかのぼる。  当時、天照大神の神勅(神々からの人間への命令)により、天孫降臨(天皇・皇室の先祖である天孫すなわち神々の王族であるニニギノミコトが地上に降臨したこと)以来、代々の天皇は天照大神の御神体である神鏡と同床することとなっていた。しかし、

    • 日本神話と比較神話学 第二十二回 王はなぜ「西」から来たのか? 神武天皇と五瀬命、ロムルスとレムス、モーセとアロン

      神話の分類  神話学においては神話はより広い口承伝承の領域の中で、伝説や民話に対して位置づけられる。神話は超自然的な存在の介入によってこの世界の起源を説明すると伝承者によって考えられている物語であるとされ、主に特定の地域・時代の事物・習俗の起源を説明する伝説や、「昔々あるところに・・・」と語りだされ地域や時代を特定せず、伝承者が事実とは考えていない物語である民話と区別されている。  さらに神話の内部においても、世界の起源を語る創造神話と登場人物の運命に焦点を当てる英雄神話に

      • 日本神話と比較神話学 第二十一回 続・虚空/葦の芽/遊ぶ魚

        天地の構造(まとめとしきりなおし)  日本神話は、王権を中心に神代と人代の出来事を描いた日本の歴史書・古事記と日本書紀を主要な典拠としており記紀神話と呼ばれるように、古事記と日本書紀(記紀)を中心とした複数の史料(神典)にその内容を拠っている。  そのため、日本神話(記紀神話)には古事記の神話と日本書紀と神話という異なるバージョン(異伝)がある。のみならず、日本書紀に記されている神話(神代)には本文以外に一書といわれる複数の異伝が掲載されているため、日本神話には必ずしも一致

        • 日本神話と比較神話学 第二十回 虚空/葦の芽/遊ぶ魚 天界・空界・地界、女神ヌト・父神シュウ・男神ゲブ

          天地の開闢  日本神話の天地開闢において、最初に現れる神は、いかなる神格であるか。  この問いかけに対する回答はそれほど自明ではない。  日本の神話は古事記・日本書紀(併せて記紀ともいう)という史書の神代(神々の時代)に関する記述を原典(基礎的な典拠)としており、日本神話はまた、記紀神話ともよばれる。記紀神話と呼ぶときには古風土記・新撰姓氏録・延喜式祝詞・古語拾遺・先代旧事本紀などの周辺文献(国学では神典と称される)が含まれることが多い。各神社の縁起・琉球神話・中世神話(中

        日本神話と比較神話学 第二十三回 神々と人間の祝宴 オシホミミ、豊受大神、アリヤマン

        • 日本神話と比較神話学 第二十二回 王はなぜ「西」から来たのか? 神武天皇と五瀬命、ロムルスとレムス、モーセとアロン

        • 日本神話と比較神話学 第二十一回 続・虚空/葦の芽/遊ぶ魚

        • 日本神話と比較神話学 第二十回 虚空/葦の芽/遊ぶ魚 天界・空界・地界、女神ヌト・父神シュウ・男神ゲブ

          日本神話と比較神話学 第十九回 「世界」を孕む母胎 黄泉神、三姓穴神話、ゴンドワナ型神話群

          はじめに  日本神話の創世記において、国土と神々を産んだ(国生み・神生み)偉大なる女神イザナミは、しかし、火の神を生んだ時に受けた火傷がもとで病に伏せ、この世を去ってしまった。(神避り)そこで、それを悲しんだイザナミの夫の男神イザナギは妻を連れ戻すために、死んだ妻を追い黄泉国へと向かった。ところが黄泉国でイザナミはすでにヨモツヘクイ(通説では黄泉国で飲食をすることとされる)をしてしまっていた。そこでイザナミは「あなたと帰ろうと思いますので、しばらく黄泉神と相談いたします。そ

          日本神話と比較神話学 第十九回 「世界」を孕む母胎 黄泉神、三姓穴神話、ゴンドワナ型神話群

          日本神話と比較神話学 第十八回 二重の王権と、暗黒の太陽 ツクヨミ、ヴァルナ、トート

          はじめに  日本神話の月の神とされるツクヨミは天上の主神である太陽神・天照大神、地上の王・スサノオとともに三貴子(みはしらのうずのみこ。国生み・神生み〔天地創造〕の最後に生まれた最も尊貴な三柱の神々)として出現しながらも、誕生の場面を除きごく限られた神話(日本書紀一書・第五段・第十一)にしか登場しない。  世界の多くの神話では月は太陽とともにその誕生を語られ、また神格化された存在としての太陽神と月神のペアも、バビロニア神話のシャマシュとシン、ギリシア神話のヒューペリオンの子

          日本神話と比較神話学 第十八回 二重の王権と、暗黒の太陽 ツクヨミ、ヴァルナ、トート

          日本神話と比較神話学 第十七回 毛皮の男たちの宗教 アメノクマヒト、ミトラ一代記、狗賓と河童

          はじめに  メラネシア・ポリネシアといった環太平洋圏の無文字社会には「異性に閉ざされた社会」である男性結社が広くみられた。日本の民族学者の岡正雄によると「これには未成年者や女子を参加せしめず、加入には厳重な入社式を施行し、時あって異様の服装を纏い怪音を出してその出現を報じ、村々を横行して強奪威圧を敢えてし、あるいは祝詞を述べ、その他種々の行動を試みる」。(『岡正雄論文集 異人その他 他十二篇』大林太良編)  ユーラシア大陸にもこの環太平洋圏の男性結社に相当する集団またはその

          日本神話と比較神話学 第十七回 毛皮の男たちの宗教 アメノクマヒト、ミトラ一代記、狗賓と河童

          日本神話と比較神話学 第十六回 海に沈むアポローン コトシロヌシ、アポローン、一本足の神・夔(き)

          はじめに  コトシロヌシは日本神話の神格である。国つ神(天上世界の神々と対立する地上世界の神々)の王・大国主神の息子の一柱で、託宣の神であると考えられている。コトシロヌシは天つ神と国つ神の国譲りの交渉の場面に現れる。  コトシロヌシ(事代主・辞代主。代わりに言葉を下す神)という名と、国譲りにおいて大国主神の代わりに使者に回答したという神話から、コトシロヌシは大国主神の言葉を伝える託宣(預言)の神であると考えられている。大国主神はコトシロヌシについて「我が子どもの百八十の神

          日本神話と比較神話学 第十六回 海に沈むアポローン コトシロヌシ、アポローン、一本足の神・夔(き)

          日本神話と比較神話学 第十五回 岩窟の中の楽園 天岩戸、エデンの園、ヘスペリデスの園

          はじめに  日本神話において天の神々がいる天上世界は高天の原(たかまのはら)と呼ばれる。その高天の原には天安河(あめのやすかわ)と呼ばれる河が流れているとされている。そして、その天安河の川上には天岩戸(あまのいわと)とよばれる洞窟があり、そこには剣の神(剣の神格化)であるイツノオハバリという神がいるとされる。イツノオハバリは天安河を堰き止めて水位を上昇させて道を塞いでいるので、他の神々は近づけず、アメノカク(通説では「天の鹿児=鹿」の意)という神だけがこの神のもとにたどり着

          日本神話と比較神話学 第十五回 岩窟の中の楽園 天岩戸、エデンの園、ヘスペリデスの園

          日本神話と比較神話学 第十四回「動物の主」と「天の狩人」 大国主神、アメリカ大陸の双子の英雄神・フンアププーとイシュバランケー

          1 はじめに  怪奇・諷刺漫画家の水木しげるは自伝の中で、自身の特異な霊魂に対する考えを紹介している。  このような霊魂観は文化人類学の領域ではアニミズムと呼ばれる。  現在の文化人類学では十九世紀イギリスの人類学者タイラーによるアニミズム論(生物や無生物といった自然の対象に対する、人間による人格の投影)に対する批判から、フランスの人類学者フィリップ・デスコーラの新たに提唱するアニミズム論が台頭しているようである。  デスコーラによると、狩猟採集社会などのアニミズム的世界

          日本神話と比較神話学 第十四回「動物の主」と「天の狩人」 大国主神、アメリカ大陸の双子の英雄神・フンアププーとイシュバランケー

          日本神話と比較神話学 第十三回 海の魔女と犬の子たち 磯良、セドナ、スキュラ

          1 はじめに  阿曇磯良(あづみのいそら)は中世の伝説に現れる海の神である。阿度部磯良(あとべのいそら)ともいう。『太平記』によると神功皇后は三韓征伐に際しもろもろの神々を招いたが、海底に住む磯良だけは顔にアワビやカキがついて醜いことを恥じ、現れなかった。そこで住吉神が舞台をきずき磯良が好む舞を舞わせると海底から白布で顔を隠した磯良が現れた。磯良は海水の満ち引きを操る宝珠を神功皇后に献上し、皇后はそれによって三韓征討に成功したという。磯良は安積氏の祖神であるともいう。  磯

          日本神話と比較神話学 第十三回 海の魔女と犬の子たち 磯良、セドナ、スキュラ

          日本神話と比較神話学 第十二回 民間信仰の神々の体系 竈神三柱、井戸神三柱、厠神三柱、道祖神三柱

          1 はじめに  建築学者・民俗学者であり、「考現学」(都市風俗の観察・記述・理論家)を提唱した今和次郎は論文「住居の変遷」の中で、日本の民家の「土間・板の間・畳の間」という構造が、それぞれ「原始時代・公家時代・武家時代」の住居の様式を伝承しており、さらにそこで祀られている神々も、各時代の信仰を伝承しているという。  行燈(あんどん)が照らす畳の間(座敷の間)には祖先を祀る仏壇、囲炉裏が備え付けられている板の間(床の間)には村の氏神や崇敬神社が祀られた神棚、竈の据えられた土間

          日本神話と比較神話学 第十二回 民間信仰の神々の体系 竈神三柱、井戸神三柱、厠神三柱、道祖神三柱

          日本神話と比較神話学 第十一回 太陽の先導と、風の起源 サルタヒコ、ヴァーユ、ヘイムダル

          はじめに  深層心理学者のカール・グスタフ・ユングは、ブルクヘルツリ(チューリッヒ大学付属精神病院)で奇妙な妄想を語る統合失調症の患者と出会った。彼は太陽に向かい目を細めて首を振っていた。ユングがその理由を尋ねると、患者は「太陽からペニスが垂れていてそれが左右に揺れている。それが風のおこる原因である」と答えた。数年後、ユングはミトラ祭儀書という古代文献の中に次のような記述を見つけて驚愕する。  患者の男の入院はその文献の出版以前であり、男がその記述を読んだはずはなかった。

          日本神話と比較神話学 第十一回 太陽の先導と、風の起源 サルタヒコ、ヴァーユ、ヘイムダル

          日本神話と比較神話学 第十回 料理女と人喰い ウケモチ、メデューサ、馬頭女神

          1 はじめに  フランスの人類学者クロード・レヴィ=ストロースは自然と文化の対立の結節点として料理を論じた。彼は料理の体系を「生のもの/火にかけたもの/腐ったもの」という「料理の三角形」として見出した。  この「三角形」においては文化/自然以前の「生のもの」に対して、自然としての腐敗によって生じる「腐ったもの」と、文化としての調理の結果である「火にかけたもの」が区別され、「火にかけたもの」はさらに、直接的に火にかけられる「焼いたもの」、水を媒介とした「煮たもの」、空気を媒介

          日本神話と比較神話学 第十回 料理女と人喰い ウケモチ、メデューサ、馬頭女神

          日本神話と比較神話学 第九回 文明の創始者と祭祀の創始者 アメノワカヒコ、ギルガメシュ、ジャムシード

          1 はじめに  インドの神話によれば、遍照神ヴィヴァスヴァットの子には最初の人間ヤマと、現在の人間の祖先となるマヌがいた。  ヤマに対応するイラン神話の神格・イマ王(ジャムシード)はその統治で人類に黄金時代をもたらしたが、何らかの理由で神々と対立し罪を犯し、王権を失い殺された。また一説にはイマは不死で、ワラという洞窟で生存しているという。インド神話の最初の人間であるヤマも、最初の死者として、死後の世界を支配している。  一方マヌは神の助けで当時の世界を滅ぼした大洪水を生き残

          日本神話と比較神話学 第九回 文明の創始者と祭祀の創始者 アメノワカヒコ、ギルガメシュ、ジャムシード

          日本神話と比較神話学 第八回 大洪水と竈神 海幸山幸、三宝荒神、シンデレラ

          1 はじめに  かつて大洪水が地上を襲い、洪水を生き延びたわずかな生き残りが現在の人類となったという洪水神話は古代メソポタミアから新大陸の文明に至るまで世界中に残されている。  各地の洪水神話は、いくつかの類型に分類されるが、世界の始まりに陸地はなく水だけが広がっていたという原初水界型や特に洪水の起きた理由を語らない宇宙洪水型を除くと、『創世記』の「ノアの箱舟」の神話で有名な、神々が人間の堕落を罰するために洪水を起こす懲罰型や、神々あるいは人間たちの争いが洪水を引き起こした

          日本神話と比較神話学 第八回 大洪水と竈神 海幸山幸、三宝荒神、シンデレラ