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イルカはサメにもマグロにもならなくていいのです【私にとってはたらくとは】

ベランダに寝転んで夜の空を見上げている。スマホから離れるだけでこんなに自由を感じられるのか。目を閉じれば砂漠にも海にも行ける。

キャンドルに火を灯して、風の動きを観察する。一瞬、風が強くなって火が消えた。気づいたら、黒い空に白い雲が漂っていて、まあまあなスピードで流れている。大海原を泳ぐ魚にも見える。

最近、息をするのが苦しいときがある。仕事が合っていないことはわかっているのに、一歩が踏み出せない。まるで海水魚が淡水の中にいるみたい。


「このままじゃ溺れちゃう…」

大学を卒業して最初に就いた職は、体力的にも精神的にもタフさを求められる仕事だった。入社する前から、そのことは自分でもよくわかっていて、周りからも心配された。若いうちなら無理もできるだろう、数年間頑張ればチャンスも広がるだろうと思い込んで、私は飛び込んだ。

でも、イルカをサメの水槽に入れちゃいけない。私は勝手に傷だらけになった。
逃げるように、サメのいない場所に避難した。


※イルカ=ハンドウイルカ、サメ=ホオジロザメのイメージです。イルカと呼ばれる種にもシャチやオキゴンドウのような凶暴なものがいますし、サメのなかにはジンベイザメのように温厚なものもいます。



転職先はマグロの水槽だった。サメに食われる心配はなかったけれど、小さい水槽に、次から次へといきのいい新人が入ってくる。彼らは泳ぎ続けることが苦じゃないらしい。でも私はまっすぐ泳ぐのが得意じゃなかった。自分を鍛え、成長し続けることが当たり前の環境で、私は泳ぎ続けられなくなった。マグロにもなれなかった。

もうどこの水槽に行ってもダメな気がしてくる。
「働くこと」へのネガティブな妄想が止まらない。

でも待って。マグロのみんなと同じスピードで、同じ方向を向いて働き続けないといけないって誰が言ったんだろう?

「もっと、息を吸うように働きたい…!」

私はまた水槽を出ることにした。決まった時間に決まった量のゴハンをもらえなくなるかもしれないけど、サメに嚙まれたり、マグロに体当たりされたりして溺れるくらいなら、水槽を変えたほうがいい。海に出たっていいし、自分で池を作ったっていいんだ。

マグロの水槽で泳ぎ続ければ、マグロみたいになれる人もいるかもしれない
サメの水槽で戦い続ければ、サメみたいになれる人もいるかもしれない

でも私はイルカのままで生きていたい。
自分のペースで上がったり下がったりしながら、呼吸すればいいんだ。


気づいたら、雲の泳ぐスピードがゆっくりになっている。
また息苦しくなったときは、夜空のイルカ雲を探すことにしよう。



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