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短編【スターゲイザー】 overture 第一話「憧れの人」

憧れの人いますか?

憧れなのか、恋なのか、僕には手が届かない女性(ひと)がいる。

どうしたいのか、わからない。いや、わかっている。話してみたい、もっと知りたい、仲良くなりたい、LINE交換したい、付き合いたい…のか。
そんなこと、できるはずもない。それもわかっている。
僕はとてつもない平凡の男。彼女は、頭も良い、スポーツも優秀、ピアノも弾ける、そして何より…
綺麗。

僕は、彼女を知っているが、彼女は僕のことを知らない。クラスも違う、高校の同級生。
その子の名前は「暮磯ニカ」

僕が彼女を知ったのは高校に入ってからだ。
「くれいそ にか」と読むことはすぐにわかった。男子は皆知っていた。彼女が通れば、みな振り返る。そんな彼女は、学内1位の成績、中学からそうだったらしい。高校では部活には入ってないらしいが、習い事を多くやっている噂。軽く茶色いセミロングの髪、白い肌、強気な眼差し、か細い身体。
…憧れの的。

半年経った今でも声なんてかけたことも、そんな勇気もない。色んなシチュエーションを考えて声をかけようとしたことはある。でも一歩踏み出せない。どれもこれも不自然だから。
はじめが肝心、いや、きっかけなんて何でもいい、でも僕なんかが話しかけても迷惑だろう、明日にしよう。

そう、明日にしよう。

この繰り返しで半年。

今日は学校の文化祭。10月がこの学校の文化祭だ。今日は事件が起きそうだ。

今日こそ、話しかける。他校からも参加可能な文化祭。暮磯ニカさん目当てでくる奴も多くいるはず、それほど有名で人気なのは、この半年で十分にわかった。


僕は、文化祭で弾き語りをする。音楽は好きで、中学からアコースティックギターを練習していた。
部活で軽音に入っていてバンドを組んだが、今回は1人で弾き語り2曲のみで出場することになった。
特に上手いわけじゃない、1年生でもずば抜けて上手い奴は先輩達と組んでメインで出場することになってる。
全部で6バンド。それぞれ、文化祭用にバンド名も表示しているが全てコピーバンドでオリジナルは無し。

その中で、1人、僕が弾き語りに選ばれたのは、毎年ある「新入生弾き語りSHOW」と呼ばれるコーナーに、「くじ」で当たったからだ。実力でも、選抜されたわけでもない。自分はギターも歌も、それほど上手いとは思っていない。
ただ、歌うと落ち着つく、ギターも楽しいしもっと上手くなりたいと思っている。その程度のただの趣味。だから、くじで当たりを引いてしまったとき、青ざめた。文化祭とはいえ、「ステージ」で歌うなんてできないと。

しかし、本番は来た。午前中の部に3バンド、午後がほぼメインの3バンド。6バンド「プラス僕」という状況。僕は午前中の部の最後のバンドの前に歌うことになっているただのおまけ。 

でも逃げ出したい。

そんな気持ちしかないくらい緊張している。早くこの時間が過ぎてしまえば良い。
終わったら、ニカさんを探しに行く。そして話しかけるんだ!今日こそ話しかけるんだ!

AM10時。自分たち軽音学部のライブがはじまった。




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