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【小説】宝塚のトップスターを好きになりました

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宝塚歌劇団に関するエッセイ風小説を書いています。 主人公が宝塚歌劇団のトップスターを好きになり、ファンとして活動していく中でさまざまな人たちと出会っていきます。 そして1ファ…
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#ほろ酔い文学

推しの退団ー宝塚トップスターとの別れー

推しの退団ー宝塚トップスターとの別れー

「椿さーーん!」
「いままでありがとうーーー」

キャーという悲鳴の向こうに、手を振りながら歩いてくる真っ白な人。
ファンクラブという鉄壁の人垣に守られながら、その人は最終地点まで向かっていく。

「椿さん!私たちはいつまでも忘れませんーーー!」
ファンクラブ幹部の号令とともに、朝から並んでいたファンクラブ会員がいっせいに叫ぶ。

「いままでありがとうございました」
彼女はそう大きくない声を発しな

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宝塚大劇場の入り待ち

宝塚大劇場の入り待ち

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宝塚大劇場のある阪急宝塚駅。
この駅に降り立つとなつかしい想い出がよみがえってくる。

ホームからチケット改札までの道のりにある地元銀行の看板。
今でも変わらない、ここでは現在絶賛売り出し中の若手スターが笑顔で迎えてくれる。
これだけでもタカラヅカに来た、という実感で胸がいっぱいになってくるものだ。

花の道を歩く。
道の両脇に立つ桜の木は、新緑を迎えみずみずしい葉っぱが

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大劇場前方席の世界 ー古参ファンAさんの場合ー

大劇場前方席の世界 ー古参ファンAさんの場合ー

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その人は開演15分前にやってきた。
私は緊張と不安のあまり、30分前の待ち合わせのところ45分前からこの門の前で待っていた。

これから開演の舞台チケットを今現在私は手にしていない。
「掲示板」で知り合った人に譲ってもらうためだ。

待ち合わせ時間である30分前からはもう心臓のドキドキがおさまらない。

「このままこなかったらどうしよう」

このあとの公演チケットも持って

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前方席デビューと予科生時代からファンというパワーワード ー古参ファンAさんの場合ー

前方席デビューと予科生時代からファンというパワーワード ー古参ファンAさんの場合ー

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緞帳がほんの少しゆらゆらと揺れている。
その厚い布の向こうから、かすかな音が聞こえる。

舞台の幕が開いた。

さっき聞こえたあの音は組子さんたちの足音だったらしい。

(すごい、こんなに前に座ると音が聞こえるんだ)

私は心の中でつぶやいた。

ストーリーはこうだ。
ある青年にはある目的があり、それを果たすために奮闘する。そこでとある女の子と恋に落ちるがそれは叶わぬ恋だ

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前方席の一撃 ー古参ファンAさんの場合ー

前方席の一撃 ー古参ファンAさんの場合ー

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二幕のショーが始まった。
今回が初演になるこのショーは、前評判が高く自然に期待値もあがる。

幕開けから煌びやかな衣装を身に着け、トップスター「聖夜 椿」が登場だ。
驚くほど細い体に小さい顔。それに長い両手を大きく広げながら、悠然と真ん中に立った。

近い!も、ものすごい近い。

急に息苦しくなって、気づくと喉がごくりと鳴った。

(息をのむってこのことだ)
本当に息が飲

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