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調香師とことばたち:インタビューから

2023年5月にスタートした「香りを巡る旅」。
香りの文化にまつわる人や場所を訪ね、インタビュー記事やエッセイにするシリーズを通じ、調香師の方々からお話を伺うチャンスにも恵まれました。
本noteで公開中の調香師へのインタビュー記事より、特に印象に残った言葉たちを紹介します。

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湖山 友希さん (SODE パフューマー)

「その頃はまだ、調香がしたいという漠然としたものでした。具体化したきっかけは、出産を経て子育てをしながら、自分が本当にやりたいことをやるのはどういうことなんだろう、と考えはじめたことでした。やっぱり調香がしたいから自分が作りたいものを作る。そうなった時に、じゃあ自分が作りたいものは何だろうと考え始め、そこから具体像を固めていきました。」

湘南の辻堂にアトリエを構える湖山さんの透明感ある世界観に惹かれて訪ねたときのこと。
湖山さんは大学院で生命化学を専攻したのち、大手香料メーカーに研究員として就職。働きながら調香師の学校に通っていたという流れで独立の経緯を伺ったときの返答。
このシンプル&直球すぎる言葉に度肝を抜かれたというか、心を洗われたようになった。そうだよね、好きだからやるんだよねと妙に納得してしまった、力強い言葉。

「最初にストーリーを考えて、物語のキーとなるシーンをいくつか思い描きます。このシーンにはこの香りというイメージが出来上がると、それを言葉で書き出してキーワードを抜き出します。…思い描くシーンの半分は実体験からきているので、その時の香りを思い出したり、もしくはこんな香りがしてそうだな、と想像したりします。その時にこんな香りがしたかもしれない、ということからもインスピレーションを受けています」

湖山さんの寝具専用のリネンウォーターブランド「SODE」の世界はどのようにできあがるのか。小説や映画作りのようなプロセスは聞いていてわくわくした。シーンの多くが実体験と言い切ってしまうところに、ストレートな人柄を感じた。

記事はこちらから:


Laurence Fanuel 

「調香の学校ができ、科学的に教えるようになったのは1970年代に入ってからです。それまでの調香師というのは、教室の隅っこにいるようなタイプが就く職業でした。数学の授業は上の空。知覚が発達し、違った見方で世界を捉えていたのです」

ローランスはベルギー出身で現在は南仏グラース を拠点にしている。大学で生化学の博士号を取得後、世界的なメーカーや香料会社で調香師のキャリアを積んだ。調香における感性と科学の関係についてたずねた時のこの言葉から、「香り」の本質を思わせる情景が浮かびあがってきて、私の心をとらえた。

油絵の製作も行う創作のエネルギー溢れるローランスは、香り作りについてクリエイティブとロジックの両面から雄弁に語ってくれた。

「私にはアーティスティックな面もありますが、フレグランス産業で働き、合理化すべきところを合理化することにも面白みを見出しています。

調香師には知覚で調合した香りを分子情報に置き換え、客観化する役割もあります。フレグランス製造者は翻訳者であると言えます。官能と言葉、言葉と分子の間でよいバランスを探しに出かけるのです。

(試験管の中で)足して、引いてのバランスを合理的に判断していきます。何かを減らすことで、メッセージが引き立つという点は、まさに絵画と共通しています」

滔々した大河の流れのように次々と繰り出される魅力的な言葉に、聞いていてうっとりしてしまった。自らの仕事を詩的に語るのは、フランス語の魅力の一つだ思う。

そして、仕事への姿勢をかたった言葉。

「製品の使用が楽しくなるような、笑顔のこぼれる香り。これはどこまでも続くチャレンジですが、人々を笑顔にするのが好きならば、挑戦したくなるものです。

この仕事は繊細で豊かな感性を必要とし、とても人間的。だからこそ学べることがたくさんあります。私たちはそういうところに惹かれています。そうでなければ想像を絶する作業量、試作、何度もチャレンジする精神力が求められるという点で、なかなか報われることがない職業でもあるからです」

彼女のほとばしる熱量が言葉からもあふれている。


ローランスのアトリエにて
ローランスのラボの様子

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Didier Gaglewski

「その人はキャリアの終盤に差し掛かった素晴らしい調香師で、これまで培った全てを次世代に伝えるべく、惜しみなく色々なことを教えてくれた。僕にはラッキースターがついているのかも」

ディディエは先に登場したローランスを通じて知り合った。彼女のアトリエの向かいにディディエが自身の香水のブティックを構えていたのだ。

ローランスがいつもエネルギーに溢れ元気いっぱいなタイプなのに対し、ディディエは静かで落ち着いていて、好対照なのが面白かった。
国鉄の技師から調香師に転身するまで紆余曲折があり、聞けばいろいろな面白いエピソードがでてくるが、それを語る口調が実に淡々としているのでそのギャップに驚かされた。そしてさらりとラッキスターなどとを言ってのける。

「釣りと一緒で、魚が寄ってきてもすぐに竿をあげないんだよ」

これはブティックにお客が入ってきたときの言葉。ディディエは生来人好きで一度話はじめると、売れる売れないに関わらず丁寧にその人と接するが、いつも話しかけるタイミングが絶妙だった。

「本物のオイルの香りに近づけるか、身に纏える香水にするか、その振れ幅は無限にある。どこに着地点をもってくるかも、創作のポイントだね」

はじめて作った(売り出した)香水はガレージ(車庫)をイメージしたそうで、作業場に漂うオイルの香りをどう表現するか語ったときのもの。
自身のブランドをもつディディエはクリエーションにおいて一定の自由をもっているが、この言葉から創作におけるバランス感覚をみた気がした。
彼はまたこんな風にも言っていた。

「市場(トレンド)から離れていると、いいことも悪いこともあるよ」


ディディエのブティックにて


接客するディディエ

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今年一年、どうもありがとうございました。
来年も記事をアップしていきますのでどうぞよろしくお願いします。


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