香りを巡る旅|aoi minakami

日仏を舞台に香り文化を巡る、旅とテキストによるプロジェクト。 2023年にスタートし第…

香りを巡る旅|aoi minakami

日仏を舞台に香り文化を巡る、旅とテキストによるプロジェクト。 2023年にスタートし第一期では、調香師へのインタビュー、記憶と官能に関するエッセイなどを公開します。 Website : https://levoyageolfactif.studio.site/

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[香りを巡る旅] プロジェクトと記事紹介

こんにちは。「香りを巡る旅」を運営しているaoiです。 2023年5月にスタートした本プロジェクトですが、9月のフランス取材を経て、読んでくださる方が増え始め、とてもうれしく思っています。 記事も少しずつたまってきたので、ここで改めてプロジェクトや私自身、これまでの記事についてご紹介したいと思います。 「香りを巡る旅」とは「香りを巡る旅」は香りの文化にまつわる場所や人をたずね、記事やエッセイで紹介する、テキストと旅によるプロジェクトです。 「香水」や「お香」でなく「香

    • 【調香師の横顔】 Suzy Le Helley

      2024年4月17日に、Acne Studiosより同ブランド初となる香水が仏の高級香水メゾン、フレデリック マルとのコラボレーションにより発売された。 調香を担当したのは仏シムライズ社のSuzy Le Helley スージー・ル・ハレ(32)。VOGUE Japanの記事によれば、フレデリック マルへの最少年での起用となる。 私は偶然にも2023年9月にパリでスージーと面会する機会があった。 彼女は香料の原料となる植物の産地を世界各地にたずね、インスタグラムに数々の美し

      • 香りを巡る旅〜2024年5月 南仏グラースへ

        みなさんこんにちは。 「香りを巡る旅」を運営しているaoiです。 2023年にスタートした「香りを巡る旅」は、香りの持つポエジー(詩)を求め、香り文化にまつわる場所や人をたずねて記事やエッセイで紹介するプロジェクトです。 「香水」や「お香」でなく「香り」としているのは、製品だけでなくそれが出来上がる背景、花や植物の香り、自然、産地、そこに関わる人々に焦点をあてているからです。 昨年9月にフランスへ第一回調査旅行へ行き、レポートを順次掲載していましたが、今年に入って更新が

        • 香りに関するエッセイ・小説 3選

          あけましておめでとうございます。 昨年5月にスタートした「香りを巡る旅」を本年もよろしくお願いします。 去年は「香り」に関する本を歴史や科学的なものを含め30冊ほどよみましたが、その中で出会った本を三冊ご紹介します。 読みものとして面白く、かつ香りの世界を素敵に描いているエッセイ、小説をセレクトしました。 「調香師の手帖 香りの世界をさぐる」中村祥二  (エッセイ) 一番好きな本。そしてとても役立つ本。 資生堂でチーフ・パフューマーを務めた著者の「香り」に関するエッセイ

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        [香りを巡る旅] プロジェクトと記事紹介

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        • エッセイ
          7本
        • インタビュー
          5本
        • 現地レポート 2023 フランス
          7本

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          調香師とことばたち:インタビューから

          2023年5月にスタートした「香りを巡る旅」。 香りの文化にまつわる人や場所を訪ね、インタビュー記事やエッセイにするシリーズを通じ、調香師の方々からお話を伺うチャンスにも恵まれました。 本noteで公開中の調香師へのインタビュー記事より、特に印象に残った言葉たちを紹介します。 *** 湖山 友希さん (SODE パフューマー) 「その頃はまだ、調香がしたいという漠然としたものでした。具体化したきっかけは、出産を経て子育てをしながら、自分が本当にやりたいことをやるのはどう

          調香師とことばたち:インタビューから

          森の香りはどんな香り?

          一つ前の記事で、洗剤や石鹸などへの香りづけに使用される「機能性フレグランス」に書いたが、このカテゴリーの中で秀逸だなと思うものに、入浴剤バスクリンの「森の香り」がある。おもに使っていたのは子供の頃だが、香水を含めた森の香り、ウッディ系の中で今でも私の中のナンバーワンだ。 香水を見に行って好みの香調を聞かれると、甘いのは苦手だが、かといって柑橘類のシトラス系だともの足りなく感じるので「森の香り」か「ウッディ系」と答えることにしている。実際、この系統でいい香水があれば欲しいと常

          森の香りはどんな香り?

          石けんの香り

          ある時、日本でも売り場を増やしている北欧の高級香水店で「こちらはムスク調の香りです」と説明を受けたので、「ムスクってどんな香りですか?」と尋ねた。 ムスク(麝香=じゃこう)はジャコウジカからとれる香料で、一般的に甘くパウダリーな香りと形容される。ムスクそのものの香りは天然と合成、両方をかいだことがあるのだが、いずれもはっきりと香りを感じることできなかった。すごく有名な香りなのに、感覚的に捉えることができない。それでこんな質問をしたのだった。 すると二十代の女性店員が「まあ、

          【現地レポート③】 香りの都 グラース: Aromatic FABLAB

          グラースの自然に囲まれて丘の中腹にあるグラースの旧市街から、バスでぐるぐると山道を下り、麓にある村の一つMouans-Sartoux(ムーラン・サルトー)に Aromatic FABLAB (アロマティック・ファブラボ、以下ラボ)がある。 朝8時半、ラボの前で待っていると早くも干し草のハーブのような香りが漂ってくる。間もなく以前からメールでやりとりしていたラボの事務方を担当するレティシアが現れた。 門をくぐると、低い山並みに囲まれた、開けた大地が広がっている。山から顔を出

          【現地レポート③】 香りの都 グラース: Aromatic FABLAB

          【現地レポート②】 香りの都 グラース: 花栽培再興への道

          (前回の記事:グラース 香水と花栽培の歴史) ルネサンス期の香りつき手袋から始まり、地理的条件をいかした花の栽培、天然原料から香料への加工、そして調香技術で香水の街として発展してきた南仏の街グラース。今日においてもグラース産のローズやジャスミンといえば、高級香水にも使用される付加価値の高い花として知られているが、第二次大戦以降、花の栽培数は激減し、2000年初頭には数軒の農家が残るのみとなっていた。詳しくはこちら Les Fleurs d'Exception du Pays

          【現地レポート②】 香りの都 グラース: 花栽培再興への道

          【現地レポート①】 香りの都 グラース: 香水と花栽培の歴史

          グラースの地理ニースからグラース行きの電車に乗ると、列車は南仏の小さな村や町を海沿いを走っていく。コートダジュールの青い海を左手に、アンティーブを通り過ぎ、30分ほどでカンヌに着くころには乗客の大半は下車している。そこから進路は北にそれ、残り30分は内陸の丘陵地をぼちぼちのぼる。 グラースの旧市街は丘の途中、標高300メートルのところにある。 南北に長いグラースとその周辺地域は海抜が100~1000メートルにまで及ぶのが特徴で、様々な植物が自生し、また栽培されている。 地

          【現地レポート①】 香りの都 グラース: 香水と花栽培の歴史

          【インタビュー】 調香師 Didier Gaglewski : 軽さと楽しさで遊ぶ 〈後編〉

          調香の学校を卒業すると、グラースにある原料工場に就職し、あるベテラン調香師のもとで学んだ。ひと昔まえの調香は父から子へと一家相伝で伝えられる類の技術であった。現在では数は多くないが学校で学ぶことができる。しかしそこを出たからといって一人でなれる職業ではないそうだ。 職場で二千とも三千とも言われる香料に触れながら個々々の香りを記憶しつつ、経験豊かな調香師から香りの組み立て方について細かい指導を受ける。 「その人はキャリアの終盤に差し掛かった素晴らしい調香師で、これまで培った

          【インタビュー】 調香師 Didier Gaglewski : 軽さと楽しさで遊ぶ 〈後編〉

          【インタビュー】 調香師 Didier Gaglewski : 軽さと楽しさで遊ぶ 〈前編〉

          客がいない時は表へ出て、斜向かいにアトリエとギャラリーを持つ陶芸家のサンドリーナと立ち話をしている。私が出たり入ったりするのを見かけると、手を振るか、声をかけてくれる。2023年9月、初めてのグラース滞在でディディエのところで部屋を借りられたのはラッキーだった。一週間に渡る香りの調査にやってきて、こうして自然な形で知り合えたのだから。 調香師のディディエは、私がグラースにやってくるきっかけとなった、同じく調香師のローランスのアトリエの向かいに店を構えて15年ほどになる。彼が

          【インタビュー】 調香師 Didier Gaglewski : 軽さと楽しさで遊ぶ 〈前編〉

          ジャン=クロード・エレナとイチジクの葉

          以前から漠然とあった香りへの興味に対し、もう少し踏み込んでみようか、と思ったきっかけの一つにジャン=クロード・エレナの著書「香水」がある。エレナはエルメスの専属調香師をつとめた世界トップクラスの調香師で、当時は知らなかったが、以前愛用していたエルメスの香水「ナイルの庭」と「Voyage d’hermes」もエレナによるものだ。 本の中ではエルメスの香水「庭」シリーズの第一弾と二弾である「地中海の庭」、「ナイルの庭」の製作について語られているが、その発想やプロセスはとても刺激

          ジャン=クロード・エレナとイチジクの葉

          花の香りは獣の香り?

          フランスで何人かの調香師に会うにあたって、日本の線香を持参した。 香りものは人によって好みが分かれるので気を遣う。こちらが心地よく思っている香りを、相手も同じように感じているとは限らないし、ましてや鼻を職業にしている人たちだ。持っていくべきか直前まで迷ったが、まあ話のタネになればいいやと、軽い気持ちで慣れ親しんだ線香を一箱だけもっていくことにした。 今回は南仏のグラースとパリを訪れ、現地で遠慮がちに差し出してみると、みな知らない香りに興味しんしん。「家でお香を焚くのも大好き

          花の香りは獣の香り?

          【写真レポート】 香りを巡る旅 : 南仏グラース 2023

          3週間に及ぶ、南仏グラースとパリでの香りを巡る旅を終えて帰国しました。わずかなコンタクトを頼りに出発しましたが、思いがけない多くの出会いがあり、たくさんの収穫がありました。 出会いの中で多くの対話があり、色々な人のストーリーを聞くことができました。これから少しずつ記事にしていこうと思っていますが、まずはグラースの写真で速報をお楽しみください。

          【写真レポート】 香りを巡る旅 : 南仏グラース 2023

          調香師の仕事

          調香師と聞いて、どんな仕事を思い浮かべるだろうか。多くの人が香水の調合をイメージするかもしれない。しかし実際の調香は石鹸やシャンプー、化粧品、洗剤など、カバー範囲が広く、香水はそのごく一部にすぎない。さらにお香やルームフレグランスなど、生活空間に取り入れる香りもあり、こうやって見渡すと身の回りには実に多くの香りの製品があり、その種類は日増ししている。一方で、調香の仕事が表にでる機会は依然として少ないし、その道を志すためのはっきりとした道筋もない。 日本で調香師として職を得る