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季節の香り

ここ1、2年、風の中に、あるいは空気の中に漂っている植物の香りを敏感に感じるようになった。
数年前に「香り」を意識するようになってから、身近にある自然や花により注意を向けるようにはなっていたが、やはり去年「香りを巡る旅」を始めてからの変化というのはとても大きい。

近所に咲くクチナシの花

例えば、少し前はいたるところでクチナシ(ガーデニア)の花が匂いを放っていた。甘い中に、青りんごのような青さを含んだ香りは、雨上がり特にはっきりと感じることができる。
離れていてもわかる強い香りなのに、去年はじめて道を歩いていて「このいい香りは何だろう」と辺りを見回し、それがクチナシであることを知ったのだった。
今まで気づかなかったなんてどうかしているとしか思えない。それほどこの花の香りは分かりやすい。一体どんな風に生きていたんだろう、と過去の自分を訝しんでしまう。

雨上がり 露に濡れたつぼみが美しい

今年はネムの木の香水のことを写真つきで書いている人がいて、「この花、駅へ行く道の脇に咲いているけど、香りがするんだ」と、あわてて終わりかけの花を確認しにいった。
クチナシと違って木のそばによるだけでは分からないが、鼻を近づけるとはっきりと感じることできた。それは桃の果実の香りだった。思いがけない発見に驚いた。

ネムの木の花

香りの出所がどこかはっきりしない時もある。例えばよく通る原生の雑木林を残した公園は、歩いているとメープルシロップのような甘い香りが漂ってくる。最初は気のせいかと思っていたが、いつも同じ場所で同じ香りがする。辺りに花は咲いていないし、近くにある木のいくつかに鼻を近づけても何も感じない。落ち葉や実も拾ってみたが、同様。今では何かの樹皮の香りだと、勝手にに思っている。

去年知った香りにもう一つ、イチジクの葉がある。ほのかに甘く、青い、大好きな香り。葉の持つ甘さ、苦さ、青さなどは、木の若さや植っている場所によって異なる。

イチジクの木

今までもきっと、色んな香りが鼻孔をくすぐっていただろうに、多くは意識されないままだった。でもこうやって、空気の中には微細な香りが入り混じって、体は知らず知らずにそれを感じ取っていたのだろう。そしてそれらが「季節の香り」を構成し、光や風など共に「季節の記憶」として積み重なり、季節が巡ってくるたび「ああ、今年も来たな」と思うのだろう。

それは世界との新しい対話で、とても心地いい体験だと感じている。

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