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「香りを巡る旅」について (2024)

香りの持つポエジー(詩情をもとめて)

香りを巡る旅は、香りの持つポエジーを求めて、日仏を中心に香りにまつわる場所や人を訪ねる、旅とテキストによるプロジェクトです。

2023年5月にスタートし、序章として調香師へのインタビューや香りに関するエッセイを本noteへ掲載を開始しました。

フラコン(香水瓶)の背後にある文化

プロジェクトの第1期は「フラコン(香水瓶)の背後にある文化」をテーマに、製品としての香水だけでなくそれらが生み出される背景、香料の原料になる花の栽培地、香料、そして調香師による調香などをとりあげます。

同テーマのもと23年9月と24年5月にフランスでの調査を実施。
バラやジャスミンなど香料植物や香水作りの産地で「香水の都」として知られる南仏のグラースと、新旧様々な香水店や調香師が集まるパリを訪れました。

2度の調査を通じ、「香水の都」グラースは近年大きな変化の途上であることが分かりました。

グラースは18世紀の終わり以来、香料植物の栽培や香料の製造、そして香水作りで発展した「香水の都」として知られてきましたが、第2次大戦後は花栽培の海外移転、天然香料から安価な合成香料への置き換え、世界的な香料会社の再編等で、かつての地位や名声が弱まっていた時期もありました。しかし近年「香水の都」のアイデンティティの元に行政や香水産業の関係者が集結、新たな歴史のページを描こうとしています。

例えば花の栽培は2000年初頭には消滅の危機に瀕するほど衰退していましたが、この20年ほどで新規就農者が増え、花の生産量が再び増加しています。
背景には、長年培われた農業技術や伝統継承への思いの他、人々の自然への意識の高まり、若手参入による農業スタイルの現代的な変化などが挙げられます。そういった動きは今日の香水文化のトレンドとも連動しています。

今後も変化の途上にあるグラースを起点に、進化する21世紀の香り文化を眺め、25年を目処に一冊の書籍にまとめたいと考えています。


香りの持つポエジー(詩情)とは?

さて、「香りを巡る旅」ではプロジェクト全体を通じてのテーマが「香りの持つポエジー(詩情)を求めて」となっていますが、「香水」でなく「香り」、そしてそれらが持つ「ポエジー」と、プロジェクトの指す範囲が広すぎたり、抽象的だったりします。それは私が詩を書くためで、それがそのまま取材スタイルにもなっているからです。

フランス取材のテーマである「フラコン(香水瓶)の背後にある文化」を例に、もう少し詳しく述べてみたいと思います。

我々が一本のボトルを手に取るまでには、原料となる植物の栽培(香料には化学的に合成する人工香料もありますが、ここでは天然香料について述べます)、香料への加工、調香師による調合など様々な過程を経ています。

そこには自然との対話があり、素材とのコンタクト(接触)があり、調香師の描く世界があります。植物、香料、香水など、香りの持つ心地よさ、大地の詩(うた)、リズム、そこに携わる人々の思い…それらが持つポエジー(詩情)を聞き、描きたいと考えています。

社会の変化と連動するグラースの香水文化

また近年のグラースの変化は、社会の変化とも連動している点にも着目しています。かつては5000軒ほどあり、2000年初頭には数件にまで減少していた香料植物の栽培農家は、現在は50軒ほどまでに回復し、うち2軒に1軒は新規就農者です。

彼らの多くは異業種から転向した若い世代で、彼らを支援する花の生産者団体とともに、現代的な合理性や自立精神、環境意識を持ち、グラースの伝統的な栽培ノウハウを継承しつつも、農業経営に新風をもたらしています。
そういった変化の中で、彼らと取引する香料メーカーや香水メーカーとの関係も変わってきているといいます。

興味深いのは、若い世代の社会に対する価値観や問題意識は、花の栽培家だけでなく、よりクリーンな香料抽出技術を研究する香料メーカーの研究者、若手調香師の感性、そして製品を選ぶ消費者意識など、社会全体の意識と通じていることです。

フランスを訪れ、現地の人たちと話す中で、少しずつそういった潮流を感じ取っています。取材は会話をベースにし、話し手の中にあるポエジー(情熱や感性、人間性など)を感じ取り、私自身のポエジーと交流させることで、関係を深めていっています。

今後も「香り」を起点にした対話で、現代社会の変化におけるポジティブな側面(実際に彼らは行動している!)を大きな流れとして描いていきたいなと考えています。

現在配信している現地レポートやインタビューは、取材経過の共有や整理も兼ねているためレポート要素が強いですが、もう少し時間を置いて、香りの持つポエジーをエッセイや書籍等で描いていきたいです。


日本とフランス 香りの交流を目指して

現在プロジェクトはフランスでの取材をもとにした書籍の企画を中心に進めていますが、これは冒頭でも述べている通りプロジェクトの第1期にあたります。

プロジェクトは日仏を舞台にしており、将来的には日仏の調香師によるセッションやアートプロジェクト、講演会を開催できたらと考えています。アートプロジェクトについてはまだ初期ですが、プランが進行中です。

そのため日本における香りの調査も並行して行っています。
日本にお住まいの香りの関係者のみなさま、また何かの折にコンタクトさせていただくこともあると思いますが、その際はよろしくお願いいたします。

まだまだ始まったばかりの壮大な「香りを巡る旅」。
旅の行方をどうぞお楽しみに。

運営者、問い合わせ先
このプロジェクトは作家(詩、エッセイ、ストーリー)、フランス語通訳のaoi minakamiが運営しています。詳しい経歴やお問い合わせ先は下記web siteをご参照ください


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