捉えられない ; 「香り」という言語
「季節の香り」というエッセイの中で、それまで意識していなかった身の回りの香りを感じ取れるようになってうれしい、と書いたが、香ってもうまく把握できないというか、捉えられない香り…というのもある。
その一つがムスクで、「石けんの香り」でも触れたが、何度香ってもいまひとつピンとこない。とある調香師のアトリエでムスクの合成香料をかがせてもらった時は、希釈されているためか上手く感じ取れなかった。また京都にある江戸時代から続くお香のお店で、干からびたジャコウ鹿の香嚢(ここから得る分泌物がムスク)をかがせてもらった時も、あまり匂いがしなかった。
ジャコウジカの香嚢から分泌されるというジャコウ(=ムスク)は強い獣臭だが、ほんのわずかだけ使用するとなんとも心地よい香りがするという。
元の香りがどれだけ強烈なのか、怖いものみたさで知りたいと思うし、それ を希釈するとどんな芳香に変わるのかもすごく気になるけどまだ機会がない。
最近はムスクそのものでなく、ムスク調の香水を色々試している。
ナルシソ ロドリゲスのfor her シリーズはどれもムスク調の香水と説明をうけたが、もちろんそれぞれ香りが違う。ジョー マローンのムスク調の香りも試し、「ムスクノート」ってこんな感じかな、と何となくわかってきたが、それでも「ムスク」の香りはわからないままだ。
香っているのにうまく捉えられないというのは、植物の香りでもある。
例えばバラは品種によって色々な香りがあり、バラ園などで一つ一つ香ってみるのだが、違いが分かっても、花ごとの香りをうまく記憶できない。さっぱりとか、甘めとか、大雑把な違いは分かっても、それ以上に自分が感じている要素をうまく分解したり、言語化できない。
この触れているのに、上手く脳が処理できずにいる状態は、外国語の単語を覚えるのと似ている気がする。ネイティブの人に「この単語は〇〇というんだよ」と教えてもらっても、うまく聞き取れない、発音ができない、記憶できない、等で定着に時間がかかる語というのがある。
聞いている(かいでいる)のに、上手く捉えられない、使いこなせない、というもどかしさがとてもよく似ている。
話は少しとぶが、こないだハーブのエッセンスがついた試香紙が配られて、「何の香りがあててみてください」とクイズみたいに出題される機会があった。ある香りを渡された時、「なんだか南仏の台所のような香りがするけど…」と乾燥パセリのようなものを思い描いたが、答えはローズマリーだった。家の庭にも植っている馴染み深いローズ マリーを当てられなかったことはショックだったが、これも難易度の高い単語をたくさん詰め込みすぎると、基礎単語を忘れたりミスしたりする語学の勉強にいているなと思った。
「香り」という捉えがたい言語獲得の旅は、まだまだ続きます^^
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