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短編小説集『すべて失われる者たち』を読んで


はじめに

短編小説集『すべて失われる者たち』をいただけたので、読後の感想を書かせていただきます。

『すべて失われる者たち』を読んで

人生は単純なのかもしれない。だけど、私たちの感情によって、複雑になる。葛藤が生まれ、痛みが心を支配する。

本作は、それでも『前に進む切なさ』を描いているのではないだろうか。
『生きることのミステリー』を描いたというこの短編集を読んで、生きていること自体がミステリーなのかもしれないと思わされた。

『人生の生きづらさ』『葛藤』そして『それでも生きる』ことをテーマに据えたこの本は、生きることの本質と、その中に潜むミステリーを掘り下げいる。おかげで、読んでいる私は常に淡い痛みを感じていた。
しかし、この痛みがなぜか『心地よい』と感じてしまうのは、書き手が作品の中に、五感を刺激する要素をふんだんに取り入れているからかもしれない。

例えば、『ロンドンコーリング』という曲、冷凍のカルボナーラ、そしてバニラの匂いとか。

このおかげで、読んでいる私は、すぐ近くにある情景を思い浮かべることができた。そして、日常に溶け込んでいる強烈な感情の渦中にいるかのような感覚を覚える。

この圧倒的な日常表現と感情表現の融合が、『心地よい』と感じられた原因なのだろう。
もしかしたら、書き手も人生の辛さや痛みを真正面から受け止め、この短編集を書き上げたのではないだろうか。
読んでいて、そう思わずにはいられなかった。

私の特に好きな作品を最後に紹介する。
『鳩時計』という作品。
なぜ気に入ったかというと、台風が来る前日の独特の雰囲気が舞台となっていて、『ぬめっとした台風前日の独特の湿気』が、話の内容とあまりにもマッチしていて、心がざわついたからだ。
このような細やかな観察と表現の仕方は大好きなので、ぜひ皆さんにも読んでいただきたい。

全体を通して、本作は人生における苦悩や葛藤、そしてそれらを乗り越えていく過程の中に見出される『希望と解放』の瞬間が絶妙に織り交ぜられていると思う。
葛藤の中で見出される美しさとは何か、人生を豊かにするものは何かを問いかける『すべてを失った者たち』

今夜からまた、1話ずつじっくり読みなおしていきたい。

素敵な作品をプレゼントしていただき、本当にありがとうございました。


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