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【読書】「木挽町のあだ討ち」怒涛の伏線殺法!

女物の衣装をまとった武士、菊之助が父のかたきと称して大柄な博徒、作兵衛を斬った。

かたき討ちの現場にいた5人の目撃者が、それぞれの出自と菊之助について語る。

爽快な時代小説かと思ったらこんな挑戦的な作品か!

全編がインタビューみたいな読者への語り掛け形式で、話が前に進まず、回想で過去が明らかになっていくから、軽快ではない。

ゆったりゆったりスロースタートで、3人目でアクセルがかかってきて、最後に伏線がきれいに畳まれていく。

木挽町が劇場の町で、かたき討ちも芝居がかったものだったこと、そもそもインタビューして回っているのは誰で、そもそも菊之助の父は本当に作兵衛に殺されたのか、最後にわかる。

読み終わったとき、伏線回収!
と使い古されたフレーズが出た。

いつの間にか、伏線って言葉がネットにあふれてませんか!?
お笑い好きの人はピンとくると思う。
数年前からM1グランプリのレベルが上がってきて、漫才に「伏線」というワードが使われるようになった。
頭のいい感じの漫才で、話の途中に客の頭にひっかかるフレーズを入れておいて、あとで種明かしすること。

お笑い以外の世界のでも、時間をあけて解決することは何もかも「伏線回収」ってことに納得していた。
なのに肝心のミステリーで伏線を回収したときに
「あの発言が伏線だったんだ」と感想を言っている人を見かけない。

いい機会なんで「伏線」で調べてみたら、そこまで使い方がきっちり決められてる言葉でもない…のか?

5人の目撃者は芝居小屋の関係者。
人を斬ることで名誉が保たれる「かたき討ち」の制度にガチガチに縛られた武士を、スターでありながら身分が低い、特殊な職であった芝居小屋の職人たちはどう思っていたのか。どのような形で関与したのか。

芝居のなかで「ウソの殺し」を見せて楽しませるプロたちは、本物の殺しを全うしようとする菊之助をなぜ止めなかったのか。
芝居小屋というのは「悪所」で、真っ当な生き方ではないとされている5人が、一種類の生き方しか知らない若者にアドバイスしてやってる感じが温かい。
作者の経歴が「新聞社から小説家」で、お堅い職業からウソで楽しませる側に回ったのも、なんとなく関連性があっておもしろい。

【無料立ち読み版】
椿は花ごとぽろっと落ちるから、首が落ちるようで武士には嫌われていた。この表紙はすでに首が落とされたことを暗示している。
本を開いたときには既にあだ討ちはなされている。

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読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。