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【読書】火垂るの墓は急にガンダムにならない。「宇宙の戦士」

ロバート・A・ハインライン「宇宙の戦士」新訳版を読みました。

「パワードスーツ」を着て戦うSF小節で、数多くの漫画、アニメに影響を与えた作品です。最初にハヤカワSFで翻訳、刊行されたのは1967年とある。
カバー絵のいかにも「ちょっと前のロボットアニメ」っぽいイメージで読んだ。原題がSTARSHIP TROOPERS。
そのイメージからするとすごいギャップがあった。

「機動歩兵」部隊の主人公が学生時代からの回想をはじめる。
金持ちの息子で父に歯向かい、勢いで軍隊に入るものの、上官に鼻っぱしらを折られ、少ない食料で寝る暇も与えられない走り込みを続けさせられる。

パワードスーツを着込む兵士になる訓練なのに、ハイテクマシンを操縦するとか、重力の違う場所で活動するとか、そういうことをやらない。
たぶん現実の軍隊の訓練が元になったしごきを受ける。
規律に少しでもそむいたら罰則。ひたすら罵声を浴びせてくる教官。
なんだかふつうの軍隊のトレーニングだ。

終盤になるといちおうSF戦争ものとして、降下カプセルに入る兵士の恐怖や、敵となる虫型エイリアンとの闘いがある。虫の性質をおさえた戦法(巣穴の位置をイヤホンで探る)があっておもしろいけど、基本的にはずっと一般人が軍人になる過程を書いた話だ。パワードスーツの性能も、ジャンプ力がすごいのはわかるけど液晶モニターが頼りなくて、ゴーグルを上げて肉眼の方が見える時があるとか、現代アニメのロボットとは全然違う。

読んでる最中で気づきがあったんだけど、日本人は「着るタイプのメカを操縦する戦争」なら、ガンダムとかエヴァンゲリオンを想像する。アニメやゲームの影響でかっこいい架空の戦争を想像する。
ばくだんを使う戦争なら「火垂るの墓」。兵器がスーツ型になったら「ガンダム」。祖父の語った戦争じゃない、空想のドラマチックな戦争をイメージする。

実際は戦争に新兵器が投入されたところで「ドラマチックな戦争」に変わることはない。
銃剣を使って人を殺していたのがドローンを使って人を殺すようになるだけで、そのために若者が人生をかける。手足を失ったり上官に怒鳴られる。なんだか誇りも芽生える。仲間もぽろぽろ死んでいく。どんな機体に乗ろうと、かっこいい戦争は存在しないのだ。

あとがきで、そこまで細かい描写がないゆえに限られた描写と想像力で埋めてパワードスーツを描いた話が追加されていて、当時のSF青年の熱さがじりじり伝わってきた。

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読書感想文

SF小説が好き

読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。