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MNB連続詩集『どどめ色』

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毎日1〜2つずつ更新する詩集です。ジャンルあれこれです。よかったら読んでね。いや絶対読んでね。
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2023年2月の記事一覧

詩「会話回廊」

詩「会話回廊」

「古城をめぐるツアーの最中彼女に別れを告げられた男の話を知っている?」
「それ三回目。」
「アサヒィースゥープァードゥラァァァァイ…」
「それも三回目。」
「そうこれはドイツ語の」
「そうそれも三回目。」
「とりあえず飲もうよ。日も高いし。」
「日高屋だし?」
「日高屋ではないよね。」
「ハイ乾杯こぼさないで。」
「こぼれた。」
「あーあ。(『買ってあげたセーターが』と思った)」

「なんで外見て

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詩「ツアーファイナル」

詩「ツアーファイナル」

廃車場見学へ行ったときのこと
思いの外 墓場の空は
広い
風に錆の音がまじる
りりりぎん
くいしばられた銀歯たちのプロージット
タイム
アウトプットが進むキャンバスでは
あの人と自分の距離がまた
一層わからなくなっていく
りりりぎんんん
廃車場には
かつて乗客を包んでいた大きな
車体が
青い沈黙を囲って今日もご満悦
未来のなさ
ひとは暇なら打ち上げる 身体を
外部にして
歌い上げる――
甘いつぶや

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詩「楽園(果)実際」

詩「楽園(果)実際」

ぼんぼりが光る
半明半闇の店内で
煙が立ち上る
半白半灰の
これは
縮図
故に引き延ばす と
これは
現実
絵本をとじるには
まず両側の壁をば
たんとたおさねば
なるまい
(今日は おもちゃの お祭りだ)
お通しが きて
乾杯を して
談笑 した
花を つんで
時に 涙し
そうだ おもちゃの お祭りか
割れるような 音が
人か
ジョッキか
心か
身体か
それは
眉毛の根本の動きでわかる
どの人の額

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詩「電車が参ります。」

ここには毎日たくさんの電車が来ます
わたしはそれを北側から眺めます
東西東西西東東
目をつぶると電車が増えます
風が吹きます
地下鉄もやってきます
生温さ 決して
爽やかでないまどろみを
連れてきます 流れですから
サーチライトが心を照らす
そして南にはもちろん あなた
視線の動きが見えます
自分を守るようです
空間の中に空間ができます
わたしは
それをまた 眺めるばかり
時折思い出します
何を思

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詩「日々是微除幕式」

詩「日々是微除幕式」

思い出と靴底では
どちらが早く削れるだろう
どちらが大地を感じるだろう
どちらにせよ削れてるのは君だ
今日もネジを巻く手がおれたろう
大げさな音にも慣れた
夕方のベルに紛れて
街中に響きわたる
干した布団がそれをうけとめて
安眠者たちに耳鳴りを届ける
自分では決して
そうなりたくはないと
思うような人間であるような
鰹節の一粉でも入れば
進んで味噌汁など
吐き出すくらいの潔癖さなのに
そうでなくて

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詩「海と 盲目と」

詩「海と 盲目と」

海はあまりにも豊かであった
わたしの嫉妬が泳ぎきれぬ程
海はあまりにも豊かであった
ここですれ違う遠泳の表情達
浜辺の家々では鉄板がならぶ
焼けた鉄板の上で踊るような
砂浜で繰り広げられるが如き
少量の火薬を握りしめる布
 片
絵画に没頭する日々の回想記
長期的に運用する窓辺の香草
ちぎり纏わりつかせる獣から
離れ安心しきった両手両足よ
海は豊かだが静かではないよ
絵を見る客達にはそう答えた
キャ

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詩「カタコトドケイ」

詩「カタコトドケイ」

イ チニチノ オワリニジュウ エンダマ ヲカゾエル
イケノオモサ ヲモカンガ エテミル
ユビ サキデフ レルモノスベテ
クダケテシマ ウホドノヨウ ジンブカサ
イチニ チノオワリニ ジ ュウエンダマヲ カゾエ ル
ボクノカ ラダヲサワ ルノハダレオマエ
ヘヤノフンイキハオノ ズカラカワリツヅケル
シュウネンブカ サヲバンシャクニウカベ
イチニチノオワリニジュウエンダマヲカゾエル
ニガワラ イヲミル

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詩「小脳回転体:Me」

詩「小脳回転体:Me」

かん
かんらんしゃが
空を割り
海ばかり がゆれる
カモメ LED 生爪が光る
ここは 恋人の街
足元だけに注意を向けて
空に首根っこを掴まれた
海ばか りがゆれる
船雲 細麺 足音と環
 わ
    わ

ここは仮死人がランプに舞う
愛しく 濃い

散りすぎたものたち
マフラーに絡まり落ちる
こ こは恋人の街
レン レン
連歌が小火を起こす
眼しか 動いてないよ
カフェオレの中身たちと一緒に

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詩「1 century chocolate day」

詩「1 century chocolate day」

お客様にはこちらがおすすめです
ええ そうです
こちら直輸入で
――元々は緑の多い国でできたと
ええ きいております
はい すぐにご用意できます
しばしおまちを
あ ベンチに腰掛けて
はい 音楽でも聞きながら
ショコラショパン
なんでもございません
ガラス細工を眺めていて
透かして過去を見通して
煙のように意識を宙に
らん らん らん
ああ なんでもございません
今温めてますから
それはもう
とろ

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詩「はい送屋」

詩「はい送屋」

――はい
――はいを運ぶ神経細胞中の煌めきのような刺激です――はいを運んでいます――キリストを―――いやイエスではなく――はいです。
脊髄うぜえ
――はい、を、運ぶ神経細胞中の煌めきのような汚泥です。速い汚泥。はい。はい、
句読点を打ってみて存在を、だしていく
はい、を運んでいますはや
速くてさ
あ 顔

 bu
あれはそれで
 そ
――この肯定で吹き飛ぶんでげす
はい、の教養
――はい、はいで

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詩「全国脱集団下校組合」

詩「全国脱集団下校組合」

十六丁目の
十六時の十六歳のこと
出囃子太鼓にはり付いた
バチ持つてのひら広げて見せた
ふあむふあたる
綿菓子薫れ
大雲をはるか
夏の土用水路にはなぜか
細草が二組ずつゆく
旅路はキスでもどうぞ
ここでねじれていく
クロスカウンターみたいな下校途中
三組の木村を殺す夢を見る
細草で何千時間もかけて
からだの形をこころにかえていく
ミイラ木村
細草で空の風呂桶
屋上は指輪をつくる
恋をした
未遂した

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詩「ちぎりパン・ラプソディ」

詩「ちぎりパン・ラプソディ」

後輪に布が挟まっていることに気がついたのはもう目的地まであと数十メートルのところだった。しかしこの布はあと数メートルで必ず絡まる。これはきっと走馬灯のような停止だ。ただ思考は停止などせずむしろ活発にめぐり血のように行き届いている。こうやってみな味わっているのだ。最高と最低を。わたしにも歓声を送る人達がいる。それをみて嬉しくなる人がいる。
それもわかってペダルを漕いでいた。
時が汗を包む。手のひらに

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詩「令和盛夏晩飯劇」

詩「令和盛夏晩飯劇」

回る 円卓で会議が続く
騎士はおらず 岸もなく
沈黙が止まり 回る
ことは誰にも察知できない
ここにいるのは
わたしと
わたしのからだと
おじの心と
祖母の位牌と
母の形見と
父である
父だけが完全な形をしている
ここまでとは
明かりを灯す役職の
背の高い何かが
真っ白な顔に薄笑いを浮かべて
ふわりふわりと灯をともしては消して遊ぶ
一体何が楽しいの
と聞くと
この役目は自分にしか出来ないから

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詩「かいじゅうの身を借りて」

詩「かいじゅうの身を借りて」

ぼくらは
かいじゅうの身を借りて
おどることがある
いきをして
思い切り
それは 思いもせず
足元に小かいじゅうたちの
はらわたをみつけることで
あきらかになるのだ
思いもせず
ぼくらは
そこではじめて
怒ったりすることがある
なんていう爽快感
と明確に思いながら
肉を食いちぎって笑顔になる
その肉は
よく考えれば
前の晩試験をともにした友で
そしてそれが
かいじゅう第一試験の
突破必須要件で

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