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08:結婚なんて婚活なんて



辻村深月さん『傲慢と善良』読了。
SNSでも話題だった。
あまりにも話題すぎるドラマと本は避ける傾向がある。
ミーハーの4文字が頭に浮かんで、本当は興味がすごくあるのに避けてしまう。
波が引いたら手に入れようかな、なんていつも思っている。
今回は、「独身アラサー」を謳っているインスタグラマーさんが紹介していて、なんだか我慢できなくなって購入。
いとも簡単に流行に乗った。
読み終えて、図書館で借りずに古本でもなく新品で購入したことに、特段後悔する気持ちは湧かなかった。
すぐに読み返そうとは思わなかったけれど、抉られる感覚はかなりあって、帯についている「刺さる」という言葉では表現したくないけれど、同年代の結婚していない友人に薦めたくなった。

だから、読み終えて頭に浮かぶ友人を

*以下に登場する「彼女たち」はフィクションかもしれない。そう思って読んでください。

周りの友達がすごい勢いで入籍していく。
LINEで届く結婚式の招待状も過去最高記録を更新。
すべての結婚式には行けないと、行ったら破産してしまうと内心思いながら、仕事が忙しくて有給を取れそうにもない、落ち着いたらゆっくりご飯でも行こう、と3人を断った。
ご飯行こう、言うのは、言う頻度は学生時代から変わらない気がする。
でも、実現する回数はぐっと減ったな。

とある友人

人一倍早く結婚したがっている癖に、いい加減一人暮らしを始めたいと言ったきりそれも有耶無耶にしたままもう3年以上経つ友人。
結婚したいなら、本当に「結婚」だけがしたいなら行動するしかないのでは、と思う私をよそに、でも子どもは考えられないとか、アプリは始めてみたとか、ポツポツと話す。
会うたびに変わらないかどうか確認する彼女。
私を通して自分が会っていない同級生たちの情報を探る。
仕入れ、監視し、比較する彼女。
彼女はそうして、自分の立ち位置を確認している。
自分が全体から見て、生き遅れていないのか、不必要に焦っているのは自分だけなのか、自分と同じ不安を共有してくれる相手として私は過不足ないのか値踏みする。

彼女は大きなチャレンジをした。
そこでも、結局はのめりこめていなかったように見えた。
時折かかってくる電話に、私は気のない応答をしながら、どこに行っても自分が本気で変わろうとしないと何も変わらないよ、と傲慢に思っていた。

ほんの少し。
チャレンジをするために、貯金を全額崩して、親に借金までして飛び込んでいく彼女を羨ましく思った。
実家暮らしに甘えているからできるのよ、と私の心のうちでは声高に批判する声が声が木魂しているくせに、空港で見送る私はしばらく会えないことを寂しがって手を振った。

本当は空港で手を振る時、前にもこうやって彼と彼の友達を見送ったっけな、なんて上の空だったのに。
チャレンジした先で、苦しそうな彼女を見て、私だって今の仕事が苦しいと思っていた。そこを踏みとどまるかどうかに今後がかかっているんじゃないの、と他人にはきっぱり言えるのに、現実で自分が踏みとどまれないのを知っていたから。

2人が良ければなんでも

結婚した友人を女子会で槍玉にあげる時、
「でもさ〜、結局2人が良ければなんでもいいんだよねー。
別に私が結婚したわけじゃないしさー。」
こうやって何回言ったろう。
こうやって誰かが言うのを何回待っていたろう。

そこには、ドス黒い感情が渦巻いている。
ー私ならあんな男/女を絶対に選ばない
ーあの子より自分が遅く結婚するのはなんでなんだろう
ーこれから絶対苦労する
ー見えてないのかな、お互いに

究極、「なんで?」が渦巻いているのだと思う。
彼に選ばれたかったわけではないのに。
彼女になりたいわけでもないのに。
2人が積み重ねた時間も、努力も、やさしさもほとんど何も知らないのに。
ーなんで私はダメなんだろう?
ーなんであの子はうまくいったんだろう?
ーなんで今おいしいご飯とお酒を前に、私は好きな人とじゃなくてこの子と愚痴を言い合っているんだろう?

まるで、クラスメイトで初めてを最初に経験していく「あの子」をこっそり陰から羨ましく妬ましく思っていた中学生の頃のように。

ぬるま湯はダメだよ

尊敬する人が言っていた。
「ぬるま湯はダメだよ」
変わらない自分は、変わろうとしないことに安住しているから。
このぬるま湯を居心地の良さと勘違いしているから。

友人と過ごす時間にもっと新しい出会いがあったかも。
その出会いは、恋愛のための出会いではなくて、自分の趣味を広げていくための時間になったかも。
行きたかったお店のリストも作りかけで。
映画だけ観て、いつかここに私も、と。
顔がぼやけた「あの人」を重ねて、夢見るのはまるで中学生から変われない私ではないか。

見上げて思うこと

空を飛ぶ飛行機を見て、空を見上げて。
ー安住しないで飛び出していく人がいるんだな
ー1回飛び出したから帰ってくる途中かな
ー今日もそちらに”勇気”が飛んでいったよ

2人さえ良ければ、を本心で思うのは自分用にとっておこう。
誰かを許すことはあまりに難しい。

『傲慢と善良』に登場する架も真実も、美奈子も私に含まれている気がする。
美奈子にホッとして、頼っている時が1番楽かもしれない。
真実の母親は、私の親戚にもいて。
田舎が好きなのに、田舎の悪いところが鮮明に描かれすぎて。
田舎が悪いのではなく、その人がそうさせていることに、この本を読んでいると最も容易く気が付かされて。

ドロドロになった感情も、いったん忘れてぬるま湯を抜け出したくて空を見上げる。
まっすぐ飛んでいく飛行機に思いを託す。

静かな、静謐さに溢れた厳かで温かい結婚式を。
空と海が繋がる街で挙げるその日まで。

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