一人暮らしのお城で過ごした宝石のような日々のこと
一人暮らしをしていたとき、
好きなものだけに囲まれた暮らしをしていた。
本と、芸術と、古いものが大好きなわたしは
自分の世界に浸れる部屋にするため
小さな部屋に自分だけのお城を築きあげた。
昔ながらの喫茶店のような雰囲気にしたくて
家具はこげ茶をベースに揃え、ワインレッドのソファを置いて。
このお城が完成したことにより、
異常なくらい一人時間が大好きになり、
一人が寂しいどころか、一人になりたくて仕方ないと思うことすらあった。
さて
このお城でどんな時間を過ごしていたのか。
完全に自分のお部屋自慢の自己満足ですが
少し紹介させてください。
◇
バレエを見る
舞台美術、衣装、建築、物語、音楽、ダンサーの頭から爪の先までの何もかもが美しくて
この世の美しいものすべてを集めた、美の集大成のバレエ。
寝る前に少しだけ。
なんて気持ちで夜な夜なバレエを観ては
時間を忘れて夜更かししてしまい、気づけば朝…
なんてこともしょっちゅうなのでした。
コラージュする
古い紙や、図鑑や切手などを集めては
眺めたり、コラージュしたり…
自分の頭のなかで小さな王国をつくりあげては楽しんでいた。
これも時間を忘れて何時間でも作業できてしまうので、気づけば真夜中なんてことも常。
茶を点てる
茶道を習っていたこともあり、頻繁に茶を点てていた。
茶を点てていると、お茶の香りとシャカシャカという気持ちいいリズムに気持ちが落ち着いてくるんですよね。
季節の和菓子と一緒に味わうお茶は、それはそれは美味しくて。
まさに至福のひとときなのでした。
他にも…
自分しかいないのに
季節の行事も楽しんでいた。
何をしてても、何を考えていても、誰にも邪魔されない。
静かなこのお城で、いつだってわたしは自由だった。
◇
いまはあのときほど、自分の時間というものがないし、自分の世界も大切にできなくなった。
それよりも大切にしないといけないものが増え、目まぐるしく毎日が過ぎてゆく。
それはそれで充実してはいるのだけど
たまに帰りたくなるのです。
自分だけのお城に。
わたしはあのとき、自分はひとりぼっちだと思っていたし、間違いなくそうではあったけど
外の世界で何が起きようと、何を言われようと
自分は自分であり続けたし
美しいものに囲まれて、楽しく暮らしていた。
あのお城で自分らしく暮らしている自分が好きだった。
もうあのお城を離れてから2年が経とうとしていて、あのときの記憶もだんだん薄くなってきているように思う。
だからあのときの、自分だけのお城に住んでいたあの日々のことを忘れたくないと思う。
いまとなっては
もうどこにも存在しない幻のお城で
わたしがわたしでいられた、あの宝石のような日々のことを。
今日はあのお城でよく読んでいた、
ポーの詩集を読んで眠ろうと思う。
お気に入りは
Alone、アナベル・リー、大鴉
どの詩も本当に美しくて、夜に溶けてしまいたくなる。
そうして、たまには夢のなかで帰ることができるでしょうか。
静かなひとりぼっちのお城に。
あの包み込まれるような夜のお城に。
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