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グロテスク

読んだ




光り輝く、夜のあたしを見てくれ
名門女子高生から一流企業のOLとなっても、彼女が求め続けたものは? 女たちの孤独な闘いを描いた最高傑作、ついに文庫化!



東電OL殺人事件を基にした小説

イヤミス









以下ネタバレ含む








本を読み始めて、もし「わたし」や「僕」が語り手としていたら、無意識にでもその人が述べることを信じて読み進めてるんだなあって実感した。なんせこの本、語り手が信用ならなくて

最初読んでる時は、怪物的な美貌を持つ妹のユリコの存在で、白人コンプレックスみたいなものをこじらせて容姿に自信がなくなってちょっとひねくれてしまった姉、くらいだったんだけど、ずっと「わたし」視点で語られた後ユリコの手記を読んで、「一番やばいのこの姉(わたし)じゃん…」って思っちゃった



女の悪意、嫉妬、僻み妬み(同じか)、そういうダークな感情が読み手を包み込もうとまとわりついてくる不快な感じ。しかもそれだけじゃなくて、こっちの悪意も煽って来て、同意を求めてくる感じ

ユリコの手記から「わたし」の語りに戻った時とか、「ちがうんですよ、ユリコが嘘をついているんですよ」ってちょっと必死な感じとか。創作が得意って本人もユリコも言うから、何を信じればいいんだってなってしまう読者側

「わたし」はユリコの美貌を嫉妬して恐れるあまりに頭が悪い女だと信じ込んで自分の中でユリコの価値を下げたいだけで、本当はユリコも頭が良いんだと思う



悪意がすごすぎて怖い「わたし」も、小さな頃からの劣等感とか周りの目とかから守るために身につけたのかな

わたしは急に自分に自信がなくなったのです。わたしにしては珍しいことでした。こんな時、おじいちゃんがいてくれたら慰めてもらえるのに、とわたしは初めて、孤独な身の上を悲しく思ったのでした。わたしを取り巻く世界が意地悪だからこそ、わたしはさらに意地悪を磨き、傷付けられる前に傷付けて相手をへこませてやろうと努力してきたのに。わたしは弱っているのでしょうか。


でもちょっとわかる。傷つきたくないから自分を尖らせて守る感覚









私にとってこの本の主人公は和恵

本の帯にもあった、ラルフローレンのマークを刺繍した靴下、彼女のピュアさとか真面目さとかを表してたんだろうなあ。努力家だからこそ

父親からでも周りからでも、「認めて欲しい」っていう気持ちから歪んでしまった感じがする

いきすぎた承認欲求、満たされない承認欲求、ガリガリに痩せ細って奇抜で妙な化粧をしておでんの汁を啜る和恵、それでも自分が綺麗だと信じてるのは心が病んでしまって自分自身のことも客観的に見えなくなってしまったんだろうな

あと学生時代とか思春期の頃の「自分を受け入れる力」ってとても大切。多感な時期だからこそ

「木島君はあと、どんな女の人が好きなのかしら」「そりゃ、男だもの。やっぱり綺麗で可愛い人が好きなんじゃない」「綺麗な人ね。そうか」和恵はお握りを食べあぐねて溜息を吐きました。「ユリコさんみたいになりたい。あんな顔に生まれてきたなら、どんなにいいかしら。どういう人生が開けているのかしら。あの顔で頭がよかったら最高よね」「あの子は怪物だから」「そうね。勉強なんかできなくてもいいから、怪物になりたいと思うことあるわ」和恵は本気でつぶやいていました。ええ、あの人は最後、本物の怪物になってしまいましたよね。わたしは、でもその時は、将来のことなんかまったく考えてもいませんでした。え、のちの和恵の奇行は、この時のわたしの対応に原因があるとおっしゃるのですか。わたしに責任があると。まさか、そんなことはありますまい。だって、すべての原因は、その人間を形作っている核とでもいうべきものに存するのではないでしょうか。和恵が変貌する原因は和恵自身にあったのだと思いますよ。確かにわたしは、弁当を食べ終えた和恵にこう言ったことは覚えています。それは作為とまではいかない、単なる悪意程度のことだったと思います。悪意だから作為だとおっしゃるのですね。その定義ならば、そうかもしれません。

和恵は食べたばかりのお弁当をトイレで吐いているのをしばしば目撃されていました。お弁当といっても、碌な食べ物ではありません。小さなお握り一個とトマトか、お菓子。





和恵の手記、読んでてまさにグロテスクなんだけど(血とかじゃなくて心が感情で抉られる感じ)、読んだ後なぜか切なくなる


ユリコのどちらかというと抽象的な「怪物」と違って、本物の「怪物」になった和恵

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わたし自身が学生時代に傷ついた時とか、強く感じたい時に聴いていた歌のひとつ、BUMP OF CHICKENのハンマーソングと痛みの塔、それを思い出す描写があった

あたしも会社では、机の上に書類で高い壁を作って周りを囲い、誰にも覗かせない。そして、耳栓をして仕事に没頭する。目の前は白い書類の山。横も山。崩さないように積み上げていったら、あたしの頭より高くなった。さらに高くして、天井まで届かせたいと思う。

歌詞

何事かと大口を開けた やじ馬共を見下ろした
ここから見たらアリの様だ 百個目の箱積み上げた
お集まりの皆様方これは私の痛みです
あなた方の慰めなど届かぬ程の高さに居ます
きっと私は特別なんだ 誰もが見上げるくらいに
孤独の神に選ばれたからこんな景色の中に来た
どんどん高くもっと高く 雲にも届け痛みの塔
そのてっぺんにあぐらかいて神様気分の王様




東電OL殺人事件の被害者も、尊敬する父の死から変化していったといわれているし、和恵も客として関わる男性に対して「自分より優れている男に優しくしてもらうあたし」を探していたんだと思うの。切ない



緩やかな自殺だと思う










上巻でどんどん引き込まれて読んでいって、下巻を手に取ったものの、チャンの上申書が長すぎて飛ばした






百合雄のこと書く必要あったかな~って思うくらい個人的にはあんまり入り込めなかった。「わたし」がユリコや和恵と同じことをしても良いと思える存在、彼は盲目だから何十年も縛られてきた美醜に囚われなくて良いこと、ユリコに勝てたと思えること、いろんな心境の変化が彼を通してあったんだろうけど









最後まで「わたし」は名前が出ず、「ユリコの姉」でしかなかった















私の家近そうって思ったところ

P区は東京の下町で、高いビルなど見当たらない平らかな土地でした。大きな川が幾本もP区を縦に区切っていて、その高い堤防が視界を遮っているのです。周囲の建物は低いのに堤防のせいで圧迫感がある、とても不思議な街でした。






個人的に好きだった部分

わたしなんか関係ないのに、おかしいですよね。だけど、関係の出来た人の後ろには別の関係があり、その人にも別の人間関係がある。そうすると、その関係は果てしなく永遠に広がり、連なっていくのです。不思議ではないですか。

差というのは、ちょっとやそっとの時間では埋まらないものでした。美や裕福さのインフラといいますか、基盤が違うのだとしか言いようのないことだと思いました。じっくりと何代か経て貯められた豊穣さといいましょうか。長い時間をかけて遺伝子に組み込まれた美や裕福さなのです。付け焼き刃は通用しない世界でした。

人は美しい者を見ると過剰に期待するものです。手の届かない者であってほしいと願い、その通りだったら安心して、ますます憧れます。だけど、意外に粗末で冴えないと知るや、感嘆を蔑みに変え、羨望を嫉妬に転化させるのです。



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どこ読んでても誰の気持ちを汲み取ろうとしても、優しさなんて一ミリもなくて、悪意しかないの。読むのにとても疲れた



ただ一つ納得した部分

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大きいな














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本の中の表現や比喩、言葉選びはとても好きだった






けど

もう読まない(安定)

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