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徒然草子

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徒然なるままに書き散らした文章まとめ
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#エッセイ

ラブコメ好きのための「地獄先生ぬ~べ~」・その1

 「地獄先生ぬ~べ~」と言えば、90年代にジャンプで連載されていた学園ホラー漫画の金字塔。漫画でアニメで、トラウマを植え付けられた当時の小学生も多かったはず。
 私はまだ幼く、フィクションに慣れていなくて、今思えばほとんど理解していませんでした。トラウマというほどの記憶も残っていません。

 親の証言によると、私は妖怪もののアニメが好きだったらしく、「なんでこの子はキューティーハニーよりもぬ~べ~

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まじめなあの子

 学生時代、苦手なタイプの両筆頭は、騒がしい不良とまじめな優等生だった。
 どちらもろくに話が続かなかったし、何を考えているのかわからなくて、うまい相槌が打てなかった。自分が何を言っても馬鹿にされるんじゃないかという気がしていた。

 年とともに不良は不良でなくなり、そもそも接点もなくなっていった。けれども人を替えコミュニティを替え、まじめな優等生たちとの付き合いは続く。

 ろくに話が続かなくて

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青臭い衝動

青臭い衝動

 自分の中にある青臭い好みや志向に気づくのは、ジムや街中で何も考えずに歩いたり走ったりしている時だ。

 例えば、音楽。
 普段は歌詞がちょっと不思議な正統派ロック、優しい声でロマンチックな歌詞の柔らかめロックが好き。
 でも、尖りに尖った歌を好きな自分がいる。
 憎まれていたい、立ち止まりたくない、邪魔すんな、と怒鳴りちらすような反抗的なロックが好きな自分がいる。
 そんなふうに暴れたことも、な

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恩田陸と煙草

恩田陸の小説を、かれこれもう十年以上読んでいる。学生時代、とくに中学高校では図書室で借りてよく読んだ。すべての著作とはいわないが、タイトルはほぼ知っているし、七割くらいは読んだことがあると思う。

学生時代にたくさん読んだ作家だから、手元に持っているのは文庫本ばかりで、それも中古で買ったものが半分以上。最近また読みたくなって、『ブラック・ベルベット』の文庫本を中古で買った。

うちに帰ってその本を

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自己形成小説を書かなくなった話

 断続的にではあるけれど、もう何年かずっと小説を書いている。そのジャンルや方向性みたいなものが変わってきたなあと最近思う。ここ数年、学生ものの青春小説を書かなくなった。気づけば結構前からだったけど。

 書き始めた当初は本当に、学園小説というのか、学生を主人公にした閉鎖的で細かな物語を書いていた。田舎の進学校の優等生が、背伸びしたり苦しんだりする話。見たこともない遠い世界にいる自分を想像できたりで

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なぜガストンは死ななければならなかったか

なぜガストンは死ななければならなかったか

 ディズニーの大ヒット映画『美女と野獣』。アニメ版は1990年代のディズニーアニメーション黄金期を飾る一作として世界中でヒット、数年前にはエマ・ワトソン主演で実写映画化もされた名作である。

 それに出てくる悪役ガストンは、物語の最後に野獣との戦いのなかで城から落下。直接的な表現こそないが、命を落とす。

 私は小さい頃からアニメ映画の『美女と野獣』が大好きで、『アラジン』や『ライオン・キング』と

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好きだと叫ばなかった後悔よりも

好きだと叫ばなかった後悔よりも

 最近、寄り道を楽しめるようになった。住んでいる町でも旅先でも、まっすぐ帰らないでちょっと遠回りしたり、ただ近所をぐるっと散歩してみたりする。旅行したり写真を撮ったりすることも増えてきた。

 大学進学を機に地元を出てから何度かの引越しと旅行を経験して、少しずつ、新しい場所でのびのびやるための流儀ができてきたように思う。

 早く地元を出たくてたまらなかった学生時代、息苦しいというほどの感覚ではな

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ここではないどこか、自分ではない誰か

ここではないどこか、自分ではない誰か

 ここまで来たぞ。
 いつ、どこに着いたら、私はそう思えるだろう。
 初めてひとりで乗った国際線の機中、毛布にくるまって読書灯でクリスティの『終りなき夜に生れつく』を読んでこれから向かう国に思いを馳せながら、ふと思った。

 大学進学を機に、出たくてたまらなかった地元を飛び出してから、七回目の夏。夏のボーナスが入った通帳を見て、初めてのひとり海外旅行に挑戦しようと決めていた。盆の帰省ははなから頭に

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つまらない大人に

つまらない大人に

 高校生の頃、進学校に通っていた私は、娯楽も限られた田舎を馬鹿にしながら、勉強することだけが都会に出る唯一の合法手段で、できるだけ偏差値の高い大学に行けば自分の可能性も世界も広がって、憧れてきたすべてが手に入ると信じていた。そんな馬鹿な高校時代には、周囲の環境と自分の思い込みで塗り固めた規範がたくさんあった。浪人してでもいい大学に行くのが当然だとか、本当に成功した人ならこんな田舎には帰ってこないと

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【読書雑感】ハロー、レイチェル

【読書雑感】ハロー、レイチェル

《出てくる本》

・レイチェル・カーソン 『センス・オブ・ワンダー』 (上遠恵子訳 新潮社、1996年)
・トーマス・マン 『トーニオ・クレーガー』 (平野卿子訳 河出文庫、2011年)

 憧れと、憂鬱な羨望と、ほんのすこしの軽蔑と、この上なく清らかな幸福感。

 これはトーマス・マンの代表作のひとつ『トーニオ・クレーガー』の最初と最後に出てくる表現だが、カーソンの『センス・オブ・ワンダー』を読

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思い出そうとしても思い出せないこと

 昔は絶対に覚えていた、そもそも出会った瞬間があるのだから間違いなく自分が知っているはずのことなのに、なぜか思い出せないことが、最近増えた。忘れていること自体いつもは忘れているのだけど、創作をしていると自分の思いつきのルーツを探りたくて、思いを馳せる。そして、馳せる先がもやで見えなくなっていることに気がつく。

 たとえば、これぐらいくだらないこと。フレンチトーストをつくるとき、卵と砂糖と牛乳、混

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