連載小説 砂上の楼閣2
『計画2』
『怪しまれなかったろうな?』
諸井春彦は、パソコン画面から目を離すことなく、そう尋ねた。
「結構、感謝されたと思うよ。でも五寸釘は、やり過ぎだったかな。」
『さすが、充だ。お前なら何とかしてくれると思ったよ。』
札幌駅から徒歩5分。オフィス街の一角に春彦の事務所はある。
表向きは証券アドバイザーだが、その実は闇に包まれている。
「でも春彦、何でこんなことを。やっぱり、あの事と関係してるのか?」
山上充は、相変わらずパソコンに入力を続ける春彦に向かって言った。
『お前はまだ、何も知らなくていい。時期が来たらちゃんと話すから。』
“あの事” 。
春彦と充は、幼少期からの幼馴染み。
幼稚園から中学校まで、ずっと一緒だった。そして、そのあと入学した高校で、あの事件は起こった。
それから、10年の空白期間がある。その間の事は、充にもまだ話していない。
『あの女の行動パターンは掴んだろ。もう少し関係が出来たら、俺に紹介してくれ。』
「何でこんな回りくどい事を。」
眉間にシワを寄せ、見当もつかないといった表情だ。
『それも、そのうち分かるよ。』
春彦は、やっとパソコン画面から目を離し、充へ向かって微笑んだ。
「分かった。あの女と仲良くなったら連絡するよ。」
数あるであろう疑問を飲み込み、充は部屋を出て行った。
……清香さん。もう“あの事”は忘れたろうか?いや、忘れるはずがない。あれだけの事を……。
春彦は10年前の事を、久し振りに思い出していた。
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