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古き良きものを愛することについて

私は基本的に日本の良き伝統を次の世代に伝えたい、という気持ちを持っています。それは能狂言や和歌などのいわゆる正統的な日本文化もうそうですし、日本人的な感性や物の考え方もそう思います。

私は、日本という国に生まれてよかったなと、折に触れて素直に思える自分は幸福なのだと思います。それは、この両親のもとに生まれてよかったなと思う気持ちと似ています。

良いところも悪いところも含めて、おそらくそういうアンビバレンツな気持ちが含まれつつ、それでも結局は両親が好きだ。その気持と、良いところも悪いところも含めて、日本という国が好きだなというアンビバレンツは私の中では相似形となっています。

「人間は保守たらざるを得ない」

私の好きな偉大な保守思想家の福田恆存さんは、こういう言葉を残しました。古き良きものを守るのが人間の本性である。ひとまずそう解釈することができるでしょう。

しかし、私にはこの言葉はもっと奥行きのある、そして広がりのある言葉のように思えてなりません。

「人間は運命を愛せざるを得ない」
これは大学生の頃、みこちゃんが自分で作った座右の銘の一つです。

センター試験が終わったばかりなので、受験のはなしからはじめましょう。

志望校はたいてい定員があります。ということは志望校に入れた人とそうでない人が出てくるということでもあります。運良く志望校に入れた人はおめでとうと笑顔で肩をたたいてあげたいです。

そして、志望校に入れなかった人には、私は…

「4年かけてその学校好きになろうね」

そう言葉をかけてあげたいです。

私の大好きな叔父が神戸に住んでいます。鉄道マニアで美味しいものが大好きです。鉄道旅行をしたときはいつも現地の食べ物を宅配便で山ほど送ってくれます。

叔父は当時の駿台模試結果で、高校1年の頃から全国ランキング一桁台しか取ったことがないようでした。父に聞いたはなしでは、針路相談の時も「君には進路相談なんていらない」といわれ続けていたそうです。

しかしいわゆる本番に弱いタイプの人だったと父は言っていました。2年浪人して入学したのは私立大学でした。今でも叔父は、第一志望の学校に特別な感情を抱いているようなところがごくたまになのですが、感じ取れるところがあります。

私の立場からは「叔父さんもその学校好きになってよ」という生意気な言葉はかけられません。でも実は、父も私も母も同じく、叔父が泣く泣く四年間通った学校の出身者なのです。私たちはその学校が大好きです。

だから、親戚で集まっても大学の話をするときはデリケートな空気ができてしまいます。正月に集まったときにテレビを見ていて一番困るのは箱根駅伝す。私たちの母校の応援がしづらいのです。

先ほど、叔父が第一志望の学校に特別な感情を抱いているようなところがごくたまにある、といったのは、例えばそういうときです。

「叔父さんもその学校好きになってよ」

これは、「人間は運命を愛せざるを得ない」という考え方にも通じます。

志望大学を生まれた国と考えてみると、その共通項が浮かび上がります。日本が好きな日本人もいれば、日本が嫌いな日本人もいます。

こんな国に生まれたくなかったという人の思いは様々だと思います。

昔の左翼運動の頃ですと、ソビエト連邦に生まれればよかった、という人もいたと思います。日々ビジネス英語で苦しんでいる商社マンの人は、いっそアメリカ人に生まれたかったと思っている人もいるかも知れません。毎日食うや食わずの人は、福祉国家のスウェーデンに生まれればよかったと思っているかも知れません。

私はアホ型右翼ではありませんので、この考えを否定するつもりもありませんし、切実な思いなのだと思います。その切実さは、叔父の巧妙に隠した"つらさ"をお正月のテレビの駅伝中継の時などに垣間見てしまうときの、あのつらさと同じだと思います。

でも、こんな国に生まれたくなかったという人には、その人が私の年下の友人であれば、「一生かけて日本という国が好きになれたらいいよね」と目線を合わせて語りかけてみたいです。

好きでもない大学を4年かけて卒業してもつまらないことです。そして、好きでもない国で生まれ、好きでもない国で死んでいくのもまた、味気ないのではないでしょうか。

「人間は運命を愛せざるを得ない」

私はここでこの言葉を思い出します。

この言葉は消極的ではないのです。あーあ、運命だから仕方がねえや、あきらめよ。これとは真逆です。

「人間は運命を愛さざるを得ない」これだったら、一種の諦観です。この国に生まれてきた不幸を呪うよりは、自分の本音を棚上げして、とりあえず楽しくやろうという、嘘が入っています。
自分の両親を愛ざるを得ない、もうそうだと思います。

しかし、愛ざるを得ない、という言葉は尊いと思います。

ありていに言えば、好きにならずにいられないということですが、そこには悪いところも含めた上でその対象が好きでしょうがないというところに目が開かれた状態だからです。

偏差値は低い、大都市圏内でないなどの自分にとって条件に合わなかった大学であっても、四年間過ごすうちに、その大学を愛せざるを得ない自分を発見できたら、卒業式は幸せだと思います。

同じように、時々妙に右傾化する傾向があるとか、社会福祉が十分でないとか、母国語が英語じゃないという欠点(?私はそうは思いませんが)があったとしても、自分が生まれた国を永遠に卒業するときに、日本という国を愛せざるを得ない国だったと思って安らかに目を閉じるのは、私には幸せなことだと思えます。

この本質は何でしょうか。

それは、条件を外した愛なのだと思います。

もしこの大学が偏差値が高かったら好きになれたのに、もしこの国の母国語が英語だったら日本脱出なんて妄想しなかったのに…。

でも、そんなものでしょうか、何かを愛するって?

もしこの子がもっと可愛く生まれていたらこどもを愛せたのに。こどもをネグレクトしてしまう親はときどきこういうそうです。でもこどもへの愛はそんなもんですか?

ここまで迂回して、私はやっと、座右の銘などを自作しているアホバカな自分に気がつくのです。(><)←あほみこちゃん…

「人間は保守たらざるを得ない」

この福田恆存さんの至言は、私があれこれ考えたことをすべて含んでいるのです。人間は生まれてきた環境や、迫りくる運命、そしてその結果としての宿命を、条件なしで引き受けざるを得ない。

なぜなら、条件がないところにしか、本当に愛するということは生まれないからです。

生まれてきた赤ちゃんは親を選べません。同じように国を選べません。大学受験のシーズンが終わった受験生は、来年にならないと大学の選び直しができません。そして2年浪人しても志望校に入れず、苦しみ続ける人もいます。

大切なことは、愛する対象が、愛するに値する対象かどうか ということでは断じてなく、愛する対象に条件をつけているかどうかだと思います。

ひるがえって、究極の保守とはなんだろうか…。

保守主義とは、運命を選べない、歴史的実存としての人間存在が、にもかかわらず自らの運命を愛するという生活態度だ と思います。

そこには、一切の条件がありません。

そして古き良きものを愛するとは、その一切の条件を外した現実を愛し、そして現実を愛してきた過去の積み重ねを、歴史、伝統として大切に保ち守ること、すなわち保守という言葉と同義なのだと思えます。

ニーチェはこの言葉をAmor fati(羅)と言いました。日本語に訳すと「運命愛」です。

君との出会いは運命の出会いだった、こんな歯の浮くようなセリフを言う男は、運命愛の精神から最も遠い人間だと思います。交通事故で美貌自慢の彼女の顔面がぐちゃぐちゃになっても、婚約指輪を贈った時に誓ったことを履行できますか?それともせめて、一生独身を貫きますか?

愛するこどもが犯罪者になった時、こどもが生きがいだ、子育てが趣味だと公言してきた親御さんは、世界中を敵に回しても我が子の味方でいられますか?そんな子に育てた覚えはないとは言いませんか?

日本がまた、過去にもまして大きな過ちを犯したときに、プチ右翼の連中は、それでも日本が愛せますか?最低でも、一緒にこの国の罪を背負うことができますか?

保守とは遊びではない。子育てが遊びではなく、結婚が遊びでないのと同じだ。福田恆存さんの言葉は、そういうことを言っている。

保守とは、伝統を守るとは、愛せざるを得ない心を自分の中に持つことだと私は思います。

そしてそれは理屈っぽいことじゃない。

つまり、こういうことさ。


高校生は羨ましい、なんていうと私が随分年をとったみたいじゃないか、こういちろうくん。いいよな君はまだ18歳だ。みこおねえちゃんの青春時代は過ぎたのだよ、とっくに(爆)。悪かったな。

だから、あたしはこうやって時々理屈をこねないとピュアな心が維持できないのかも知れないね。

若い男の子は羨ましい。だから何度も言わせるなよ。コンニャロ!おばさんみてーじゃねーかよ、このわたしが!

じゃあ、別の言い方をしよう。

みこおねえちゃんは、こういちろうくんが羨ましいよ。一点の混じりけもなく、ふつうに福田恆存してるんだからね君は。

こういちろう(18)noteを読むと、心が洗われる。

自分にもし高校生の息子がいたら、学校行っている間にこっそり息子の日記を盗み読む母親になりそうだよ。

これからもその調子で頑張ってね!


*このnoteは【共同マガジン】これが私のイチオシnoteだ!寄稿作品です。
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