Mikiya

製造業DXスタートアップにてプロジェクトマネジメントを担当する傍ら、結婚式を挙げる新郎…

Mikiya

製造業DXスタートアップにてプロジェクトマネジメントを担当する傍ら、結婚式を挙げる新郎新婦の出会いから結婚に至る馴れ初めを短編小説にするサービスをしています。

マガジン

  • ウェディングノベル

    結婚式を挙げられる新郎新婦の出会いから結婚に至るまでの馴れ初めを短編小説にしました。

  • 創作

    趣味で時々書いている小説です。 何か大切なことを考えるきっかけ、一歩を踏み出すきっかけ、世界の見方が変わるきっかけを作れたら嬉しいです。

最近の記事

【ウェディングノベル】怒りのち笑い

※個人情報保護の観点から、小説中に登場する固有名詞は架空のものに変えています。小説はご本人の許可を得た上で掲載しております。 ◎たかし ◆2021年2月 「いい加減今年のクリスマスイブは一緒にいてやらんからな!」ノブさんは空になったジョッキをテーブルに置くとそう言った。  会社の創業期からのビジネスパートナーであり親友でもある、ノブさん、ゆっちと酒を飲んでいた。バーの店内は薄暗く、ジャズ風の音楽が流れている。 「えー、一緒にいてくださいよ~!」俺は哀願した。  というのも、

    • 【ウェディングノベル】夢ノート

      ※個人情報保護の観点から、小説中に登場する固有名詞は架空のものに変えています。小説はご本人の許可を得た上で掲載しております。 ◎千恵子 「叶えたい夢を全部、過去形で書いてしまったんです」 居間でテレビを観ていると、端麗な容姿に似合わぬ毒舌で近頃人気のある女子アナウンサーが、『夢ノート』なるものを公開していた。古びたノートには、無数の夢がどれも過去形で記入されていた。学生時代、テレビ局への就活がうまくいかずに悩んでいた彼女は、それでも将来に希望を持とうとまだ叶えられていな

      • 【ウェディングノベル】自然なふたり

        ※個人情報保護の観点から、小説中に登場する固有名詞は架空のものに変えています。小説はご本人の許可を得た上で掲載しております。 ◎達郎  信号が黄色に変わる。 アクセルを強く踏めば間に合いそうだが、無理はしない。なんせ待ち合わせ時間までたっぷり余裕がある。右足をブレーキへ移動させた僕は、浮き足立った心を落ち着かせるように愛車をゆっくりと停止させた。  まだ誰もいない助手席に視線をやると、数十分後にはそこに座っている彼女の姿よりも先に、初めて彼女の車の助手席に座った自分の姿を思

        • 【短編】めざめ

           この世に挨拶なんて、なければよかったのに。  玄関で宅配便を受け取った僕は、部屋の内側から扉に鍵をかけながら、そんなことを考えている。宅配のお兄さんは朝から元気よく挨拶をしてくれたけれど、僕は何も言わず、受領書にサインをし、荷物を無愛想に受け取った。  挨拶はどうしてしないといけないの?  多くの親が、子どもからされる類の質問だろう。  挨拶したら友達がたくさんできるよ、挨拶したら良い一日になるよ、と、親は前向きな答えを与え、子どもをきちんと挨拶ができる人間に育て上

        【ウェディングノベル】怒りのち笑い

        マガジン

        • ウェディングノベル
          3本
        • 創作
          11本

        記事

          【エッセイ】泥団子と小説

           幼少期——特に小学校に入学するまでの記憶の多くは分厚い霧がかかって見えない。それでも霧が薄いところに目を凝らしてみると、薄くかかった霧の背後にはひっそりと記憶が佇んでいるが、どれも細切れではっきりしない。そして、それが夢の記憶なのか現実の記憶なのか、分別できないことも少なからずある。幼稚園のとき、大好きな馬渕先生から頬っぺにチュウされた記憶がある。しかし、これは夢だったのか、現実だったのか。二十八になった今でもよく分からない。記憶とはそんないい加減なものなのかもしれない。

          【エッセイ】泥団子と小説

          【短編】鶏卵(後編)

          (前編の続き) 「ご確認よろしくお願いします」  デスク右端の透明なプラスチックの受け箱に、一枚のクリアファイルがそっと置かれる。古木課長はうんともすんとも言わずに、目の前のノートパソコンを凝視している。  坂本は自分の席に戻る。いつもの様子だと、課長は十分以内には受け箱に置かれたクリアファイルに目を通す。坂本は、やはりその動向が気になるのだろう。二十秒に一度は課長の方をちらちらと見ている。そういう僕は、十秒に一度は二人の方を見ているのだが。  僕たちが昨晩、電車の中

          【短編】鶏卵(後編)

          【短編】鶏卵(前編)

           三連休明けの出勤は気乗りしない。午前のオフィスでは、あちこちでため息が合唱していたが、昼過ぎになればいつも通りのオフィスに戻る。人間の適応力は凄い。  午後三時十分——今日中に処理しなければいけない仕事をひと通り終えた僕は、一息つこうと席を立ち、コーヒーマシンへ向かう。  紙コップをコーヒー抽出口の真下に置き、現金投入口に十円を流し込む。ドトールのブレンドコーヒー(HOT)を選択した僕は、ちょっとした贅沢にしては大きな優越感を得る。無料コーヒーもある中で、あえて有料コー

          【短編】鶏卵(前編)

          【ショートショート】デイト印の記憶

          「はい」  デスクの右端に置かれた透明なプラスチックの受け箱に一枚の紙が滑り込む。まただ。そう心で呟きながら右手を伸ばすと、右隣に座る新入社員の坂本が視界に現れた。どうやら海外からの電話を受け取ってしまったらしい。額に汗を噴き出しながら、周りに聞かれないように声を潜めて「……ソーリー」と連呼している。  ——頑張れ、坂本。最初はみんなそういうもんだ。  右手で掴んだ紙は、これから起こる一連の退屈な作業を想起させるからだろうか、鉛のように重い。発注書だ。ぼくは、紙の上に散

          【ショートショート】デイト印の記憶

          【ショートショート】詰まったビン

          「何それ?」  ぼくが仕事を終えて帰宅すると、ソファに仰向けで寝そべった父が何かを頭上にかかげながら怪しげな笑みを浮かべている。 「おかえり。これか?ものすごいもの、見つけたんだよ」  それは、ラベルを剥がして捨てる直前のなんの変哲もないパスタソースのビンのように見えた。 「だから何なのさ?」 「とにかくすごいんだ。友人が売ってくれたんだけど、こんなものが世の中にあったとはな。お父さん、全然知らんかったよ」  質問に全く答えない父に少し苛立ちながらも、ソファに寝そ

          【ショートショート】詰まったビン

          【ショートショート】真の理解者

          「攻めろ」  ホワイトボードに書かれた三文字を数秒間見つめた後、五人は視線をずらしてストレッチを始める。音を立てず滴り落ちる汗は、真夏の体育館スポーツの過酷さを物語る。選手を取り囲む親たちの声は塩水のごとく混じり合い、意味を成さない雑音として体育館中に響き渡った。  ハーフタイム終了のホイッスルが鳴る。俺は選手一人ひとりと目配せをするが、各個人に注がれる眼差しはオーダーメイドだ。ただ、どの眼差しにも深い理解に基づく愛情だけは共通している。選手たちはまるで詳細な指示を受けた

          【ショートショート】真の理解者

          【ショートショート】自分だけの誕生日

           豊潤に香るコーヒーを片手に、普段は高くて頼めないモンブランを口にそっと運ぶ。ぼくは今日25歳の誕生日を迎えた。お洒落な店内では、Billy Joelの『Honesty』が流れている。そうだ、ぼくは人生を誠実に生きてきた。だから、今日という日を迎えることができたのだ。 「なぜ自分が生まれた日がやってくると、人は1つ歳をとるんだろう」  そう疑問に思ったのは、ぼくが10歳の誕生日を迎えたときだった。1つ歳をとるからといって、目に見えて何かが変わるわけではない。むしろ人は毎日

          【ショートショート】自分だけの誕生日

          【ショートショート】夢追交差点

           限界集落における観光業の役割は大きい。  大山村は少子高齢化、都会への若者離れの影響を受け、昨年、国から限界集落に指定された。しかし、大山村には全国でもトップレベルの成分を誇る温泉に加え、名水百選にも選ばれる湧水、豊かな自然を背景としたキャンプ場など、たくさんの魅力がある。問題は、村行政の観光担当職員たちが別の村出身ということもあり、その魅力をうまくPRすることができていないことだ。  そこで90年もの歴史を持つ温泉旅館「大山ふるさと旅館」を営む若女将めぐみは、「この村

          【ショートショート】夢追交差点

          【ショートショート】樹海

          「お兄さん、お兄さん。そんな暗い顔してどうしたんですか。まぁ大体の事情は分かりますよ。よっぽどのことがない限り、こんな寂しい山奥にお一人で来やしませんからね」  ぼくは硬直し、声の発信源に視線を傾けた。  夢?現実?死ぬ間際にはこういうのも見えるのかもしれない。なんせぼくは経験不足、生きるのに疲れて死のうとしてる、たかが13歳の少年だ。 「お名前はなんというのですか」 「川井」  ぶっきらぼうにぼくは答えた。 「なんと、川井さん。私の旧姓と同じですね」  そいつ

          【ショートショート】樹海

          【ショートショート】魔法のソファ

          「ゴホッゴホッ」  発熱こそないが、もう一週間近く咳が止まらない。そんなぼくを心配して声を掛けてきたのは、隣の席に座る翔太だった。 「拓也、咳止まらないね。大丈夫?」  特別なことではない。ぼくは生まれつき体が弱く、季節の変わり目のたびに体調を崩す。大丈夫ではない、そう言ったところで、小学生の翔太にぼくの病気を治せるはずもない。だから、ただぼくは心配してくれたことに対して礼を述べることにした。 「大丈夫だよ。ありがとう」 「今日、学校終わったらうちに来ない?面白いモ

          【ショートショート】魔法のソファ