【エッセイ】泥団子と小説
幼少期——特に小学校に入学するまでの記憶の多くは分厚い霧がかかって見えない。それでも霧が薄いところに目を凝らしてみると、薄くかかった霧の背後にはひっそりと記憶が佇んでいるが、どれも細切れではっきりしない。そして、それが夢の記憶なのか現実の記憶なのか、分別できないことも少なからずある。幼稚園のとき、大好きな馬渕先生から頬っぺにチュウされた記憶がある。しかし、これは夢だったのか、現実だったのか。二十八になった今でもよく分からない。記憶とはそんないい加減なものなのかもしれない。