ミラノ、パリの「コレクション」と呼ぶのは日本だけ? 誤解の一因に/朝日新聞デジタルの記事
今回、朝日新聞の後藤さんに取材いただいた時にお話ししたように、私が主戦場としている欧米のファッション業界では、実は「パリコレ」と言っても通じない。「パリ ファッションウィーク」と言わないと本当にわかってもらえないのだ。
これは、業界人に限ってではなく、海外の一般の人たちと話す時にも同じことで、いくら海外で「パリコレ」と言っても全くわかってもらえない。ニューヨークの「NY ファッションウィーク」に参加しているブランド、コーチ(Coach)でシニアデザインディレクターをしていた時にも現地で「NY コレクション」は全く通じなかった。「パリコレ」とか「NY コレクション」いう名称は、実は日本独自のものなのである。
「パリファッションウィーク」に参加というのは正式には仏オートクチュール・プレタポルテ連合協会(Fédération de la Haute Couture et de la Mode - FHCM)が発表する公式スケジュールに載っているブランドのみだ。
同じくミラノコレクションは「ミラノファッションウィーク」が正式名称で、イタリアファッション協会(Camera Nazionale della Moda Italiana - CNMI)が運営、NYコレクションは「NYファッションウィーク」が正式名称で、アメリカファッションデザイナー協議会(Council of Fashion Designers of America - CFDA)が主催、ロンドンコレクションは「ロンドンファッションウィーク」が正式名称で、英国ファッション協会(British Fashion Council - BFC)が運営している。
公式スケジュールに載っていないクリエーターさん達が現地で自主的にショーや展示会をやって「パリコレに出展(出店)」とか言ってるのは、「ファッションウィーク期間中に非公式で開催するショーや展示会」ということなので、公式スケジュールに組み込まれているブランドとは区別する。
「トラノイ(Tranoï)」や「プルミエール・クラス(Premiere Classe)」などの国際トレードショーやクリエーターの合同展示会などもファッションウィーク中に行われているが、これらに参加される方々が、日本の一般の方向けに「パリコレに出展(出店)」とか言い始めてこの言い回しが広まったのだろうか、日本のテレビとかでこの謎な言い回しを聞くと違和感だらけでモヤモヤする。
ただ、厳しい審査を経て「ファッションウィーク」の公式に選ばれている日本人クリエーターも実際にいるのだから、確認もせず非公式のブランドをあたかも「公式ブランド」のように日本のメディアや地元自治体の首長が賞賛するのはいかがなものかと思う。
また、こんなこともあった。
確か10年くらい前だったと思うが、日本のテレビ番組でハタチそこそこの若い女性が「パリのルイ・ヴィトンのデザインチームで働いていて年収1000万円」というような感じで紹介されたのには私も驚いた。その当時、私はパリの公式のラグジュアリーブランドのデザインチームで正規の社員として働いていて、業界内は狭いのでヴィトンにも知り合いはいるし確認してみたのだがそのような日本人はいない。もし仮に彼女が本当にルイ・ヴィトンで働いていたとしても正社員としての契約(CDI)内容に「Clause de Confidentialité (守秘義務条項)」が盛り込まれているので、そんな容易く日本のテレビに個人として出演など出来ないし、会社に内緒でしていたとしたらバレた時点で大問題になり最悪の場合は解雇ものだ。
またきちんと確認を取らずに安易に出演させたテレビ側もなんとお粗末だろう。私は当時、それを見て呆れ返ってしまった。
私個人としては、日本の一般の方がわかりやすいようにソーシャルメディアで「パリコレ」を使うこともあるが、本気の仕事でプロとしてプロの方とお話しする時には「パリファッションウィーク」を必ず使用する。
一般の日本人が分かりやすいように「パリコレ」という日本独自の名称をキープすることには私は問題ないと思っているのだが、それを使用する人々が本来「パリ ファッションウィーク」である「パリコレ」の、正しい意味や目的を知ることがとても重要だ。
一般の人たちが正しい「パリコレ」を知り、「公式ブランド」と非公式の区別をきちんとすることは、名だたる海外ブランドに競り合って勝ち取った「公式ブランド」への最小限のリスペクトだし、それを正しく伝えるのは日本のメディアやファッション業界人の役割だと思っている。
ファッションウィークの公式スケジュールを日本語で知るのに一番便利なのは朝日新聞デジタルの特設ページ(https://asahi.com/special/fashion/…)かもです。こちらからは動画や写真、関連記事も見られることが出来る。
英語やフランス語で見ることが出来るのであれば、MODEM ONLINE(https://modemonline.com)が圧倒的に便利。ファッションのみのスケジュールだけでなく、アート、デザインに関した各展示会やショールームの日程や、各国の便利なシティガイドまでついている、こちらがおすすめ。