白須 美紀
Margoは、いとへんuniverseの岡部陽子と白須美紀による手染め毛糸のブランド。物語の世界をうつした心はずむ糸を染めたいと、日々奮闘しています。 それぞれの糸に込めた物語のこと、糸染めのこと、手芸のことを綴ります。
クラフトライターとして活動する日々の記録と、出会った職人さんたちのお人柄や技術、生き様などのお話しを。ふだん聞く機会の少ないつくり手の声を届けたい。人知れずある美しいものを伝えたい。工芸のいろいろな魅力を感じていただけますように。
WEB上に開店したBOOK CAFE 「Vintage Craft Cafe Kyoto (VCC)」 常連の工芸ライター美紀 が綴るあれこれ。 お店(ウェブサイト)がただいま改装中なので 職人さんや工芸品の紹介記事もここに置いてます。 ほかにもVintage Craft Cafe Kyoto では You Tube(動画) https://www.youtube.com/channel/UCWV8zw2OBKDTQFjrdXrdUIQ stand.fm(音声発信) https://stand.fm/channels/5f5f19b2f04555115d51de60 などで職人さんや工芸のことをご紹介しています。
西陣絣をご存知ですか? 伝統工芸西陣織の一種で、とても素敵な先染めの織物なんです。後継者不足が叫ばれる西陣絣の技術や職人さんのこと、西陣絣や手織り、手染めの良さを伝える「いとへんuniverse」の活動のことなどについて綴っていきたいと思います。
幼い頃に見てずっと頭から離れない光景のひとつに、機織りをする伯母の姿がある。 薄暗く小さな部屋に置かれた木製の手織り機。赤や黄緑、白など色とりどりの糸が巻かれた小さな杼。木のペダルを踏むとタテ糸をあげる装置が「かしゃん」と小さく音をたて、次に、タテ糸に通したヨコ糸を筬で打ち付ける「トントン」という音が軽やかに鳴る。つやつやと輝く色とりどりの絹糸は、ゆっくりと、少しずつ織りなされて布へと変わっていく。 何もかもがきれいで、織機に向かう伯母の姿までもが一枚の絵のようで、
今日、見知らぬ名前の女性からお手紙を受け取った。 ていねいに書かれた文字、白い封筒には愛らしいうさぎのシールが貼ってあり、差出人の温かなお人柄が伝わってくる。 なんだろうと開けてみたら、綴られていたのは東京でライターをしているOの訃報だった。差出人はOのお姉さんで、わたしが出した年賀状を見てお知らせをくださったのだ。一昨年に急性白血病を患い、昨年3月に逝ってしまったそうだ。もう長く会えておらず年賀状をやりとりするだけになってしまったし、その年賀状だって忙しいときはやりとりでき
Margoの物語の糸、1年以上空いてしまいましたが『若草物語』を再開しています。ふたつめの糸は「メグ」。美人で評判のマーチ家の長女です。 長女のメグ(マーガレット)は、たっぷりした褐色の髪と大きな瞳、白い手と優しい口もとをしており、物語のなかで何度も「美しい」と称賛される女の子です。第一部では、家族がお父様と三女ベスの病気という大きな試練を乗り越えたのち、メグとブルックさんの初々しい恋が始まってフィナーレとなります。 結婚式のシーンは、第2部の初め。第1部の物語から3年
Margoの物語の糸、新シリーズを始めました。今回は『若草物語』です。 ひとつめの糸は「ジョー」。主人公のジョーをイメージし、カラフルバージョンとセミソリッドバージョンを染めました。 4人姉妹の次女であるジョセフィーンは、豊かな栗色の髪を持ち灰色の鋭い目をした15歳の女の子。男の子のようになりたくて皆に自分のことをジョーと呼ばせて、兄貴役をかってでています。本を読むのが好きで、小説やお芝居を書き、隣りに住むローリーと兄弟のように仲良し。ジョーは作者のオルコットの分身であり
大きな台風が去って、やっと秋めいてきました。編み物のシーズン到来ですね。Margoの手染め糸も、9月23日(金・祝)、5ヶ月ぶりにSHOPオープンいたします。 今回は物語シリーズをお休みして「パウルクレー」がテーマです。 Midoriさん @midori_hirose_knit がデザインしたパウルクレーセーターを染める #paulkleeDAL(Dye along)に参加してキットが完成したのを記念し、クレー特別編を行うことにしました。 DALとは、Dye Al
Margoが糸に込めた「ムーミン」の世界。最後の1色は「ちびのミイ」です。 ムーミンママの裁縫かごの中に入り込めるほど体の小さなミイ。夏至の頃に生まれたミムラ夫人の36番目の子どもで、長女のミムラねえさんがお世話をしています。 天真爛漫で怖いものしらず、自由奔放でときどき物事の本質を突く発言をしますが、悪意は一切ありません。本音でのびのび生きているところが気持ちよいキャラクターです。 ミイはトーベにとって「なりたかった自分」なのだそう。自分を偽ることなく生き、自由に発言
ムーミンシリーズの物語を映した毛糸、7色目はみんな大好き「スナフキン」です。 自由と孤独を愛し、冬になるとひとり南へ旅にでるスナフキン。一見人間のようですがムムリク族の若者で、小説シリーズでは『ムーミン谷の彗星』で初めて登場します。パイプをくわえているせか「大人っぽい不思議なお兄さん」という印象が強いのですが、小説を読んでみると少年らしい一面も持っていてなんだか意外でした。 そんなスナフキンのイメージはやはり、緑。おなじみの帽子とマント、そしていつもスナフキンが焚き火を
「ムーミン」シリーズ、6つめの糸は「ニョロニョロ」です。 変わった生き物しか登場しないムーミンのお話のなかで、「謎の生きもの」とされているのがニョロニョロです。目はあまりよく見えてないし、言葉も理解せず、ずっと遠くをにらんで、どんどん進んでいくだけ。ママの説明によると、感情も持っていなさそうです。 ニョロニョロたちは年に一度、夏至になるとある島に集まってきますが、『たのしいムーミン一家』では、その集会に偶然遭遇してしまったムーミンたちのドタバタエピソードが楽しいです。
ムーミンをテーマに染めている毛糸、5色目は「春がきた」です。 『たのしいムーミン一家』では、ムーミン一家が冬眠に入るシーンをプロローグにしており、ムーミントロールが冬眠から目覚めたところから物語が始まります。このときの皆が春の到来に浮かれている様子がとても楽しいのです。スナフキンは「春がきた」の歌を横笛で吹くほど。ムーミンとスナフキンのふたりでは橋の手すりに腰かけて両足をぶらんぶらんさせて過ごし、スニフも一緒に3人で山に登って石を積み上げて遊んだりもしています。それが、
物語をうつすMargoの手染め毛糸。『ムーミン』の4色目は、「冬の夜」です。 いつもなら冬眠しているはずなのに、春が来る前に目が覚めてしまったムーミンの冒険と成長を描く『ムーミン谷の冬』。ムーミンがおしゃまさんと出会ってオーロラを眺めるシーンはとても素敵ですが、その一方で、雪に包まれた夜のムーミン谷をたった一人歩く場面は、寂しさや怖さ、夜の闇の深さが深々と伝わってきました。この糸はムーミンが雪の夜に一人歩いたであろう「冷たくてとことん昏く、けれど非現実的なまでに美しい」北
Margoが染める『ムーミン』の糸。3色目は「針葉樹の森」です。 国土の7割を森林が占めているフィンランドの人々は「森の民」と呼ばれているのだそう。作者のトーベヤンソンはフィンランド人ですから、森がその作風に影響しないはずはありません。それは、トーベ・ヤンソンがいちばん初めに書いたムーミンの物語『小さなトロールと大きな洪水』が、森の中から始まるところでも明らか。海や沼、洪水ほどのインパクトはありませんが、森もムーミンの世界にとって大切な存在なのです。 8月終わりのムーミ
少し時間が空いてしまいましたが、Margoの糸紹介コラムを続けます。 今回糸染めのテーマとなる物語はムーミン。2つめのカラーは「スノークのおじょうさん」です。 「スノークのおじょうさん……って誰?」と思ったことはありませんか? わたしはあります。 昭和アニメでは「ノンノン」平成アニメでは「フローレン」だったムーミンのガールフレンドは、原作では「スノークのおじょうさん」と呼ばれています。 一見ムーミンと同種族に見えますが、実は気分で身体の色が変化するスノークという種族で、
Margoの「物語の糸」シリーズは、今月から新しい物語に入りました。今回のテーマはトーベ・ヤンソンの「ムーミン」です。 ムーミンは小説シリーズが9冊、コミックスが14冊でており、他にも童話がたくさん。そのなかの1冊を選ぶのは難しいため、小説シリーズを中心にムーミンの世界観を毛糸に映しました。 まずひとつめが「ムーミントロール」。言わずとしれた主人公、ムーミン族の少年です。 ムーミン谷の人々はわりと清々しくわがままだったり変わり者だったりするのですが、みんながそれを当然のよ
今回の物語はバーネットの『秘密の花園』。いよいよ最後の糸紹介となりました。「ムーア」です。 物語のなかで花園と同じくらい魅力的に描かれているのが「ムーア(荒野)」です。メアリはミセルのムーアを馬車で5マイル(8.05km)も横切って屋敷に到着しますが、冬の夜だったのでムーアはただ黒々とした恐ろしい存在でした。けれど、マーサやディッコンがムーアをとても愛しているのを見たり聞いたりしているうちに、メアリ自身もいつのまにかムーアを好きになっていきます。 『秘密の花園』だけで
今回の物語はバーネットの『秘密の花園』。7つめの糸は「コマドリ」です。 小鳥は小さな頭を一方にかしげ、やさしい、輝く目でおじいさんを見上げました。その目は黒い露のしずくのようでした。どうやらこのおじいさんにはよく馴れていて、ちっともこわがってはいないようすです。小鳥はちょん、ちょん、とあたりをはねまわり、種や虫をさがして、せわしなく地面をつつきました。そのようすを見ていたメアリは奇妙な気がしてきました。元気のよいこの小鳥があんまりかわいくて、まるで人間のように思われてきたか
物語の色をうつすMargoの手染め毛糸。 今回はバーネットの『秘密の花園』がテーマです。 6つ目に紹介する糸は「コリン」です。 その男の子の象牙色の顔はやせて神経質そうでした。そして小さな顔にふつりあいなほど大きな目をしていました。ふさふさした髪がひたいにもつれかかり、そのためにやせた顔をいっそう小さく見せさていました。長いこと病気をしていたように見えましたが、病気で苦しがっているというよりも、寝ているのにあきあきして、きげんを悪くしているように思われました。(『秘密の花園