見出し画像

Margo-物語と糸- #33 |『ムーミン』を染める 1

Margoの「物語の糸」シリーズは、今月から新しい物語に入りました。今回のテーマはトーベ・ヤンソンの「ムーミン」です。
ムーミンは小説シリーズが9冊、コミックスが14冊でており、他にも童話がたくさん。そのなかの1冊を選ぶのは難しいため、小説シリーズを中心にムーミンの世界観を毛糸に映しました。
まずひとつめが「ムーミントロール」。言わずとしれた主人公、ムーミン族の少年です。

「ねえ、飛行おにさん、このテーブルを、なにもかも上にのっけたまま、スナフキンのところまでとばしてやってよ。どこにいるんだかしらないけれど、あのひとのいまいるところへさ。」
とたんにテーブルは、パンケーキやジャムや、くだものや花や、ポンスやおかしをのせたまま、空にまいあがって、南のほうへとんでいきました。
(『たのしいムーミン一家 復刻版』山室静訳/講談社刊より)

 ムーミン谷の人々はわりと清々しくわがままだったり変わり者だったりするのですが、みんながそれを当然のように受け入れて暮らしているのが良いですよね。
 そんななか、意外に性格に癖がなく、優しいのが主人公のムーミントロールです。飛行おにが魔法でムーミン谷の人々の願い事を叶える場面でも、主人公のムーミントロールが願ったのは自分の欲しいものではなく、南へ旅立ってしまった親友スナフキンに楽しいパーティの時間をおすそ分けすることでした。

 ところで、ムーミントロールの体の色は何色かご存知ですか。『ムーミン谷の彗星』(講談社文庫)のなかで「ムーミントロールは一種類しかないし、色は白いんだ」と本人が言ってます。アラビアのマグでも白色ですね。
 とはいえ、日本人の我々にとってはやはり、アニメのムーミンのイメージも外すことはできません。69年版、72年版、90年版と3回アニメ化されていますが、全部ムーミンは薄い水色をしていました。そこで今回目指したのも、心に潜むムーミンの色。北欧の透明感を意識しながら、なんども試作を繰り返してこの色に辿りつきました。

読んでみてわかったこと
 今回糸染めのテーマを「ムーミン」にしたことで、ムーミンの物語を初めて読みました。アニメを観ていたこともありムーミン谷のキャラクターはすでに馴染み深い存在だったため、原作本を読むことまで思いつかなかったのです。
 そして今回初めて読んで、今まで読まなかったことを後悔しました。巷間言われているように世界観が素晴らしくてストーリーは冒険に満ちているし、キャラクターが個性的だったりセリフが哲学的だったりして面白い。それに何より、ディテールが良いのです。家の外から友だちを呼ぶときに指笛で合図したり、山の上に登って石を積み上げる遊びをしたり、少年らしくて最高です。こちらも童心にかえって一緒に冒険している心地になりました。
 そんななか一番意外だったのは、ムーミントロールのキャラクターでした。すごくいい男なんです。旅立つスナフキンの意思を尊重し、寂しいのをぐっと我慢して送り出すところも良いですし、飛行おににするお願いで、遠くにいるスナフキンのことを頼むのも優しい。スノークのおじょうさんを守るために戦う場面もあり、勇敢さも持っています。その一方でスノークのおじょうさんが落ち込むと、優しい言葉でご機嫌をとってあげたりもするんです。「なにこれ、理想の彼氏やん……!」と、驚きました。外見の可愛さや他のキャラクターの癖が強すぎてついつい見逃しがちですが、実はムーミントロールは正統派のイケメン主人公なのでした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?