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Margo-物語と糸- #30 |『秘密の花園』を染める 6


物語の色をうつすMargoの手染め毛糸。
今回はバーネットの『秘密の花園』がテーマです。
6つ目に紹介する糸は「コリン」です。

その男の子の象牙色の顔はやせて神経質そうでした。そして小さな顔にふつりあいなほど大きな目をしていました。ふさふさした髪がひたいにもつれかかり、そのためにやせた顔をいっそう小さく見せさていました。長いこと病気をしていたように見えましたが、病気で苦しがっているというよりも、寝ているのにあきあきして、きげんを悪くしているように思われました。(『秘密の花園』より)

 屋敷内で鳴き声が聞こえたことからメアリが見つけた従兄弟のコリン。体が弱く寝たきりで育っており、わがままでヒステリー持ちの少年です。コリンが生まれたときにお母さんが亡くなってしまい、心を病んだお父さんはコリンとまともに対峙することができなくなりました。また、コリンは使用人たちからも腫れ物に触るように扱われています。

 物語は途中から、このコリンが秘密の花園を舞台に再生していくことが中心になっていきます。大人の事情で弱り偏っていましたが、実際は誇り高く知性あふれる未来の当主コリンをイメージしています。

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気の毒なおぼっちゃま
コリンとメアリが住む屋敷はミセルウェイトマナーといいます。マナーとは領主の館という意味だそう。そのお屋敷のスケール、使用人の多さからも、メアリとコリンが上流階級の子どもたちであることが分かります。

ミセルウェイトマナーは、実際にヨークシャーにあるカッスルハワードという邸宅をモデルに書かれたそう。カッスルハワードのウェブサイトを見てみると、そのスケールの大きさに腰を抜かします。もはやお屋敷ではなく、お城というべき建物。映画『秘密の花園』のロケ地もカッスルハワードなのだそうです。
https://www.castlehoward.co.uk
こんな広さなら屋敷のなかは迷路のようだし、部屋も数え切れないほどあるでしょう。先祖の肖像画もたくさんあるに違いない。廊下で縄跳びも余裕でできますね。

コリンはこの邸宅の後継ぎですが、10歳になるまでずっとベッドに伏したままだった病弱な少年です。
生まれたときにお母さんが亡くなってしまったせいもあり、父親は半分ネグレクト状態。使用人からも腫れ物のように扱われており、ワガママでヒステリーで泣いてばかり。
さらに自分はいずれ死んでしまう、もし死ななくてもせむしになってしまう、という自己暗示にもかかっていました。よく考えると、相当気の毒です。

ヒステリーがおさまらないコリンに、メアリがキレて叱り飛ばすところはなんとも痛快です。今までちゃんと怒ってくれる人がいなかったコリンはポカンとして、ヒステリーも引っ込んでしまう。意外に素直なところが憎めません。

未来のコリンを想像してみる
物語の後半、秘密の花園に訪れたディッコンの母スーザン・ソワビーと会い、コリンは必ず健康な足になると太鼓判を押してもらいます。ずっと欲しかった母性をスーザンから受け取り「おばさんは、ぼくが、ほしかったものなんだ」「おばさんがぼくのお母さんだったらいいのになあーディッコンのお母さんだけじゃなくて!」というところは、不憫で泣けてきます。そんなコリンを抱きしめて、「坊やのお母さんはきっとこの庭にいなさるよ」とスーザンはいうのでした。

主に周りの大人の事情により偏った育ち方をしたコリンですが、生まれながらの気高さと知性を持ち合わせています。メアリ、ディッコンと友情を育み、ともに庭を駆け回ってたくましく成長したならどれだけ素敵な貴公子になるでしょうか。
天使であり妖精であるディッコンはもう完璧な存在なのでこのままあまり変化しないように思いますが、コリンは問題児だけに伸びしろがあります。大人のコリンが主役になった物語を読んでみたいものです。

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