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Margo-物語と糸- #39 |『ムーミン』を染める 7

ムーミンシリーズの物語を映した毛糸、7色目はみんな大好き「スナフキン」です。


「ふうん、そうかい。ぼくはスナフキンというんだ」
と、そのムムリクは答えました。彼はテントの外で火をおこして、コーヒーをわかしました。
「きみは、ここに一人だけで住んでるの」
と、ムーミントロールがたずねました。
「ぼくは、あっちでくらしたり、こっちでくらしたりさ。きょうは、ちょうどここにいただけで、あしたは、またどこかへいくよ。テントでくらすって、いいものだぜ。きみたちは、どこかへいくとちゅうかい?」
(『ムーミン谷の彗星』下村隆一/訳 講談社文庫より)

 自由と孤独を愛し、冬になるとひとり南へ旅にでるスナフキン。一見人間のようですがムムリク族の若者で、小説シリーズでは『ムーミン谷の彗星』で初めて登場します。パイプをくわえているせか「大人っぽい不思議なお兄さん」という印象が強いのですが、小説を読んでみると少年らしい一面も持っていてなんだか意外でした。
 そんなスナフキンのイメージはやはり、緑。おなじみの帽子とマント、そしていつもスナフキンが焚き火をしている森のイメージです。

完璧すぎる男スナフキン
 旅人のスナフキンは、音楽家でもあります。
 いつも笛を吹いて作曲をしていて、自分のなかからこぼれる音を逃さないように耳をすませています。
 ギターを弾いているイメージもあるのですが、これは日本の1969年版のアニメだけなのだそう。日本ではスナフキンが持ってる楽器の印象が世代によって違うというのも面白いですね。

 またスナフキンは、哲学者でもある。
 たくさんあるガーネットを集め損ねてがっかりするスニフを慰めて
「そうだな。なんでも自分のものにして、もえってかえろうとすると、むずかしいものなんだよ。ぼくは、見るだけにしてるんだ。そして立ち去るときには、それを頭の中へしまっておくのさ。ぼくはそれで、かばんを持ち歩くよりも、ずっとたのしいね」
と語るあたりは、まるで徳の高いお坊様のようでもあります。
 スナフキンのモデルは、トーベの恋人だった哲学者で政治家のアトス・ヴィルタネンだそうですが、なるほどといった感じですね。

 旅人であり音楽家であり哲学者であるだけで十分すごいのですが、さらにいえばスナフキンは「やるときはやる男」でもあります。ムーミンと一緒に冒険の旅に出たり、禁止ばかりする公園番に復讐の戦いを仕掛けてみたり。孤独を愛してはいるけれど、自分を頼ってくる者たちを冷たくすることのできない優しい面も持っています。そういう部分をみると「やっぱり徳が高いなあ」と思ってしまいます。

 そして、わたしが小説シリーズを読んで一番驚いたのは、スナフキンの出自でした。詳しくは『ムーミンパパの思い出』に出てきますが、スナフキンとちびのミイ、ミムラ姉さんはお母さんが同じだったのですね……! しかも時系列的に考えると、スナフキンが2人の弟なのです。
 ムーミン谷の子どもたちみんなの兄貴分だと思っていたので何だか不思議な感じがしますが、ムーミン村も人間界と同じように、そのひとの中身の成長や老成ぶりは実年齢とは関係ないようですね。

 そういえばどの物語を読んでいても、スナフキンが出てくる場面はどこか安心感があるのです。それってすごくカッコイイですよね。うーん……完璧すぎる。老若男女に愛され、憧れられる人気キャラクターなのも当然といったところでしょう。


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