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【短編小説】家に帰ると哲学者が待っていた

新入社員が終わろうとしている。そんな僕は仕事を1年間してきて以前と変わってしまったことがある。それは部屋から出ようとすると息が苦しくなり、ドキドキしてしまうことだ。それでも毎朝早朝に起きて、身支度で30分、30分かけて職場まで行き、12時間会社に拘束され、30分かけて家に帰ってくるという生活を1年続けてきた。24時間のうち会社に13時間以上奪われ、残りの11時間を自分の時間として使っている。睡眠時間を削り好きな事をすればいいのかもしれないが、削る事が出来ずに7時間は寝ている。残りの4時間は自由な時間として使っている。

この話を他の会社の友人にして、相手の会社の話を聞いても、まだマシなのかも知れないし、ひどい会社なのかも知れないと感じている。そんな僕も入社してなんとか1年間耐えてきた。もう少しで2年目となる。あとこれが30年以上続くと考えるとおかしくなりそうだった。それでも、ほとんどの人は耐えて、耐えてなんとかしているのだろう。

最近、僕の悩みは「生きる意味」が見当たらなくなってきた事だ。

そうは言っても、僕はとても恵まれている。日本という平和な国に生まれ、世界でも高水準な教育を受け、スポーツ、恋愛、何でも好きなことをさせてもらい、大学を卒業した。大学3年生までの僕の人生で1度も過去に戻りたいと考えたことはなかった。

よく。学生たちは進学すると「昔に戻りたい?」という質問を友人としている。高校1年生になった時は、中学に戻りたい。大学1年生になった時は、高校生に戻りたい。そうやって答える人が大多数だろう、でも僕は違った。過去に戻りたいなんて学生の時は1度も思ったことはなかった。でも今は違う・・・。

戻りたい。

今は心のそこから学生の頃に戻りたいと思う。同じ生活をしたいかと問われるとそうではない。あの自由な時間に溢れた、勉強ができる環境で違うことをやりたいということ。現在は何の為に会社の駒になっているのかわからない状況をただ変えたいと思う。安月給を稼ぎ何にも使わず病院に行く時の払うお金となっている。この状況から逃げたい。

逃げたいなら逃げればいい、そう言ってくれる人もたくさんいる。今の仕事を辞めても仕事は山ほどあるし、どうにかなると・・・。それでも僕は辞めれない。

僕は夢を見ているのかも知れないが、転職したところで何も変わらないと思っている。できることなら「好きなことやって生きたい」問題は好きな事が何かわからない事だ。僕と同じように、現在の若者は「好きな事がわからない」人が多い。僕もその若者の1人のうちだ。そう思いながら1年が過ぎてしまった。

そして、今日もため息をつきながら、自宅に着いた。「生きている意味」は何だろう。このまま生きている方が辛いのではないかと思いながら。

部屋のドアを開けると写真のようなおじさんがいた。

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「若者よ。まあ座りたまえ」

疲れ過ぎていて幻覚を見ているのか、家に着いた途端寝てしまって夢を見ているのかわからないが、現実ではあり得ない事が起きていた。もしくは不法侵入しているヒゲが立派なおじさんがソファに座っているということだ。

「お、おじさん、誰ですか??え、え、え???」

「え?わし?アリストテレス

「ごめんなさい。多分有名なことかと思うんですが、わかりません」

「なかなかに失礼だね。君、まあいいんだけどさ。君は、【生きる意味】について考えているよね。ワシを筆頭に君みたいに悩みを持っている若者の悩みを解決してあげようかなという人がたくさんいてさ。」

「は、はぁ・・・・。」

「悩める子羊をさ、助けようと思って、大きな箱からくじを引いたわけよ。そしたら、日本が選ばれて、次に日本のくじを引いたら君を引いたわけ。めちゃくちゃラッキーだよ。君は。どのくらいラッキーかというと【Frane Selak】くらいラッキーだね。」

「その方は誰ですか?」

「Franeは、7回も死にかけるも生き延びた人間だ。電車事故で川に落ちようが、飛行機が墜落しようが、車が爆発しようが生還したとてもラッキーな男だ。そのくらい君はラッキーな男だ。」

「なるほど・・・。それでアリストテレスさんは何をしてくれるんですか?」

「君なかなかグイグイくるね。まあ、いいんだけどさ。ワシを含めた5人が君の【生きる意味】という悩みの解決の手助けをするって事だ。早速だけど始めるよ?後ろもつかえているし。」

「あ、お願いします。」

幸福こそは、われわれのあらゆる行いの目的・個別的に見ても、社会的に見ても、すべての人の目的は幸福以上!!!じゃあ次の人くるから!」

「え?待て待て待て待て!!!」

「なになになに???終わったて、以上だって、これ以上はないから本当に!離して!離して!時間ないカラァ!!!!!

「全然教えてもらえてないですよ!こんな奇跡みたいな事が起きているのに、こんなんじゃ終われません!」

「いやいや、君。すごいね?初めてだよ?引き止められるの。このあと4人くるし!もうワシ伝える事ないから。とりあえず、ワシが言った事を考えてみな?

そう言って、掴んでいた腕は薄くなっていき感触がなくなった。アリストテレスは何を僕に伝えたかったのだろうか。「幸福こそは、われわれのあらゆる行いの目的・個別的に見ても、社会的に見ても、すべての人の目的は幸福。」と言っていたが、簡単にいうと、「生きる意味は幸福になる事」という事だ。

生きる意味とは幸福になる事?幸福になる為に生きれば良いという事なのか?この後にも4人くると言っていた、その人たちの話も聞いて自分なりに生きる意味を考えてみよう。確かに、答えをもらうよりもヒントをもらって自分で答えを見つける方が自分専用の生きる意味を見つけられて良いのかも知れない。というか、幸福ってなんだろう。

あ、あとこれは、幻想でも夢でもないと気づいた。自分の意識はしっかりしているし、アリストテレスがいなくなって10分が経って、晩御飯を作っている自分もいるし、現実で起きている事だと確信に変わった。

「ピンポーン、ヘクトパスカルこと、パスカルでーす。」

扉を開けるとおじさんが立っていた。

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「どもども、パスカルです。さっきはアリストテレスが失礼したね。急に来てびっくりしたかい?クジで決まったから許してくれたまえ。まあ、驚くのも無理もないさ。とりあえず、現実だろうと、夢だろうと何だって良いじゃないか。僕たちは、君の疑問を解決しに来ているだけさ。それ以上でも、それ以下でもない。君は集中すべきことは、問題を解決することさ。あ、カレーライスかい?頂いてもいいかい?」

「は、はぁ。上がってください。」

「あんがと、あんがと、僕たちは君の人生を0歳から昨日まで録画で見てきたから、何も説明する必要はないよ。全て知っているからね。美味しいねこのカレーライス。」

「え?そんなこと可能なんですか?あ、ありがとうございます。」

「死人にそんなこと言われてもね?まず、死人と君が会っていることに疑問は出てこないのかい?何でもできるよ。」

「言われてみると・・・何でもありですよね。でもこれ現実ですよね?」

「君が現実だと思えば現実だし、現実じゃないと思えば現実じゃないのさ。そうだろ?きにする必要ないよ。話は戻すけど、君は生きる意味がわからないみたいだね?生きる意味なんて人それぞれかもしれないけど、僕が思う生きる意味を伝えるよ。」

「はい。」

「全ての人間は幸福になることを求めている。このことには例外がない。(中略)これは、あらゆる人間の、自ら首をくくろうとする人々にいたるまでの、あらゆる行為の動機である。」

それって結局。生きる意味は幸福になる為。ということですか?」

「それを考えるのは君の仕事だ。私が言えるのはさっきの言葉だけさ。それじゃああと3人くる予定だから、僕ももう行くね?」

「アリストテレスさんに続き帰るの早いですね。」

「一応時間は守らないといけないからさ・・・そうだ、日本人も時間は守った方が良いと思うよ?始まる時間は守るけど、終わる時間って全く守らないよね。守るなら、終わる時間も守ろうよ。それじゃ」

近所のおっちゃんみたいな人だったな。ここまでのことをまとめてみると、2人が言っていることは、なぜ人間は生きるのかは幸福になる為ということだ。やっぱり幸福というものが気になる。

あと、時間を守れって・・・。面白いこと言っていたな。日本人って世界で1番時間を守れない人種なのかもしれない。言われてみれば、会社の始業時間も守れていない気がする。始業の30分〜1時間ほど早くきていたり、終わりの時間も1時間〜5時間とか遅れている気がする。日本って面白い国だなぁ〜。

「タバコはどこに捨てれば良いかね?」

「え???あ・・・。」

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「フロイトだ。よろしく。」

「よ、よろしくお願いします。」

「君は・・・なぜそんなに病んでいる、人生辛いのかね?」

「え、急に・・・。辛いというか・・・」

「日本という国は素晴らしいじゃないか。差別もない、戦争もない、住むとこも食べるものある。仕事もある。何でもできる国じゃないか。」

「は・・・い・・・」

「おおお、急にすまんかったな。まあ時間がない、早速話そ・・う・・。まあ、良いか。少し話を聞きたまえ、」

「え。あ、お願いします。」

日本という国は平和だ。しかし、自殺者が多い。その事は知っていいるか?」

「は、はい。」

「戦争をしている国と同じだ。人が死んでいるのだからな。私は、日本という国は戦争をしている国よりもひどいかもしれないと考えている。戦争は、考えの違いなどで起きてしまう。悲しいことにな、しかし日本の場合は考えの違いにより死へと運んではいない。一方的なイジメで死へと運んでしまっているんだ。」

「そうなのかもしれません」

「そんな国だが、日本は恵まれている。食べ物も安定している。住むところもある。お金を稼ぐこともできる。働くこともできる。何よりも平和だ。日本で餓死をしたと聞いたことがあるか?日本の制度は働けなくなったとしても国が最低限のお金をくれる。そして、再就職先も一緒になって探してくれる。そのことを知らない人も多くいるがな。それほど恵まれた国なのだ。したがって、不幸になることも、幸福になることも自分で選ぶことが十二分にできる国ということだ。わかったか?」

「はい・・・・。」

「時間が少し過ぎたな。聞きたまえ、【人間は人生に何を求めているだろうか、人生において何を実現しようとしているだろうか。この問いはすぐに答えを示すことができる。人間が手に入れようとしているのは自分の幸福である。人間は幸福でありたい、幸福なままでいたいと願っているのである】

「先ほどの2名も似たようなことを言っていました。生きる意味とは幸福になることだと!では幸福とはなんでしょうか?」

「それは自分で考えることだ。さらばだ。」

「待って・・・あ、消えてしまった。」

多分これから現れる人たちも生きてる意味は幸せになることだと僕に伝えてくれるはずだ。多分生きる意味とはそういうことなんだろう。幸せになることが生きる意味なんだ。

ではどうやって幸せになるのか、僕の幸せとは何だろうか。美味しいものを食べる時?美女を奥さんとして迎えること?有名企業で働くということ?それは何なんだろうか・・・。

コンコンコン。

「開けてもらってもよろしいですか?」

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「どうぞ」

「ありがとうございます。あなたに残された時間もあと少ししかありません。私の名前はレフトルストイ。どうぞよろしく。」

「残された時間が短い??どういうことですか??」

「まあ良いから聞きなさい。【人がまず最初に考える人生唯一の目的は、自分という一個人の幸福である】ということだ。君が幸せに感じることは何だね?」

「僕が幸せに感じることですか・・・。」

「そうだ。」

「わからないんです。何をしているときが楽しいか、幸せか、」

「・・・・。最近は何をしているときが楽しかったか、幸せだったか覚えているかね?」

「新しい人と出会い、話をしているときかもしれません。あ、そういうことか!自分が経験した楽しいこと、幸せなことを仕事にすれば幸福になれるんですね。僕は接客業が向いているのかもしれません。」

「若者よ落ち着きなさい。確かに仕事が楽しければ人生は幸福になるかもしれない。仕事で考えてみようか。君はスターバックスが好きかね?

「好きです。」

「それでスターバックスに勤めるのはバカがすることだ。」

「え?」

「君はスターバックスのコーヒであったり、店員さんだったり、雰囲気が好きなだけであって、スターバックスでバリスタとして働くことが好きではないということだ。これに気づいていない人が多すぎる。」

「どういうことですか?」

「大学生の就活の時に自己分析という事を日本はするだろう。自分がどんな仕事に向いているかなどを調べる作業だな。あれで、小さい頃から服が好きだった、人と話すのが好きと分析をした人がいるとすれば、この人はアパレル業界を受けるだろう。これが間違っている。その人は、お金を使うことが好きなだけかもしれないし、自分が好きな服を着るのが好きなのかもしれない。友人と悪口を話すのが好きなのかもしれないしと考えればわかりやすいだろう。」

「なるほど、その人が好きだと思っているものは勘違いかもしれないということですね?」

「まあ、そういうことになるな。だから、君も安易な考えをしてはいけない。しかし、この日本という国は自分が好きなことを探すのはとても難しい国だ。小さい頃から親がどんな仕事をしているか知っている子供も少ない、仕事、お金に関しての教育もほとんどない。そんな状況で、高校3年生になった途端、就職するか、専門学校に行くか大学に行くかを選べと決められてしまう。さらに大学に行っても、仕事に関して学ぶことはほとんどないだろう。そして、就活が始まってしまい、一生働く自分にあった仕事を見つけろと言ってくるもんだ。そんなの不可能に近いだろう」

「でも、日本だけじゃないですよね?」

「そんなこともないぞ?そもそも新卒一括採用というのは世界を見ても行なっているのは日本くらいだ。海外では、インターンシップ先やバイト先にそのまま就職する人、研修生として採用される人や、普通に就職する人など様々だ。卒業後に休暇を取ってから働く人もいるし、学生の間にも高校卒業後にギャップイヤーという休暇を取ってから大学に進む人も多い。さらに、デンマークでは修士まで取得するのが当たり前になっていて、初めて就職するのが30代手前という人も少なくないんだ。」

「そ、そうなんですね。」

「そうだ、調べてみると、色々な国があるぞ。」

「でも、僕はもう就職もして、日本にいるんです。どうすれば、自分のやりたいことを見つけることができますか?」

「時間切れだ。それは最後の相手に聞いてみるといい。」

「あ、待って!教えてくだ・・・さ・・・い・・。」

消えてしまった。でも僕の中で何かが動いている気がする。そして、学んでいる、進化している。僕は生きる意味が自分なりにわかった。幸福になる為に僕は生きている。幸福になるためにはどうしたらいいのか。それが今の疑問だ。しかし、次の5人目が最後の人だ。時間が足りない。なぜ彼らはすぐ消えてしまうのだろう。

「ふ〜〜〜〜む」

「え???」

「ふ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜む」

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「ふ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜む。カントです。」

「カントさん、そんなに悩んでどうなさったんですか?」

「君の悩みは難しいなと思ってね。」

「ありがとうございます。」

「いえいえ、今までの4人との会話も聞いてきたよ。ちょっと今、考えているから待ってね?」

「わかりました。」

「今までの話を聞いて君なりの結論はでたかい?」

「はい。生きる意味とは幸福になる為であり、その幸福は自分の好きな事をすればいいということです。でも・・・好きな仕事って何かなって・・・。」

「ふ〜〜〜〜〜〜む。好きな仕事かい??レフトルストイも言っていたスターバックスの話の通りさ。論理的ではないけど、1つ話させていただくね?」

「お願いします。」

「とにかく動いてみるんだ。」

「とにかく動く??」

「社会人の現状で好きなことを見つけてそれを仕事にすることは難しいことだ。何が難しいのかというと、好きなことを見つけるということだ。社会人だと同じ生活をしていて、新しい出会いなんてほとんどないだろう。だから、このままだと絶対に出会うことがないであろう人と出会うんだ。今まで行ったことない場所に行ったりして。そして、その出会いを大切にしてたくさんの経験をしてみるんだ。」

「はい」

「そして、何か見つけてみたらあとは、行動し続けてみるんだ。知っていると思うが、YouTubeにはラーメンを毎日食べるだけでお金を稼いでいる人だっているんだ。ラーメンが好きで、時代の流れに合わせた働き方をしてみたんだ。そうやって、私の時代よりも相当便利な時代だ。なんでもできる。」

「わかりました」

「好きなことは、今まで出会ったような人じゃあない人と出会いまくること。その中で好きなこと、気になる事は絶対に見つかる。そうやって見つけたあとはがむしゃらに同じことをしている他の人の倍行動し続けること。ごめんね。僕たちも最初は楽勝と思っていたんだけど、現在の日本という国の若者の悩みは僕たちを持っても完璧に解決できる問題ではなかったようだ。少しでも力になれたら・・・」

「いえ!ここまでヒントを頂いたらあとは行動するだけです。僕なりの答えを見つけようと思います。本当にありがとうございました。」

そういうと光が僕を包み込み。全てが真っ白になってしまった。




目が覚めると僕は病院のベッドにいた。太陽が昇っている。

看護師さんから聞くと、仕事帰りに倒れて搬送されたらしい。

彼らが時間がないと言っていたのは、僕が目を覚ますまでの時間だったのかもしれない。だから、もうすぐ起きてしまうかもしれないから、急いで僕に教えを説いてくれていたのかもしれない。

彼らはくじを引いたと言っていた。どんなくじだったんだろうか。もしかしたら、自殺を考えてしまっている人たちのくじだったのかもしれない。僕はこの世界に絶望していた。何も楽しくないし。生きている意味が見出せていなかった。そんな人たちのくじに僕が当選したのかもしれない。

5人ともキャラが立っていて面白い人だった。そして、短い時間だったが僕の人生を変える教えを説いてくれた、僕がまずできることはこの出来事を誰かに伝えることだ。そうやって行動していこう。

すぐに会社を辞めてもどうなるかわからない。生きる意味は幸福になる為だ。そのために、もう少しだけ頑張ってみようかなと思う。目標は3年目になる前だな・・・。

あ〜。まず今起きた出来事を誰かに伝えて、次は何をしようか。どんな人たちに出会おうか・・・。これが幸福になる第一歩なのかな?

また、幸せになろうかな?

生きる意味見つけたし。

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