見出し画像

小説「15歳の傷痕」65~プールデート1

<前回はコチラ>

― Beach Time 2 ―

「あっ、ちょっと待って下さい、先輩!」

「んっ?どうしたの?」

浮き輪を持って流れるプールに向かっていた俺を、森川さんが止めた。

「先輩、日焼け止め塗らなきゃ、明日から大変なことになります!日焼け止め、塗りましょう!」

「あっ、そうだね!俺も持って来てたんだ。俺も日焼けしたら真っ赤になって、痛くなって、かゆくなるんだよね」

「じっ、実は、失礼ながら、ミエハル先輩、色白でいらっしゃるじゃないですか。アタシもどちらかというと色白だから、日焼けしたら大変なのを分かってるので、先に日焼け止め塗らなきゃ!って思い出しました」

森川さんと俺はレジャーシートに戻った。

「じゃ、日焼け止めを塗ろうか…」

俺は自分のバッグから、日焼け止めを取り出した。森川さんも自分のバッグから日焼け止めを取り出し、ビキニで覆われてない部分を塗り始めた。

「さてと…」

腕と顔、お腹に塗ったが、なんとそこで俺の日焼け止めは無くなってしまった。

「アチャ…。残りが…。森川さん、ちょっと待っててね。日焼け止め買ってくるから」

と俺は売店に向かおうとしたが、森川さんが止めた。

「あっ、先輩、買わないでもいいですよ〜。じ、実はアタシ、先輩の分も日焼け止め、持ってきましたから…」

森川さんはそう言うと、少し照れながら2つ目の日焼け止めをバッグから取り出した。

「えっ?森川さん、わざわざ俺のために?」

「はっ、はい!これ、使って下さい!」

まだ開封もされてない日焼け止めを、森川さんは俺にくれた。この心遣いに感激しない男はいないだろう。

「いいの?新品だけど…」

「はいっ!先輩のために買っておいたんです。使って下さい!」

「ありがとうね、色々と…。じゃ、使わせてもらうね」

俺は日焼け止めを開封し、残っていた両足に塗った。

「あっ、あの、あのー、せっ、先輩!」

「ん?」

森川さんは今日一番の赤さと言っても過言ではない真っ赤な顔になって、俺に言った。

「お、お願いがあるのですが、聞いて頂けますか?」

「お願い?あ、日焼け止めの代金かな?払うよ。いくらかな?」

「いっ、いえ!そんなケチなことじゃないです。あの、あの…、アタシの背中に、日焼け止めを塗って頂けませんか?いえ、無理に塗れなんて言いません、もし先輩さえ良ければなんですけど」

俺は苦笑いしながら答えた。

「森川さん、緊張しすぎだよ。いくらでも塗って上げるよ」

「ほっ、本当ですか?う、嬉しいです!ありがとうございます!」

「逆に俺が塗るなんて、女の子に申し訳ないくらいだけど」

「そんなこと、ないですよ!じゃ、じゃあうつ伏せになりますので、アタシの手の届かない所、お願いします!」

そう言うと森川さんはレジャーシートの上でうつ伏せになった。

ビキニのトップスとアンダーの間の、綺麗な背中が目に入る。

(こんな綺麗な背中に、触れていいのか、俺は…)

俺は何故か緊張しながら、森川さんの背中に、日焼け止めのクリームを塗り始めた。

最初は首の後ろ辺りから塗ったのだが、俺の手が触れた瞬間、森川さんから、あぁっ…という官能的な声が聞こえた。
悲しい男の性で、その声と、森川さんの肌の感触と、ビキニの後ろ姿で、俺のある部分が硬直化してしまった…。
特にお尻の部分なんかは、ブルマ姿で見たことはあるものの、明らかにブルマよりもビキニパンツの方が角度は急なので、体育で日焼けしたであろう、ブルマに沿った日焼けのラインが分かり、余計に俺の自制心を大いに乱した。

幸い海パンは、余裕のあるタイプを選んでいたので、パッと見では分からないと思うが、その一部分が森川さんの体に触れないよう、腰を引きながら日焼け止めを塗る羽目になった。

「ミエハル先輩の手、気持ちいいです…。とろけそう…」

「ほ、本当に?あっ、ありがとうね」

俺はビキニのアンダーのウエスト部分まで日焼け止めを塗り、終わったよ、と声を掛けた。

俺が女性の背中に日焼け止めを塗るなんて、子供の頃に母親の背中に塗って以来だ。
だからほぼ初体験と言っても過言ではない。

それを、元カノの神戸さんでもなく、一応俺のことを好きとは伝わってはいるが、まだ正式に付き合っているわけではない森川さん相手にやったことが、俺の心のドキドキを加速させている。

「先輩、ありがとうございました!先輩、とっても気持ち良かったです。マッサージとか、しておられるんですか?」

「いっ、いや?してないよ。とにかく森川さんの綺麗な背中を汚さないように、痛くないようにって…」

俺は冷や汗をかきながら言った。そこで森川さんがうつ伏せの体勢から起き上がり、俺の方を向いた。

「じゃ、今度はアタシが、ミエハル先輩の背中に、日焼け止めを塗ります!」

「えっ、いいの?」

「も、もちろんです!先輩も背中は塗れてないですよね?」

「うん。確かに…。じゃ、じゃあお願い出来るかな?」

「はいっ!じゃ、うつ伏せになって下さいね」

俺はまだ硬い体の一部を、森川さんから見えないようにしつつうつ伏せになった。

「じゃあ塗りますね、先輩」

「うっ、うん、よろしくね」

数秒後、俺の背中に、森川さんの手が触れた。

(女の子の手だ…)

一生懸命に、俺が日焼け止めを塗れていない所に、入念にクリームを塗ってくれる。
その甲斐甲斐しさが、今の俺には愛しく感じ、さっき本能的にとはいえ、エッチな視線で森川さんを見てしまったことが恥ずかしくなった。

「はい、終わりです!先輩、やっぱり男の人ですね、背中が大きかったですぅ…」

俺はありがとうと言いながら起き上がった。

「森川さんは、兄弟姉妹っているんだっけ?」

「アタシですか?アタシには、年が離れたお兄ちゃんが1人います」

「離れてるんだ?今、大学生くらい?」

「いえ、もう大学を出て働いてます。だから、7歳くらい年上なのかな?」

「そうなんだ…。じゃあお兄さんと言っても、あまり関わりは無かったのかな?」

「いえ、逆にアタシが小さい頃は、よく遊んでくれましたよ。小学生になる前くらいまで、ですかね。でもそれからは、お兄ちゃんが中学生で、アタシが小学生だから、それぞれお友達と遊ぶ方が増えましたけど」

「そっか、じゃあ俺ぐらいの年頃の男って、森川さんには新鮮なのかな?」

「そ、そうですね…。アタシ、先輩にはもうバレバレだと思うんですけど、物凄い臆病なんです。だから実は、先輩のお家にお電話するのに、一週間掛かったんです…」

「一週間!?」

「はい…。もうきっと若本さんから聞いてると思うんですけど、アタシは先輩のことを、一度嫌いになろうとしたんです」

「うん…」

「クラスマッチで、先輩がペア組んでた山田さんと、あまりに素敵なカップルみたいな雰囲気だったので、アタシ、もうダメだ…と思って、先輩への思いを断ち切ろうとしたんです」

「…うん、聞いたよ…」

「そのことを山中先輩と、若本さんに告げたんです。そしたら山中先輩は山中先輩なりに動いて下さって、山田さんと上井は何もないから、安心しな、って言って下さいました」

山中は俺が言ったことを、ちゃんと森川さんに伝えていたんだな…。

「問題は若本さんなんです。同じように、山田さんとは先輩は付き合おうとか思ってないから、その点は安心しな、って教えてくれたんですけど…」

「……」

若本が俺に伝えた言葉が脳裏をよぎる。

「アタシも、ミエハル先輩が好き、って。若本さんはそう言ったんです」

「……」

「若本さんは、競争しようって言いました。アタシはミエハル先輩を好きだけど、夏のコンクールで金賞を取るまで、思いは封印しておくって。コンクールで金賞って、かなり難しいんですか?」

「そうだね…。今までこの高校は、金賞取ったことがないんよ」

「ひゃあ、そんなに大変なんですか…。若本さんが言うには、そういうハンディを自分に課すから、その代わり森川は夏休み中、先輩に会えないだろうから、生徒会の連絡網でも使って泳ぎに行きませんか?とか、誘ってみたりすればいい、と言ったんです。言わば、アタシと若本さんの間で、ミエハル先輩の争奪戦が始まったって訳です」

こんな時にどう答えてあげればよいのか、俺は恋愛経験の無さゆえに、適切な言葉が出て来なかった。

「さっき…電話に一週間掛かったって言ったよね?アレはどういう意味かな?」

俺はなるべく明るく喋ってみた。

「あっ、一週間ってのはですね、アタシと若本さんの間で、先輩について話をしたのが終業式の日なんです。そこから、先輩と海かプールに行けたらなぁ…って思い始めまして、よし、電話して先輩の予定を聞いてみよう!と思ったんですが、毎日受話器まで手は伸びるんですけど、その先に進めなくて…」

「そういうことなんだね。分かるよ、異性の家に電話するのって、緊張するもんね」

「そうなんです。やっとアタシの中の勇気が背中を押してくれたのが、金曜日だったんです。8月に入ると、先輩は勉強や吹奏楽部で忙しくなる、その前に!って思いまして、この土日のどっちか、先輩の予定が空いてますように…って祈りながら、電話したんてす」

「なるほどね…。あっ、だからその一週間の間に、泳ぎに行くグッズの準備とかはしてたんだ?日焼け止めとか…」

「そっ、そうです。水着も先輩の前で恥ずかしくないのをと思って、新しいコレを買ったんです」

森川さんはそう言って、ビキニの胸の飾りをいじった。

「そうなんだ…。ありがとうね、俺みたいな男のために、物凄い気を使わせちゃって。」

俺は感激した。今この場で、今日から付き合おうと言っても良いとまで思った。ただ森川さんはこう付け加えた。

「ミエハル先輩に喜んでもらえるなら、アタシも嬉しいです!きっとアタシの思いは、先輩にはもう届いてると思います。だけど、若本さんと話をした以上、夏の吹奏楽コンクールの結果が出るまで、アタシも先輩への思いは封印しておきます。だから今日は、封印している間も思い出せるような楽しい思い出を作りたいんです」

森川さんは、今朝会った最初の頃はつい緊張して言葉が上手く出て来なかったが、今はスムーズに思いの丈を喋ってくれた。

「うん、分かった。若本もだけど、森川さんの決意も、受け止めたよ。じゃまぁ、とりあえずなんだかんだで水着になったのに一度もプールに入ってないから、まずは一周流されてこない?」

「はい!そうしましょう!」

俺と森川さんは、再び浮き輪を持って、流れるプールへと向かった。


「楽しかったね!」

「はい!一周じゃなくて、何周しちゃいましたっけ?」

「数え切れないほどだよね」

「だって先輩、突然消えた?と思ったら、流されない男とか言って立ってるし、可笑しいんですもん!」

と森川さんはレジャーシートに座って、大笑いしていた。流されない男というのは、2週間前に神戸さん達と来た時にもやったが、受け方が同期生のみんなとはまた違っているのも楽しかった。

「じゃ、森川さんがせっかく作ってくれたお弁当、食べようよ」

「あっ、はい!朝、頑張って作ってみました。先輩の好きなものがあればいいんですが…」

と森川さんは竹で出来た弁当箱を2つ、バッグから取り出した。

俺はワクワクしながら、2つとも蓋を開けた。

「うわぁ〜、凄い!」

片方はサンドイッチを中心としたパン食の弁当、もう片方はおにぎりを中心とした、唐揚げやオカズが入った弁当だった。

「どっちも全部大好きだよ!これ、全部今日の朝に作ったの?」

「あ、一部は昨日の夜から用意してたのもあります。サンドイッチとかは昨日の夜から具材挟んで、辞書を載せて圧縮させてましたよ」

「美味しそう〜。いただきます!」

俺はおにぎりに手を出した。ちゃんと三角形に結んである。なかなか三角形に結ぶのは難しいのだが、森川さんはしっかりと三角形に結んでいた。

「おにぎり、美味しいよ〜!塩加減も絶品だし、梅もほどほどだし。お店出せるよ、森川さん!」

「そんな先輩…。褒め過ぎですぅ…」

「本当だよ。もう一個、いい?」

「はい、もちろんです!」

そう言って俺は4個入っていたおにぎりの内、3個を一気に食べてしまった。それを森川さんはニコニコしながら見ていてくれる。
本当に料理も上手で、素敵な女の子だなぁ…。

「俺ばっかり食べてるけど、森川さんも食べてね」

「はい!」

ちょっと遅い昼ごはんは、2人にとって忘れられない時間になった。

「ご馳走さまでした!」

竹で出来た弁当箱は、2つとも空っぽになった。

「先輩、ありがとうございます!全部食べて頂けて、嬉しいです♪」

「サンドイッチも唐揚げも美味しかったし、どれもこれも美味しかった〜。将来森川さんと結婚する男は、幸せだよね」

「けっ、結婚!ひゃー、まだまだアタシには考えられないです!でも、そう言って頂けて、本当に嬉しいです…」

森川さんはそう言うと、顔をまた赤くして、照れていた。

「ちょっとお腹が落ち着いたら、もう1回プールに行こうよ」

「はいっ!もう少し泳ぎたいです!」

「さっきは流されたから、今度は滑り台とか行かない?」

「いいですよ。でも先輩、また何か面白いこと、考えておられるんじゃないかな、なんて」

「それは後でのお楽しみに…ね」

「はい、楽しみにしてます!」

これまで、初めての森川さんとのデートは無事に進んでいる。だが最後にビックリするような事が起きるとは、この時にはまだ2人とも分からなかった。

<次回へ続く>


サポートして頂けるなんて、心からお礼申し上げます。ご支援頂けた分は、世の中のために使わせて頂きます。