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コラボ作品

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#コラボ作品集

コラボ作品集《端午の節句》 2

コラボ作品集《端午の節句》 2

 
 
 
『父』 
 楽な儲け話に失敗し、ふらりと家に帰った俺に

「酒はやらねぇぞ、ケツが青いうちはちまきでも食ってろ」

 親父はそう言った。
 季節は五月。見慣れた古い鎧兜が、その時もまだ飾られていた。

 あれから15年。ちまきを頬張る息子を膝に乗せ、俺は仏壇の中の親父と静かに酒を酌み交わす。

 心配かけたな、親父。
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
☆俳句

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コラボ作品集《端午の節句》1

コラボ作品集《端午の節句》1

『継ぐ波に乗せ』
 
 
「ほら、しっかり持て!」
「持ってるよ!」
 
 息子の為に親父と幟を持って奮闘する。
 
(うわ…)
 
 重さに焦り、しなる幟を立てた時には汗だくだった。
 
 「フ〜」
 「何だ、若いもんが」
 
 笑う親父に、ふと思い出す。
 
(親父は昔、一人でやってくれてたんだな)
 
 はためく親子鯉を見上げれば、抜けるような青空だった。

俳句 kusabue

140字

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コラボ作品集 《雪》9

コラボ作品集 《雪》9

 
 
 
『偲ぶ』
 
 シミだらけの古い写真を引っ張り出してきた。
「戦後の食いもんもろくにねぇ時代だったなぁ。大雪が降って近所の悪ガキと雪合戦だ。仇取るみてぇによ、ほらこいつらだ」
 窓の外は雪。
「みぃんな先に逝っちまいやがってよ……」
 顔を上げ、ゴツゴツした手をさすりながら老人は目を細めて、降る雪を眺めた。
 
 
 

 
 
 
☆俳句     kusabue
☆140字小説 

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コラボ作品集《桜》 1

コラボ作品集《桜》 1

 
 
 
『桜吹雪く』 
 穏やかな川面を、滑るように小舟がゆく。
 綿帽子に隠れた島田には、母の形見の簪がひとつ。

高砂やこの浦舟に帆を上げて

お母さんお母さんきっと……

 岸に立つ若者が手を差し出す時、一瞬の風が花を吹雪かせた。薄いその一枚が、娘の懐に仕舞われた筥迫に舞い降りる。

 娘は若者に、自分の手をそっと預けた。
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
☆俳句    

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コラボ作品集 《雛祭り》1

コラボ作品集 《雛祭り》1

 
 
 
『宵の宴』
 
 これ右大臣よ、少々呑みすぎではあるまいか?
 良いではありませぬか、帝。今宵はこの家の娘の初節句、祝いの席にございます。
 左様にござりますぞ。ほれ、お囃子も盛大にめでたいめでたいのぅ。

 健やかに育てと幼子を祝う、暫し宵の宴。

 今年も来年もと末永くの願いを込めて 、内裏は凛と、桜橘が匂いたつ。
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
☆俳

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コラボ作品集 《バレンタインデー》 2

コラボ作品集 《バレンタインデー》 2

 
 
 
『もうひとつの記念日』
 
「ふたりが橋の上ですれ違ってから5カ月、お前の腕も大したことないな。キューピットはすぐに恋に落とすもんだぞ」

「本物の恋をするために時間をかけさせたのさ」

 彼女、毎日泣いていたからな。あの時、僕が放った矢にはこっそりチョコレートを塗っておいたのさ。

 今日が、忘れない記念日になるように。
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
☆俳

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コラボ作品集《バレンタインデー》1

コラボ作品集《バレンタインデー》1

『 Sweet Black Diamonds' Day 』

 
 
 もらえる…。
 
 もらえない…。
 
 
 …別にそれが欲しい訳じゃない。そもそも甘い物苦手だし。
 
 本当に欲しいのは、濡れたように煌めく黒曜石…いや、僕にとってはダイヤだ。
 
 僕を見つめる二粒の宝石。
 
 あのダイヤを独占する第一歩として、まずは、ほろ苦いけど堪らなく甘い、想いこもった一粒を手に入れなければ。

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コラボ作品集 《お正月》2

コラボ作品集 《お正月》2

 
 
 
『あなた、見てますか』
 
  火鉢に乗せた網の上で、少し焦げた所からプーっと膨らんでね。まるで下ぶくれの福笑いの顔みたい。
 お餅を焼きながら、そんなことを言ってふたりで笑いましたよね。

「おばあちゃん、お雑煮できたわよ」はいはい、と言って抱いたひ孫を返す。
 今年も賑やかに、無事お正月を迎えられましたよ、おとうさん。
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
☆俳句     ku

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コラボ作品集《お正月》1

コラボ作品集《お正月》1

『仁義はある闘い』

 勝敗は一瞬。
 その残酷な一瞬に、持てる力の全てを注ぎ込む。

「かく…」
 パシッ!

 乾いた音が響き、四角い凶器が弾け飛ぶ。

 ビシッ!
「翠さんの勝ちー」

 敵に命中した瞬間、判定を告げる草笛主審の声。

 ああ、無常。

 歌留多にまみれて燃え尽きた悠凜は、その後、草笛主審お手製の雑煮を貪り食うのであった…。

※この話はフィクショ

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コラボ作品集 Special Thanks

コラボ作品集 Special Thanks

「 聖なる夜 」

今夜もたらふく酒を飲んだ。
屋台の主人も呆れるほど。

千鳥足。
駅をめざし歩く。独り。独り。

街の灯のまぶしいこと!
独り。妻子への手土産も忘れ。

あっ!と自転車とすれ違った。
天地が逆転したーーー

気づいたらベッドの上。病院。
そばにみんな居た。子供達が、妻が。

聖夜、
家族の前で初めて私は泣いた。

俳句 kusabue
140字小説 ku

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コラボ作品集 特別編 《クリスマス》5

コラボ作品集 特別編 《クリスマス》5

 
 
 
『たったひとりの』
 
  さぁ、子供達へメリークリスマス!
 
 くたびれたサンタの衣装を脱ぎ、モールの事務所に返す。今日は何人の子供の頭を撫でただろう。
 彼は立ち寄った店で、真っ赤なひざ掛けを買った。ラッピングされたその包みを持って、老妻のいる施設へ向かう。
 
 ふと、独り言が漏れた。
 
「今夜は俺を思い出すだろうか」と。
 
 
 
 
 
 

 
 
 
☆☆゚・*:.

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コラボ作品集  特別編《クリスマス》4

コラボ作品集  特別編《クリスマス》4

『思い出の甘さ』

「まぁた子供よりニヤけて」

 クリスマスケーキにニヤける貴方。
 忙しいご両親に誕生日も忘れられ、思い出、と言えばイヴのケーキだけとか何とか。

「だって昔、楽しみだったんだよ」
「ケーキが洋生(ようなま)って言われてた昔?」
「そんな昔じゃない!」
 ムキになる貴方が可愛い。

 私達との思い出になる、今。

俳句 kusabue
140字小説 悠凜

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コラボ作品集 特別編《クリスマス 》3

コラボ作品集 特別編《クリスマス 》3

『笠サンタ』

「あの雪達磨ってアレだよね」
 外を眺めていた君が言う。
「あれ?」
「ほら…贈り物くれる」
「サンタ?」
「違うよ!ほら、お礼に…」
(お礼?)
 不思議に思い、見れば昨日はサンタ帽だったのに、今日は何故か編み笠。
 積もるたんびに違う形もいいけど…。

「あれじゃ、笠地蔵だ」

 笑いこぼれる聖夜。

俳句 kusabue
140字小説 悠凜
イメージ 吉田翠

コラボ作品集 特別編 《クリスマス》2

コラボ作品集 特別編 《クリスマス》2

 
 
 
『そんな気分もいいじゃない』
 
  そこのバーテンダーは女だった。
 カウンター越しに、人生の悲喜交々を垣間見る。
 
『今日はみんな何となくいい嘘ついてたわ。イブだものね』
 
 閉店後のひと時、今度は自分のためのとっておきを作る。柑橘を加えたホットワインの、仕上げはシナモン。
 
 忘れたはずの人。その面影に「乾杯」と、グラスを傾けた。
 
 
 

 
 
 
 
☆俳句   

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