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2017年11月の記事一覧

コラボ作品集 《雪》9

コラボ作品集 《雪》9

 
 
 
『偲ぶ』
 
 シミだらけの古い写真を引っ張り出してきた。
「戦後の食いもんもろくにねぇ時代だったなぁ。大雪が降って近所の悪ガキと雪合戦だ。仇取るみてぇによ、ほらこいつらだ」
 窓の外は雪。
「みぃんな先に逝っちまいやがってよ……」
 顔を上げ、ゴツゴツした手をさすりながら老人は目を細めて、降る雪を眺めた。
 
 
 

 
 
 
☆俳句     kusabue
☆140字小説 

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コラボ作品集《雪》10  最終話

コラボ作品集《雪》10 最終話

『晴れ傘』
 
 
 微かに聞こえる鈴の音。水気を含んだ大粒の牡丹雪が揺らしている。

「明日は晴れたら傘差してけ」
 伯父がボソリと言った。
 降った後、晴れると屋根から雪崩れる雪。埋もれた時、息を繋ぐ僅かな隙間を確保するためだ、と言う。

「じゃ、日傘でも差してこ」
「ばっか」

 強面の伯父の顔が冗談に綻んだ。

俳句 kusabue
140字小説 悠凜

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コラボ作品集《雪》8

コラボ作品集《雪》8

『黒く輝き』

 山岳救助、特に雪山は命がけ。隊員が帰らぬ事もある。
 ルートと天候を読み、出来る限りの準備をして尚、自然には敵わない。力及ばすに沈んだ顔を見る辛さ。
 今日も無事に保護出来ただろうか。━━とその時、扉が開いた。

 不安気な眼差しを受け、真っ黒に雪焼けした男たちの顔がくしゃっと笑った。

俳句     kusabue
140字小説 悠凜
イメージ  

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コラボ作品集 《雪》7

コラボ作品集 《雪》7

 
 
 
『雪ものがたり』
 
 
 誰?わたしを呼ぶ人は。

 今年もたくさんの物語を見つめるわ。

 涙もぬくもりも、わたしが寄り添えば一枚の絵を見るようね。

 わたしは大丈夫。儚い命を繰り返し生きるわ。どんな色にも染まるけれど、決して誰のものにもならないの。

 そんなことを思いながら、わたしは呼ぶ人に応える。

「今、舞い落ちるわね」
 
 
 

 
 
 
☆俳句     kus

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コラボ作品集 《雪》6

コラボ作品集 《雪》6

 
 
ついに巨匠起つ!
コラボ企画140字小説に真打ち登場!
ここでしか読めない!(たぶん)
 

 
 『 恋 』
 12月25日は君の誕生日。
今日からちょうど1ヶ月後。

これまで何度一緒にお祝いをしただろう。
数えるのも野暮だ。

テレビが初雪の東京を映しだしている。
いま君が暮らしている場所。

僕は雪の降らない故郷の街で、目をとじて君を想う。

心に雪を舞わせて。

 
そして聖

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コラボ作品集《雪》5

コラボ作品集《雪》5

『雪灯、心灯』

 飛び出して十余年。一度も帰っていない故郷。偉そうな事言って、成さずに戻る情けなさ。
 親父は何て思うだろう……いや、本当はわかってる。だから、せめて素直に言おう。
『ただいま』
 親父はきっとこう言ってくれるだろう。
『……おう』
 
 走り始めた夜行バス。舞い始めた雪。親父の灯りを思う。

俳句 kusabue
140字小説 悠凜
イメージ 翠

コラボ作品集 《雪》4

コラボ作品集 《雪》4

 
 
 
『京ひとり』 
 
 古い街がよく似合う古い女だと、あなたはそう言ってわたしをよくからかった。
「そうね、そういう女は強いのよ」
 そう返しては、厚みのある胸にひたいを少しくっつけて笑った。 それを本気にした人。

 振り返りひとり登ってきた坂道から古都の街を見る。
 寒いはずね、とその言葉が雪の中に溶けていった。
 
 
 

 
 
 
☆俳句     kusabue
☆140字

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コラボ作品集 《雪》3

コラボ作品集 《雪》3

 
 
 
『声援』 
 
 一段と吹雪いてきた。

 目の前を通り過ぎる今、小さな掌で固めた雪の玉を持ち、鼻水を垂らしながら走り回っていたあの子の姿が蘇る。
 どれ程の練習に耐えて夢を追いかけて来たことか……

 タスキを繋ぐまであと300メートル。その背中を見つめながら、祈るような言葉が漏れてくる。

「まだ、泣くな」と……
 
 
 

 
 
 

☆俳句      kusabue
☆1

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コラボ作品集 《雪》2

コラボ作品集 《雪》2

『明くる』
 運が悪い人間とは、僕の事に違いない。
 
 死にたくなる程の失態を演じた日。身体を縮めて歩く僕の目に入ったのは、今どき珍しい街頭テレビ。画面の中も灰色の雪景色。
「そうか…スキー競技の大会か」
 自分には関係ない。通り過ぎようとした時、目を射る銀の光。思わず立ち止まり目を見張った。
 雪が舞い散る、一面の銀世界。選手達の板が光を引いて煌めく。まるで白銀に輝く朝陽のように。
 (…夜

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コラボ作品集 《雪》1

コラボ作品集 《雪》1

ぬくもる

「また降って来とう」
「ご苦労さん。あっついお茶淹れてるすけ」
  雪ほげを終えた父ちゃんが寒そうに炬燵に潜り込む。湯呑を両手で包み、赤い頬と鼻に立ち昇る香気と湯気。
「今晩も降りそうだすけ、止んでる内にしとかねば道付けも出来んようになるで」

 家族の為に頑張った背が満足気に丸まった。

俳句 kusabue  
140文字小説 悠凜
イメージ 翠