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#読書

雪よ林檎の香のごとくふれ

雪よ林檎の香のごとくふれ

北原白秋の最も有名な歌

君かへす
朝の敷石さくさくと
雪よ林檎の香のごとくふれ

君が帰る朝、敷石がさくさくと音をたてる。
雪よ、林檎の香りのように、匂やかにさわやかに甘酸っぱい香りを辺り一面に振り撒いて降ってくれ。
そして、優しく彼女の足跡を消しておくれ。

これは、
隣人の妻と恋愛関係に落ち、
姦通罪で投獄された白秋が、
その女性を思って詠んだ歌。

このふたつあとに

ああ冬の夜
ひとり汝

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落下する夕方

落下する夕方

「木端微塵だよ。もう、言われる言われる。『期待されるのは大嫌い!』とかさ」
健吾は華子の口調を真似た。
「期待?」
「『好意を注ぐのは勝手だけれど、そちらの都合で注いでおいて、植木の水やりみたいに期待されても困るの』」
私は相槌に困った。
「容赦ないのね」
まったくな、と言った健吾の声は、座礁した船の船底みたいにいたいたしい。

落下する夕方 / 江國香織

ひとに絶望すると、条件反射的に思い出す

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未生流いけばな教本

未生流いけばな教本

未生流いけばな教本 肥原碩甫

久しぶりに紐解く懐かしい教本。
わたしは華道は未生流で、茶道は裏千家。

西洋のフラワーアレンジメントは習ったことがないのでわからないけれど、日本の華道の基本というのは非常にロジカルだ。

盛花の体用型A

これはお正月によく活けることがある若松の格花

いえ、なぜこの教本を久しぶりに紐解くことになったかというと、最近自分で生けるお花があまりにもひどいから。

そう

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欲しいのは、あなただけ

欲しいのは、あなただけ

むかしむかし、好きになった人たちを思い出すとき、わたしはいつも、弟のことを思うような優しい気持ちになる。だって、昔好きになった人は、好きになったときには年上だったのに、今はみんなわたしよりも年下なのだ。彼らは年を取らない。永遠に年下のまま成長を止めて、わたしの胸のなかで生き続ける。

欲しいのは、あなただけ
/ 小手鞠るい

ひとりの女、かもめが好きになったふたりの男。

ひとりめは19歳学生のと

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