ナイルの庭

本や映画、おいしいものが好き。 それよりなにより、神戸が好きです。

ナイルの庭

本や映画、おいしいものが好き。 それよりなにより、神戸が好きです。

マガジン

最近の記事

雪よ林檎の香のごとくふれ

北原白秋の最も有名な歌 君かへす 朝の敷石さくさくと 雪よ林檎の香のごとくふれ 君が帰る朝、敷石がさくさくと音をたてる。 雪よ、林檎の香りのように、匂やかにさわやかに甘酸っぱい香りを辺り一面に振り撒いて降ってくれ。 そして、優しく彼女の足跡を消しておくれ。 これは、 隣人の妻と恋愛関係に落ち、 姦通罪で投獄された白秋が、 その女性を思って詠んだ歌。 このふたつあとに ああ冬の夜 ひとり汝がたく暖炉(ストーブ)の 静こころなき吐息おぼゆる ああ、寒い冬の夜、ひとりき

    • バックスタンプは語る

      今日のおやつは 昨日作って冷やしておいた りんごのコンポートにバニラアイス それに ダージリンのストレートティ カップは久しぶりにウェッジウッドのキャベンディッシュ。 ウェッジウッドのカップは二組持っているのだけど、両方とも結婚するときに、実家から持って来たものです。 このカップをじっくり眺めてみるのが、案外と楽しい。 カップはその美しい装飾が、それだけで既に十分雄弁だけれど、もしそれ以上にカップを語るものがあるとすれば…。 それは、カップの裏、ソーサーの裏などに押し

      • 放香堂珈琲

        放香堂珈琲 昨日は美容院で元町へ。 最近、美容院で元町へ来たときに時間があれば、こちらで珈琲をいただくことに決めている。 当店は日本で最古のコーヒー店として各メディア様、三省堂カタカナ辞典や東京書籍 中学校歴史の教科書などにてご紹介いただいております。 / 放香堂珈琲HPより そうなの、日本最古の珈琲屋さん。 なんと豆を石臼で挽いて、それをフレンチプレスで淹れはる。 もちろん石臼挽きだから、豆の粒には多少の大小ができるわけで、それがすごくいいお味だしてるの。 そういう

        • あかし

          源氏物語 第十三帖 明石 ひとり寝は 君も知りぬや つれづれと 思ひあかしの 浦さびしさを 独り寝は寂しいものとあなた様もお分かりになったでしょうか、所在なく物思いに夜を明かす明石の浦の娘心のうら寂しさを 明石の入道が光源氏に詠んだ一句。 この明石の浦の娘心の娘とは、明石の入道の娘で、将来、今上帝の中宮となる明石の姫君を産む明石の御方のこと。 神戸に住んでいながら、わたしにとっての明石はこの明石の御方なのです。 明石の御方は憧れの女性でもあります。 何ごとも控えめで、

        雪よ林檎の香のごとくふれ

        マガジン

        • エッセイ
          21本
        • Book
          13本
        • 神戸
          7本

        記事

          鯛のあら炊き

          今日のお昼ごはんは鯛のあら炊き 鯛といえば、谷崎潤一郎の細雪を思い出す。 細雪の冒頭の部分。 蒔岡家の四姉妹と次女幸子の夫の貞之助が、恒例の京都での花見を終えたあとの宴席でのこと。 貞之助が幸子のことをこういう。 このひとは、 桜は京都、 魚は鯛、 それも、 明石の鯛やないとあかん 細雪 / 谷崎潤一郎 そう、お正月とかの大切な行事の時に御前にのぼる大きな鯛の姿焼きは、明石の鯛やないとあかんかったなあと、しみじみ思い出す。 それともうひとつ、あら炊きといえば、ズシ

          鯛のあら炊き

          おはぎ

          おはぎと温かいお煎茶をいただく。 春のお彼岸にいただく牡丹餅と、秋のお彼岸にいただくおはぎには実は少し違いがある。 春のお彼岸の牡丹餅はこしあんで、秋のお彼岸のおはぎはつぶあん。 そして、大きさも牡丹餅は牡丹の花のようにぽってりと丸く大ぶりで、おはぎは萩の花のように小ぶりで俵型。 なんとも可憐な花の名の付くお菓子やけど、これは仏事のお菓子なんよね。 わたしもついうっかりしてしまうけど。 今日は秋のお彼岸の中日。 おはぎ、おいしくいただきましたよ。

          そばぼうろ

          元町本通りにある 浮世あられの花見屋さん。 こちらも一昨日にお伺いしたとこ。 祖父母の部屋へ行くと、花見屋さんのお好みあられとそばぼうろが必ずあった。 それに粟おこし、甘納豆。 これは祖母のチョイス。 祖父はまた違うねん。 祖父はチョコレートにクッキーに、むかしトーアロードにあったセントラルベーカリーの焼きたてほわほわのクリームパン。 これは間違いなく、わたしをおいでおいでしてたんやと思う。 このお部屋で戦争の話もよく聞いたなあ。 祖母が亡くなったあとも、阪急西口をで

          そばぼうろ

          主菓子の思い出

          昨日は用事で元町へ出掛けたので、久しぶりに元町本通りの二つ茶屋さんへ。 長月の主菓子二種 御銘 秋の野 御銘 初秋 二つ茶屋さんの主菓子には、懐かしい大切な思い出がある。 阪神大震災よりもむかしの話。 わたしは元町本通りのゑりうさんにお茶とお華のお稽古に通っていた。 その時に先生がいつもご用意して下さってたのが、二つ茶屋さんの主菓子。 「お預かりしているお嬢さんに、身体によくないものはお出し出来ない」 そうよく仰って。 やっぱり間違いないなあ。 久しぶりに頂いた二

          主菓子の思い出

          Waltz For…

          「アレクサ、ビル・エヴァンスをかけて」から始まる朝。 美しい旋律とは裏腹に、ドラッグとアルコールに塗れたエヴァンスの生涯はかなりハードやったなと、思いを馳せてみたり。 ジャズ評論家で生前のエヴァンスと親しく、『ワルツ・フォー・デビー』『ターン・アウト・ザ・スターズ』の作詞者でもあったジーン・リースは、エヴァンスの最期について「彼の死は時間をかけた自殺というべきものであった」と述懐している。 / wikipedia 横浜に住む男友達が、よく車で聴いているワルツ・フォー・デ

          落下する夕方

          「木端微塵だよ。もう、言われる言われる。『期待されるのは大嫌い!』とかさ」 健吾は華子の口調を真似た。 「期待?」 「『好意を注ぐのは勝手だけれど、そちらの都合で注いでおいて、植木の水やりみたいに期待されても困るの』」 私は相槌に困った。 「容赦ないのね」 まったくな、と言った健吾の声は、座礁した船の船底みたいにいたいたしい。 落下する夕方 / 江國香織 ひとに絶望すると、条件反射的に思い出す一節。 自分自身を納得させるために。

          落下する夕方

          ひととき 歴史町、うまいもの探検

          読むたび、新しい旅 ひととき 2021年 8月号 創刊20周年記念号 特集 歴史町、うまいもの探検 京都 土井善晴さん 神戸 平松洋子さん 金沢 小倉ヒラクさん ひとときがもう創刊20年なんやて! すごいと思わへん? しみじみ感動してしまう。 そんなひとときを、今回、手に取ったのは、ネット記事で土井善晴先生の京都の和菓子特集があるのを知ったから。 そしたらなんと神戸の特集は平松洋子さん。 食べることについて書きはる女性エッセイストで、もう堪らんおいしそうなのは

          ひととき 歴史町、うまいもの探検

          おっちゃん、ありがとう

          昨日、歯科の帰りのこと。 一番暑い時間帯に駅前のスーパーでお買い物をして、いつものパン屋さんへ行こうと坂道をてくてく歩いてたら、なにか地中の古い管をやり変えるとかで工事をしてはった。 炎天下に汗まみれで頑張ってはる交通整理のおっちゃんに 「暑いですね」 って話しかけて、会釈をして横を通らせてもらった。 パンとお花を買って、帰りにまた横を通らせてもらったら、さっきのおっちゃんが 「重そうでんな!」 いうてめっちゃ笑顔で話掛けてくれはった。 こういうやり取りは嬉しいよね。

          おっちゃん、ありがとう

          未生流いけばな教本

          未生流いけばな教本 肥原碩甫 久しぶりに紐解く懐かしい教本。 わたしは華道は未生流で、茶道は裏千家。 西洋のフラワーアレンジメントは習ったことがないのでわからないけれど、日本の華道の基本というのは非常にロジカルだ。 盛花の体用型A これはお正月によく活けることがある若松の格花 いえ、なぜこの教本を久しぶりに紐解くことになったかというと、最近自分で生けるお花があまりにもひどいから。 そういえば、むかしお華のお稽古に通っていたときも、 「わたし、お華の才能あらへんなあ

          未生流いけばな教本

          天の川

          万葉集には天の川の歌が132首もあるとか どれもとてもエロティック ここには書けない意味のものも 天の川 相向き立ちて 我(あ)が恋ひし 君来ますなり 紐解き設(ま)けな 山上憶良 天の川、この川に向かい立ってお待ちしていました。いよいよ、愛しいあの方がお出でになるらしい。さぁ、衣の紐を解いてお待ちしましょう。 一年(ひととせ)に 七日(なぬか)の夜のみ 逢ふ人の 恋も過ぎねば 夜は更けゆくも  柿本人麻呂 1年のうちこの7月7日の一夜だけ逢う人の恋の苦しさもまだ

          欲しいのは、あなただけ

          むかしむかし、好きになった人たちを思い出すとき、わたしはいつも、弟のことを思うような優しい気持ちになる。だって、昔好きになった人は、好きになったときには年上だったのに、今はみんなわたしよりも年下なのだ。彼らは年を取らない。永遠に年下のまま成長を止めて、わたしの胸のなかで生き続ける。 欲しいのは、あなただけ / 小手鞠るい ひとりの女、かもめが好きになったふたりの男。 ひとりめは19歳学生のとき。 男らしい人。 ふたりめは29歳人妻のとき。 優しい人。 読んでいる最中

          欲しいのは、あなただけ

          斜陽

          太宰治の斜陽で最も好きな一節。 気取るという事は、上品という事と、ぜんぜん無関係なあさましい虚勢だ。高等御下宿と書いてある看板が本郷あたりによくあったものだけれども、じっさい華族なんてものの大部分は、高等御乞食とでもいったようなものなんだ。しんの貴族は、あんな岩島みたいな下手な気取りかたなんか、しやしないよ。おれたちの一族でも、ほんものの貴族は、まあ、ママくらいのものだろう。あれは、ほんものだよ。かなわねえところがある 斜陽 / 太宰治 太宰もわたしもスノッブで、相当な