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欲しいのは、あなただけ


むかしむかし、好きになった人たちを思い出すとき、わたしはいつも、弟のことを思うような優しい気持ちになる。だって、昔好きになった人は、好きになったときには年上だったのに、今はみんなわたしよりも年下なのだ。彼らは年を取らない。永遠に年下のまま成長を止めて、わたしの胸のなかで生き続ける。

欲しいのは、あなただけ
/ 小手鞠るい



ひとりの女、かもめが好きになったふたりの男。

ひとりめは19歳学生のとき。
男らしい人。

ふたりめは29歳人妻のとき。
優しい人。



読んでいる最中、登場人物の男にこんなに激怒していたことは、おそらくこれまでにない。



男らしい人はある程度仕方がないかとは思う。
男らしい人のDVめいたものは彼のバックグラウンドに依るものが大きいと思われるからだ。
しかし、なぜ彼が男らしい人なのかは、この恋の終わりにわかる。



わたしが許せないのは、かもめが29歳のときに好きになった同僚の妻と子どものある優しい人だ。



どこが優しい人なんや。



よく有りがちだが、こういうタイプの男性は耳触りのよい言葉を囁く。

「もっと早く出会えていたら」

「あなたとの恋愛の思い出があれば、もうそれだけで僕は、残りの退屈な人生を死ぬまで、なんとか幸せに生きていけそうな気がする」

「家を一歩出た瞬間から、考えているのはきみのことばかりだよ」



バカですか。まったく。



わたしの仲のよい男友だちは、まあ大体が品行不方正だ。

息をするのと同じように女を抱く。

友だちだからいいけれど、異性としては関わり合いになりたくない。

同類は共食いをしないという見方もあるけど、それはこの際、置いておく。



彼らはこんなことを普通に話す。

まぁ浮気するなら、相手を本気にさせず、恨まれるようなこともせずというラインで行かないとな。



そう。
優しい人はこのタイプの男だ。
賢い人なのも共通点。
なぜこれを恋と呼べる?

でもね、そう呼べてしまうのが、ひとを好きになってしまうということなのである。



最後に。
小手鞠るいさんはツイッターでこう書かれている。

『欲しいのは、あなただけ』は私にとって「永久欠番」みたいな作品。小手鞠るいの原点。今、私がこの道を歩くことができているのは、この作品のおかげです。だからこの作品が「大好き」と言われたら、私は本当に本当にとても嬉しい!書き続けてきてよかった。きっといつかこの作品を超える作品を書く!



余談

文庫の解説はあの喪失の神様、大崎善生氏らしい。
友人が教えてくれた。
電子書籍によく有りがちだが、解説が付いていない。
大崎善生氏の解説も読んでみたいので、文庫も買おうかな。

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