見出し画像

憧れは冷やして食べるのがいちばん

"La vengeance est un plat qui se mange froid."
復讐は冷まして食べる一品である
"熱に浮かされて瞬発的に復讐するのではなく、時間をかけてゆっくり復讐した方が満足度が高いという意味" フランスの諺より

先日、偶然にもこの諺の存在を知った。
なんとも深みのある面白い諺だなあと思ったのだけど、今、10年間憧れ続けたパリにきた私は、「憧れ」という感情にも似たことが言えるかもしれない、と感じた。

"憧れ"も冷やして食べるのがいちばん?

小学生の頃、ピアノを習い始めたことがきっかけで、クラシック音楽の世界に興味を持ち始めたわたし。10歳の頃の私が傾倒していたものは、のだめカンタービレとショパン。当時、精神的な理由から学校を少し休みがちで、生きていることがすごく苦しくて、この世から消えてしまいたいと泣きながら過ごした瞬間もあった。けれど、あの時をなんとか耐え忍ぶことができたのは、クラシック音楽がいてくれたからだ。

そんな10歳のわたしにも夢があった。のだめカンタービレに影響を受けまくっていたわたしは、ピアニストになりたかった。そのために、パリでアパルトマンを借りて音楽院に通うことを夢見ていた。わかる人はわかるだろうが、思いっきりのだめカンタービレ巴里編、最終楽章の影響を受けまくっている(笑)我ながら少しかわいい。

主人公のだめは、大好きな千秋先輩に感化されフランスに音楽留学を決意

2人とその愉快な仲間達がいるパリの街並みを見て、こんな素敵なところにショパンも住んでいたんだなあとか、わたしも行ってみたい…と思いを募らせるばかり。図書館でフランス語の本やパリのガイドブックを借りてみたり(父親からはそんなの借りてきてるのは私だけだと揶揄われた)、音楽留学やパリのアパルトマンについてネットで調べるのが好きだった。それは、辛かった日常からの逃避でもあった。
海外に縁のない家庭に育ち、当時まだ小学生だったわたしにとって、フランスどころかヨーロッパは未知の国であったし、パリの街に行くのだなんて夢のまた夢だと思っていた。そうして、憧れは強くなる一方だった。

あれから10年。わたしは今パリにいる。
初めての一人旅だ。思い描いた花の都は、連日ストライキやデモについての報道ばかり。
「危ないよ」「本当に1人で行くの?」
そう、いろんな人に忠告されても、私はどうしても行かざるを得なかった。
留学でヨーロッパにいる、そんな機会はもう今後なかなか訪れないと思ったから。

4月2日。パリよりずっと北にある、ボーヴェ空港に降り立つ。
事前に予約しておいたバスに乗り込み、揺られること一時間少し。
パリの街に降り立った。
北西部の外れの駅で、パリらしい面影もなく、寂しいエリア。
治安の心配をしていた私は、皆敵だと言わんばかりの警戒度で、15区にある宿泊先に無事に辿り着くのに精一杯だった。

4月3日のこと。
オペラ座の見学を終えた後、すぐ近くのデパートの屋上へ向かう。
そこに見えたのは…

夢にまでみた街の姿が。これだけでもう息を呑んだ。コンコルド広場まで歩くと、凱旋門まで一直線にまでのびるシャンゼリゼ通りが。頑張ってカタカナ読みでオーシャンゼリゼを歌っていた小学生時代を思い出す。

まるで天気も見方してくれている、と自意識過剰に言ってしまいたくなるくらいの快晴。ついにパリに来たんだー!と口にだし、口元も綻ぶ。

いろんなニュースが飛び交う中で、行く前は、「パリって結局、こわい、汚い、臭いの3Kなんかな…」とかめちゃくちゃ失礼なことを思っていたし、エリアによってはそれも正しいのかもしれないけれど、想像通り、いやそれ以上に美しくて、素敵な街だった。

今日もバスがなかなか来なくて、少し苛立ってしまったのだけど、帰り道、窓越しに見えるエッフェル塔がとても美しくて、本当にここに来れてよかった、と目に涙を浮かべた。

世界中でパリは花の都とうたわれ、憧れのまちの代表とされる。わたしは、どうしてこんなにこの街にひかれてしまうんだろう。どうしてこの鉄塔にこんなに見惚れてしまうのだろう。

それは、10年間憧れこがれたからこそかもしれない。
冒頭で紹介した、

"La vengeance est un plat qui se mange froid."
復讐は冷まして食べる一品である

という言葉と似ていて、
憧れも、瞬発的にかなえてしまうより、紆余曲折あっても、時間をかけてゆっくり叶えたほうが、達成したときの満足度や幸福度が高いのかも。

憧れも、復讐と同じで、冷やして食べるのがいちばんなのかもしれない。

いつかまた、このように感動を味わうためにも、今、いろんなカルチャーに触れ、自分自身をcultivateし、憧れを蓄えていきたいね。

この記事が参加している募集

旅のフォトアルバム

一度は行きたいあの場所

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?