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人は「土から離れて生きられない」ラピュタでシータが言ったこと。

【鴨川古民家再生プロジェクト①】出会い

2021年、年が明けて私はふとこの言葉を思い出した。

人は、「土から離れては生きられないのよ。」

これは宮崎駿監督の『天空の城ラピュタ』でシータが言うセリフ。
改めてこの言葉を思うと、今、まさに人は「土と共に生きる」ことを再び取り戻す時代なのではないかと感じる。
2020年、パンデミックの影響で都市から田舎へ移住する人、移住まで行かずとも、キャンプが出来るように山を購入する人も増えた。
その土地の上に、立つ。
生きる場所と生活が繋がっている、確かな感覚をもつ。
私は、そんな暮らしがしたいと漠然と感じながら新年の始まりを過ごしていた。
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人生には、時々、奇跡みたいなスペシャルな日がある。

2021年も明けて早々に、カメラマンの川村剛弘さんから、とあるプロジェクトで少し手伝ってもらえないかと声をかけて頂きました。
それは、昨年末から千葉の鴨川で始まった古民家再生プロジェクトで、
まずは撮影に同行して、見学させて頂くことになりました。

Google mapで鴨川を検索して、現場を確認する。
そこで、飛び込んできたのは鴨川市の一番東南に位置する「仁右衛門島」の文字。すぐに、川村さんにメッセージを送りました。
「仁右衛門島が近いんですね!もしお時間があれば、現場の前に寄っても良いですか?」

「仁右衛門島」とは、実は、昨年、noteにも書いたこちらの記事、建築家とデザイナーとの対談の時に初めて話を聞き、「いつか必ず行ってみたい」と心惹かれた場所。昨年、川村さんに偶然にもこの話をしていたのです。

鴨川市のある南房総は、かつては「安房国」と呼ばれており、四国は徳島・阿波の産鉄の民が黒潮に乗って千葉の房総に辿り着き、住み着いたと言われている場所。まさに、仁右衛門島に辿り着いたという記載もあります。

もちろん、川村さんも覚えていてくださいました。
「仁右衛門島、現場の前に立ち寄りましょう。」

仁右衛門島に上陸する

仁右衛門島は、鴨川市の東南部にあり、源頼朝伝説の残る場所。
1180年、平家との合戦 石橋山の戦いに破れた源頼朝が流れ着き、『平野仁右衛門』に匿われたと言われています。
この島は、代々「仁右衛門」の名を継ぐ平野仁右衛門さんが所有し、島に一戸で暮らしていることから「仁右衛門島」と呼ばれています。

仁右衛門島の上陸の前に、船着き場の目の前にある神社へ。ここは、前述の記事でデザイナーの飯島直樹さんが紹介していた岩に抱かれる神社。
由来は、流れ着いた頼朝が白旗を納めて、平家打倒の祈願をしたらしい。そこから、「白旗神社」と呼ばれています。

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参拝を終えると、仁右衛門島に渡る船着き場へ。

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仁右衛門島までは、昔ながらの渡りの船で上陸するのです。

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ほんの5分ほどで到着。仁右衛門さんしか住んでいない島へ。

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観光地化されていないので、あるがままの自然が残されている。

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ここは、日蓮聖人が朝日を拝んだという場所。

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そして、頼朝の隠れていたと言われる洞窟へ。

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島内はあっという間にぐるっと一回り出来る大きさ。30分ほどの滞在でしたが、心にエネルギーがみなぎるような場所でした。
それは、きっと自然がそのままの場所だから。
頼朝が見た840年前と変わらない光景なのかと思うと、自然の時の中では人間の歴史の時なんかあっという間。
変わらない場所であり続けて欲しい。

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私たちを陸へ送って、また渡りの船が帰って行きました。

道の駅、「みんなみの里」

仁右衛門島を後にして、いよいよ鴨川919へ。
の前に、朝ご飯も食べずに来ていたため、サクッと朝食を済ませましょうと寄ったのが現場のほど近く、道の駅「みんなみの里」。
「無印良品が運営する道の駅があるんですよ」と川村さんが言った時に、ハッとしました。

ここは、私の前職スーパーポテトがデザインしたお店。
私は、以前、インテリアデザイン事務所のスーパーポテトの創設者、杉本貴志さんの秘書をしており、その時に、千葉で道の駅を作るプロジェクトの話が始まったばかりでした。杉本さんは2年前に亡くなってしまいましたが、ここでその作品に出会えるなんて…。

故・杉本貴志氏は無印良品が西友の中の一ブランドだった草創期からデザイナーとして関わり、青山にある無印良品の第一号店を初めに数々の無印の店舗を設計しました。
無印には、「アドバイザリーボード」と呼ばれる、杉本さん・原研哉さん・深澤直人さん・小池一子さんなど一流のデザイナーたちがいて、「無印とはなんぞや?」という問いを絶えず社員に投げかけ、作り上げていったのです。

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店内には、沢山の野菜が販売され、奥のCafe Meal MUJIでは地元の食材をふんだんに使ったメニューが楽しめます。ちょうどカフェタイムが始まる前だったので、食事ができず残念。
太い柱や梁の重量感が、ポテトらしくMUJIの世界観を表現しています。
思いもかけず、懐かしい人と対話ができたような気持ちになりました。

杉本さんのデザイン見て来ましたよ。

返事はないけれど、杉本さんが美味しそうにお酒を飲む顔が浮かんで消えました。

鴨川919へ

ここまで、ストーリーを繋ぐようにして辿り着いた場所。
それが、鴨川919。

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里山の中腹にあり、山からの光を受ける。

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車から降りると、山男のようなオトコ達が作業をしていました。
彼らは、建築装飾造形集decon inc.と言って、山梨-東京-千葉を拠点に活動をしています。
古民家の横に立つ小屋を、そこに住み着けるように作りあげ、寝泊りをしながら古民家を再生する。暮らすように働く。
棟梁の野上公久さん。

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ご飯は当番制で作って、全員で食べる。

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私たちも、折角なので同じ釜の飯を頂きました。食べて来たばかりだったので遠慮して少なめに頂いたものの、、なんだか山小屋の中で食べる熱々のスープと鮭のワイン蒸しが美味しくて、おかわりして頂いてしまった。

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この日は、傾いてしまった古民家の土台を水平に建て直す作業が行われていました。

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木造だから、壊すことは簡単にできる。
でも、そこに住んでいた人たちの記憶、その土地の歴史を大切に次に繋げていくこ。時間をかけて荒れていた土地を再生させ、生活の場を作る、命を吹き込む作業が行われます。

「熊笹などは刈るけど、木は切らないで。」

これは、棟梁の野上さんが指示で何度も言っていた言葉。

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「ここに金木犀と、あそこには枇杷の木があるから、秋になると良い香りがすると思いますよ。あんなに大きな枇杷は滅多にないからね。」

人は、環境を破壊をすることもできれば、命を再生させることもできる。

「整えること」

人が生きていく上では、整える作業が重要なことなのだとこの地に来て感じた。

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里山の美しさを取り戻す。
出来上がった様子を想像しながら、どのように進めていくかを確認する。

「荒れていた土地を掘り返したら、神様の祠が出て来たんです。
それは、家の方を向いて建てられていました。
今、こうやって家を立て直して、里山を蘇らせることで、土地が喜んでいる気がする。」

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何年見守って来たんだろう。

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「土に根をおろし、風と共に生きよう。
種と共に冬を越え、鳥と共に歌おう。」

ラピュタに出てくる、シータの故郷のゴンドアに伝わる歌。
この歌のような暮らしが、きっとここでまた始まる。

そう言えば、フランスの哲学者ヴォルテールが書いた『カンディード』では、主人公のカンディードが諸国遍歴をした末にこう言った。

il faut cultiver notre jardin.
私たちは庭を耕かせねばなりません。

鴨川に来て、私は沢山、土の香りを嗅いで、山の光を浴びて、風の通り道に立った。
そこで暮らすように働く人を見て、心が沸き立った。

2020年のパンデミックでは、「便利であること」と「豊かさ」が結びつかないということに気がつき始めた。
日々のルーティーンはいかに効率よく便利に行うかではなく、一つ一つのことを大切に行うことで「整う」時間となり、心を落ち着け、日々の生活の中で大切な時間となる。

一瞬で壊してしまって新しく作り上げるものより、時間をかけ人の手で作ることに美しさが宿る。
この場所は、そうやって、また自然と人が共存する場所になるのだろう。

ここまでお付き合い頂いて何なのですが、
私をこの場所に引き合わせてくれた川村さんが素晴らしい動画を作られましたので、それを見ていただけると一瞬で鴨川919の魅力を感じていただけると思います。

私もまたここに訪れる機会がありましたら、プロジェクトの進行状況をお伝えしたいと思います。(私がどのようなお手伝いをするかは、また改めて...)

「次来るときは、泥んこになれる格好でね!!」

「また来ます!長靴履いて!」

2021年、初土を踏んで心が整えられた。

鴨川919 プロジェクト
facebookページ→https://www.facebook.com/kamogawa919
Instagram→https://www.instagram.com/kamogawa919/




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