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放置される犬の落とし物

この夏、フランスで柴犬と暮らし始めて8年目に突入する。

主に南仏の紺碧アジュールと称されるキラキラした海沿い周辺をウロウロと徘徊する日々なのだが、フランスで犬を飼っていて気になるのは歩道に放置された落とし物たちのこと。

美しい街並みと一体化するように常にあちらこちらに落ちているからもう見慣れているのだけれど、いつまで経っても慣れない光景だ。

今回は私が独自に調査した放置される犬の落とし物の実態について、個人的な偏見をたっぷりと交えて書いてみようと思う。下のキタナイ話なので苦手な方はスキップしてください。


☆☆☆


ヨーロッパの歴史に興味のある人ならどこかで聞いたことがあるはずだ。そもそもフランスには、ゴミを道に捨てる、という習慣があった。下水が整備される前の大昔から、都市部の集合住宅に住む人は家の外の路上に汚物やゴミを投げ捨てていた。

ハイヒールが流行ったのは道が汚かったからという話を聞いたことはないだろうか。汚物まみれの道を歩くためにヒールの高い靴を履いたらしい。

今でも平気でポイ捨てをする人が絶えないのは、道に捨てておけばいつか誰かが掃除をするとか、自然とどこかへ流されて行くと思っているから。つまり、道はゴミを捨てて良い場所だ、という歴史的背景に基づく刷り込みがあるからなのだ。

なぜ放置されるのか

そもそも拾う意思がない

路上に放置すればいつか清掃の人がやって来て片づけるだろうし、雨でも降ればきれいさっぱり洗い流されるだろう、と考える人がいる。

大概、プライドが高く、道に落ちた汚物を自分の手で掴んで拾うなんてありえない!と思っている人が多い。だったら外でウ〇チさせるなよ!と叱りつけたいところだが、プライドの高い人を批判するのはトラブルの原因になるのでグッと堪えるのが正解。

そもそも犬の落とし物を片づける気なんて皆無な人なのだ。

道の掃除は街の清掃員にやらせておけ。それが清掃員の仕事だ。道がキレイになったら清掃員の仕事がなくなってしまう。清掃員が失業しないようにゴミを散らかしてあげているのだ、と訳の分からない屁理屈をこねくり回す、頭でっかちな人が多い。

お前、一体何様?と軽蔑の視線だけを投げつけて、関わり合いにならないのが得策。


エチケット袋を忘れたと言い訳する

歩道に落ちていたら誰かが踏むかもしれないし、歩行者に迷惑だという認識が多少なりともある人。多分過去に自らが踏んでしまい、苦い思いをしたことがあるのだろう。経験から学んでいる分、そもそも拾う意思がない人よりはチョビットだけマシ。

ただエチケット袋を忘れたり、単に面倒な気分の時には放置する。

特に歩道の端っこや花壇など、普段人が踏み入らないような場所に落とされたブツは袋を持っていても放置する。花壇に落とされたブツに至っては、花の栄養になるから、と放置するのが正しい選択だと言い張る傾向がある。

因みにいつも拾う人がエチケット袋を忘れた場合、持ち合わせの紙やティッシュなど他のもので代用するか、犬を連れている他の人に頼んで袋を分けてもらう。街が各所に設置している無料のエチケット袋だって探せばある。

袋を忘れたことを口実に拾わない人は、そもそも拾う気がない人と同等で、基本的に拾う意思がなく、できれば拾いたくないと思っているのだ。


ノーリードでノールック

犬を全面的に信頼しているのか?リードを引くのが面倒なのか?街中をノーリードで散歩をさせている人をたまに見かける。

そういう人は犬好きアピール強めで少々ウザ系。自分の犬は躾が完璧に出来ていると断言する人が多い。

路上に放置された他人の犬の落とし物を見つけると、マナーがなってない!と嘆き、犬を飼うなら責任を持って世話するのが当然だ!自分は絶対に社会の迷惑になるようなことはしないのだ!と豪語する。

そもそもノーリードで犬を散歩させているところが社会の迷惑になっているのだが、そこもホラ、ね、正論をぶつけるような批判はネガティブな感情しか生み出さないから、薄い笑みを浮かべてサラッと波風立てずに受け流すのが良い。

ノーリードで散歩する人の中には、犬は必ずついてくる、と信じ切って全く後ろを振り返らない人もいる。

そんな自信たっぷりの飼い主の後ろで犬は好き放題匂いを嗅ぎまくり、右へ左へと歩道をウロウロと歩き回る。

そんなノーリード犬が飼い主の見ていないところで用を足すこともしばしばある、もちろん。飼い主は見ていないから当然、落とし物はそのままその場に放置される。

飼い主は帰り道にそうやって放置された自分の犬の落とし物を見つけて、マナーが悪い!と憤慨するのだろう、多分。

ノーリードの犬が飼い主の目を盗んで用を足している場面に出くわしたら、通りすがりに優しい声で飼い主に教えてあげるのが正解。

あなたの犬、そこでウ〇チしてますよって。

すると飼い主は慌てて拾いに行く。


老人と犬

老若男女問わず、犬は人間の良きパートナーだ。私の住んでいる街には高齢者が多く住んでいて、犬を飼っている人も多い。

杖をつきながらゆっくりと歩くおじいさんや、カートを歩行器のようにして歩くおばあさんとよくすれ違う。そんな歩行が少し困難な後期高齢者は体重の軽い小型犬を連れていることが多い。

おじいさんおばあさんが小さくてかわいい犬を連れてのんびりと散歩する姿は微笑ましい。

しかし足腰が弱り、自分が落したものすら拾うこともままならないくらいカラダの硬い高齢者が、果たして犬の落としたブツを拾うことが出来るのだろうか。否、出来ない。出来るはずがない。

そんな高齢者のペースに巻き込まれて自由に歩き回れない犬は、用を足すために立ち止まることすら許されないことがある。すると犬は歩きながら素早く用を足す術を身につける。順応性が高く賢いのだ。

リードが緩んだ隙を見て、おじいさんがゆっくりと3歩歩く隙にサッと用を済ます。無論おじいさんは気付かないので、落し物はそのまま放置される。


おしゃべりに夢中でノールック

電話や友達とのおしゃべりに夢中になって歩き続ける人が連れている犬も、歩きながら用を足す技術を持っていることが多い。

飼い主はおしゃべりに夢中で犬のことをノールック。当然落とされたブツはそのまま放置される。

そんな場面に出くわしたとしても当の本人はおしゃべりに夢中なので、大抵は近くで目撃していた私の存在にすら気づきもしない。落としましたよ、と無理矢理割って入るのは不自然だし、不信感を煽る可能性もある。

なんとなく目があったら、口パクで『ウ〇チ』と伝えるが、そうでなければいつか気付きますようにと祈りながら通り過ぎるしかない。


付き添い犬

障がい者の付き添い犬もなくはない。

ウチの近所に車いすの人がいて、いつも犬を連れて公園に来る。その犬の落とし物は、知り合いや周りで気付いた人が拾って処理をしている。

いつも同じような時間に同じような場所にいるので、常に誰かしらが対処できるのだが、稀に誰もいないことがある。そんな時は放置するしかない。

もちろん、そんなことだってあるさ。

こうやって色んな場面を見聞きしてきた私だが、盲導犬が人前で粗相をしている姿にはまだ出くわしたことがない。ちゃんと訓練されているのだろう。さすが盲導犬。


アウトロー

地続きに国境のあるヨーロッパには、定住せずに放浪を続ける人がいる。訳あって路上生活をする人もそうだ。そんな社会のルールから外れた生活するアウトローな人と一緒に生活する犬も、路上の落とし物の主なのだ。

飼い主同様犬もアウトローだから、社会のルールなんてガン無視。自分がやりたい時にやりたい場所でやる。

そして飼い主も然り。たまに落ちている人間のものとしか思えないブツはやはり人間のものだと私は思う。


番外編 猫

猫ってこともある。住宅街だと特に、のんびりと道を横切る飼い猫をよく見かける。犬のブツだと思っていたものが実は猫のものだったってことも十分にあり得る。


☆☆☆


散歩中に自分の犬の落とし物を片づけていると、声を掛けられることがたまにある。

『あなたはなんて清潔な人なの!』

『素晴らしいわ!』

『正しい行いよ、ありがとう!』

と、大袈裟に褒めてくるのだ。

それに対して私は、当然ですよ、と答えている。

私の中には『道にゴミを捨てる』という意識はない。犬の落とし物は拾って当然。だからそんな大袈裟に褒められると違和感しかない。

だって知らない人に褒められるようなことは何もしていないのだから。


フランスで暮らしていると、私の常識とまわりの常識がかみ合わないことがたまにある。そのせいで悲しい思いをしたり、孤独を感じたりすることもある一方で、自分により一層自信を持てることもある。

それは、フランスには自分さえよければいいと思っている人が大勢いて、そのせいで人同士のトラブルが絶えないのを知っているから。自分のことばかりを主張する人は、厳つい顔をしていて全く幸せそうには見えない。自分のことも他人のことも、誰も幸せにしない。

私の常識は私だけのためではなく、同じ空間を共有するみんながより良くより健やかに暮らしたいという願いが基盤にある。自分で言うのは気恥ずかしいが、他者に対する『思いやり』が含まれている。

そんな自己中心的ではない価値観や常識を持ち合わせている自分に気づいた時、私は私が誇らしい。


自分の意見や立ち位置を主張するのは大切なことだ。でもそれでまわりの人を不快にしてしまってはいけない。

自分一人がこの世に生きているのではないってことを骨の髄からちゃんと理解している人が増えないと、ウ〇チだらけの街で暮らさなければならなくなってしまうのだ。




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