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限定された時間のきらめき(劇場版ハイキュー!!)

「もう一回がない試合だ!研磨!」

「劇場版ハイキュー!!ゴミ捨て場の決戦」を見てきた。主人公である日向翔陽(以下『翔陽」)の所属する烏野高校と、因縁のライバルである音駒高校の待ちに待った全国大会での直接対戦を映画にしてある。しかもほぼ私の推しである弧爪研磨(以下『研磨』)の視点でストーリーは進んでいく。

あまりに設定がどんぴしゃすぎて、前情報なく映画館に行った私はとても驚いた。もちろん研磨について書こうと思う。

※映画のネタバレあります。ご注意下さい。




とにかく、臨場感がすごい!

映画館の音響も相まって試合のボールが跳ねる音までずーんと体の芯まで届くような感覚を覚えた。生の試合は見に行ったことがないけれど、本当にリアル。ちょっと似ているとするなら私は以前音楽のライブに行ったことがある。重低音が深部から伝わってくるあの感じ。それと同じような驚きだった。やっぱり特に響いたのは床に力いっぱい打ち付けるようなスパイクの音だろうか。思い切り弾けるレシーブの音だろうか。

この音がすごくて、終始圧倒されていた。互いにボールを受けてはセッターに回し、スパイクで攻撃をしていく。バレーボールはボールが床に落ちない限りはずっと試合が続くのだ。点を取っては取り返す。そんな応酬が長く続いていく。


試合中にちょいちょい挟まれる研磨と黒尾鉄朗(以下『クロ』)の過去。「レベル上げ」と称してゲームの好きな研磨とクロはたびたび河川敷でバレーボールの練習をしていた。クロは人をおだててやる気にさせるのがうまいタイプで、根性論が苦手でたまにさぼりたくもなるタイプの研磨もなんだかんだでバレーボールを続けることになる。

そして一期から振り返っていく翔陽との過去。二人は紹介文などで「因縁のライバル」とされているものの、実際にはライバルとは違うのではないかと私は思っている。クロも友達と表現していたし、ライバルというのなら翔陽が部活内でいつも何かと張り合っている影山飛雄の方が印象が強い。

それでも翔陽と研磨はお互いに倒したいと思う相手だ。何度か繰り返された合宿での約束の通りに「負けたら即ゲームオーバーの試合」をする日がついに来たんだという感慨がここで押し寄せてくる。言い出したのはいつも覇気のないように見える研磨の方で、翔陽は心底嬉しそうに応じていた。


それがお互いにとっての練習への熱になっていったのは想像に難くない。翔陽は試合前日にチームメイトに「研磨は多分負けても何も感じないと思うけど、俺は勝ちたい」と言っている。普段の研磨を知っている身としてはきっとそうなんだろうと思っていた。



ついに両校の本格的な試合が始まったわけだが、終盤になってかつて翔陽が研磨に対して願っていたことが叶う瞬間がやってくる。解説者も客席も、おそらくチームメイトすらわからない理由で思いっきり叫ぶ翔陽。このシーンを見た時、私ははるばる遠いところまで映画を見に来た価値があったと心から感じた。

研磨は普段から基本的にゲームばかりしていて、クロに連れ出されなければバレーボールはしなかっただろう。実際にバレーボールをしていてもどこか冷めていた。もちろん翔陽に対してもそれを隠さず接していたのに。

体力的にきつい、勝ちたい。けど続いて欲しい、終わって欲しくないと烏野高校や音駒高校の誰もが願っている中でついに決着のつく瞬間は訪れる。私が想像していたよりも静かなものだった。それがなんというか、試合としての残酷さのようなものを一層際立たせているような気がした。

これこそが「負けたら即ゲームオーバーの試合」なのだと。




試合が終わって去っていく研磨は二人が出会った時と同じく「またね、翔陽」と言っていた。これがものすごく最高だった。翔陽はまだ一年生だし、研磨は二年生。宮城と東京という離れた地域の学校なので直接対決するとしたら全国大会しかないのだが、戦えるチャンスは必ず来るのだと期待できるラストだった。音駒高校との合宿もいずれまた行われるのだろう。

けど、あの春高での試合は一度きり。


体の芯にずどんと響くような映画だった。それは音響という体感によるものだけでなく、記憶の奥深くに存在するいつかの過去がひらひらと浮かび上がってきたからかもしれない。青春時代なんて言ってしまえば簡単だけれども、そんな言葉であまり片付けたくはない。

楽しい事ばかりではなかった。けど悲しい事ばかりでもなかった。心の宝箱を覗き込むたびに鮮明に滑り込んでくる光景を見て、つい苦笑してしまうこともある。当時の友達は現在でも大切な存在だし、一緒に過ごした時間の楽しさは今も胸に焼き付いている。

あれはきっと「生きていること」を最も実感した時代だった。毎日どこか全力で魂を削っているような、いつも自分という更新値を上げていくような、他人と常に裸の心でぶつかっているような。「ハイキュー!!」とは私にとって、ひたすらに一生懸命だった日々が蘇ってくる作品だ。


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