療法:嘘とストレスと心身症

●嘘ってなんでしょう?

私達は、日々色んな嘘をついているかと思います。冗談としての嘘、勘違いによる嘘、何かを守るための嘘、自分を大きく見せるための嘘。たくさんの嘘があります。

さて、嘘をつくのは人間だけか?といわれると、実は他の生物達も嘘はつきます。しかし、嘘の質が異なるといわれています。

人間以外の生物がつく嘘とは、「自身の生命を確保し、より種を繁栄させること」を目的としています。これは、野生生物に限定されるものかもしれませんが、カメレオンやヒラメなどの擬態、カッコウなどの托卵(たくらん)などのケースがあります。

人の嘘と野性動物の嘘に関しては、「人の嘘は意識的、(野性)動物の嘘は遺伝的」であるというのが通説です。

では、「意識的に嘘」を、なぜついてしまうのでしょうか?

今回は、この『嘘とストレスと心身症』について、考えたいと思います。


●人は嘘をつく

人の『嘘』の定義とは、「事実でないこと。また、人をだますために言う、事実とは違う言葉。偽(いつわ)り」といったものでしょう。一般的には悪いことだという意味合いになるかと思います。

でも、人は日常的に騙す、嘘をつく行為を繰り返しているのです。

人間は、高度な知能を持った生物ですので、野生生物とは嘘の目的が異なり「自己利益のため」に嘘をつきます。そして、最近の研究では「協調性を高めるため」という目的も加わってきました。

前者の自己利益については、悪い意味が含まれていることが多くありますが、後者の協調性のための嘘は、日常的にはよく使われているのではないでしょうか?

たとえば、「最近、白髪が増えてきて、老けてきたと思うのだけど、どう思う?」と問われて「そうだね、老けてきたね」と返す人はあまりいないと思います。実際に老けてきているな・・・と多少感じていたとしても、「う~ん、昔と大差ないよ」といった回答をすることが多いのではないでしょうか。

これらは悪意のある嘘ではなく、日常的なコミュニケーションを円滑にするための嘘であることは、理解いただけるでしょう。

人は、1日に10~200回の嘘をつくという研究結果があります。自身が認識している嘘だけをカウントしているのだとしたら、この幅はもっと広いのかもしれません。

まず、人の言動には、目的は別として、嘘がたくさん含まれているのだということを、理解してください。


●民族性による嘘の捉え方の違い

協調性のための嘘について、欧米とアジアでは文化的に捉え方が異なる、という研究結果があります。

アジアなどの特に集団生活を重視した稲作などを行ってきた民族は、協調性を重視する必要があり、協調性が高いもの同士が集まると、嘘をつくことを避ける傾向があるそうです。逆に、欧米などでは、嘘を共有することで結束力が強化されるという傾向があります。(言い切れるかと言われる正直わかりません)。また、欧米では、社交辞令としての嘘(white lie)はそれほど嫌悪されるものではないと言われます。

日本人を含めた東洋人の場合は、団結力が強いことから、あえて嘘をつき、嘘を共有する必要性がない、つまりは、あまり嘘をつかない民族であるようです。

それゆえに、特に日本では「嘘は悪いことである」ということが、深く浸透している傾向があります。


●健常な嘘と病的な嘘

人は、嘘をつくことによって、多少の罪悪感や後悔が生まれることが一般的です。これは健常者であれば、普通なのかもしれません。

しかし、嘘をついた時に、快感を感じる人もいます。たとえば、反社会性人格障害(サイコパス)の方で、病的に嘘をつく人がいます。この違いは脳の構造にあると言われ、健常者の人と比べると前頭前野(前頭葉)が30%程度小さいことが研究により分かってきています。

嘘をつくとき、脳の前頭前野が活性化するのですが、サイコパスの方は元々この部分が小さいため、より多くの快感を得るために、嘘を多くついてしまうと考えられています。

病的な嘘には、その発生要因や影響力などを考えると様々なパターンがあるので、ここでは健常な人をベースに考えていきたいと思います。


●嘘とストレス

人を楽しませる嘘があります。たとえば小説やドラマ、アニメなどですが、おそらく大部分は嘘で成り立っていると言えるでしょう。その嘘には感動もあり、笑いもあることから、良い嘘と言えます。

問題なのは、人にストレスを与える嘘です。

「自己利益」と「協調性」の2種類の嘘に関しても、それが嘘だとバレた場合に、非難されたり評価が下がるという恐れからストレスが生じます。

そして、承認欲求が強い人ほどその恐れを抱くリスクが高く、ストレスを蓄積する速度が高いようです。

たとえば、SNSなどで自身の生活を華美に見せたりすることは、現実との乖離があればあるほど、強いストレスを生じさせます。

また、自身の言葉に影響力を持たせたいと強い言葉を使う人は、嘘を正当化させるための嘘を重ね、自身の脳にストレスを与えます。

これが、結果として「人間関係を悪化させる」「睡眠トラブル」「ネガティブ思考」「緊張症」などの心身症を生じさせてしまうようです。

先に述べたように、特に日本人は嘘をつく特性をあまり持っていないため、発する側も受ける側も嘘に対して耐性が低いと言われています。

最近、身体の具合が悪い、心身の不調がでてきたなどと思う人は、自分の嘘の量を考えてみてください。気付かないうちに大量の嘘を発していないでしょうか?


●絶賛、賞賛、歓喜、共感の嵐

私は、天邪鬼だからなのかも知れませんが、これらの言葉が苦手です。

世間のニュースやSNSなどにおいて、人の目を引きつけるために多用されている言葉です。たいしたことのない話題でも、これらの単語を使うことで、引きつけているのでしょうが、実は、とても強いストレスを生じさせる危険な言葉なのです。不用意に発してはいけません。

自分自身は、そのニュースのリンクなどに対して『期待して』クリックします。そして。その期待に反した結果があった場合には「協調性の嘘」が内部で生まれています。

「みんなが賞賛しているんだから、感じない自分がおかしい・・・・」

潜在意識は、自身を守ろうとして「これに期待した自分を正当化しなければ!」という協調性の嘘を生み出します。そして、その嘘は、本心との乖離があることから、強いストレスを生み出します。

人は、このストレスを発散するために、SNSなどに情報を拡散し、他の人へもストレスを伝播させます。

「ほんとうにすごい!」「全面的に共感できます!」「感動しました!」・・・それを発する必要ありますか?

「良いものだったら紹介したい」と思うのかもしれませんが、それ、本当に紹介すべきものでしょうか?

人は弱っている時に、色んなものに助けを求めます。そして、気持ちが沈んでいる時であればあるほど、本心に嘘をついてでも強くなろうとします。

でも、それは逆に、心にとって悪い効果をもたらします。


●嘘をつくのを減らしてみよう

現在身体に少しでも何か不調を感じているのなら、自分の発言に嘘が無いかを考えてみましょう。そして、意識して嘘をつくことを止めましょう。

私のクライアントで、意識的に嘘をつかないことを強制し、驚くほどの回復をみせた鬱の方がいます。無駄に共感・強調することをやめて、社会復帰した心身症の方もいます。

もしあなたが、「感動しやすい」「感情が触れやすい」という部分があるならば、「自身の気持ちを1つに維持する力が弱い」のだと認識し、情報が入ってきたときに、自分の中できちんと対話をしてください。

そして、自身の脳が処理ができないようであれば、情報を入れるのを止めなければいけません。

世界は、正誤入り交じった情報で溢れています。そして、色々な影響力のある方が、意見を発しています。でも、人の脳は、全ての情報を正しく処理し、受け入れることなどできないのです。

ちなみに私は、情報を取り込む前に、自分以外の3人の別の思考と対話をするようにしています。

「さんせい君」は、どんなことにも同意する、熱い子
「はんたい君」は、どんなことにも反対する、冷たい子
「フラット君」は、平等な視点だけど決定しない優柔不断な子

この3人と自分の4人で話しあって、物事を決めています。

時間かかりそうと嫌悪されますが、時間がかかって当たり前です。

自分や他人を傷付けないため、入ってきた情報を餞別する作業に、時間がかからないわけありません。

他の人が早いからといって、自分までも焦る必要はないのです。

「その情報は、あなたにとって必要なものですか?」
「その決断は、あなたの本心ですか?」
「その言葉に、嘘はないですか?」

それが、嘘を受け取るコト、嘘を発するコトを減らす。それが、あなたのストレスを減らす第一歩だと、私は考えます。

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