見出し画像

ADHDの生存戦略とライフハック【書評】発達障害の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術 借金玉

これほど、発達障害への愛に満ちたライフハック本はなかったといえるだろう。巷の仕事術の本、成功本は、薄っぺらくて内容もないようなものだが、この本は違う。ADHD/ASDのためのライフハックがギッシリとつまっている。対象読者がしっかりしている。

全体を通して著者の借金玉さんが、どれだけ苦労しながら、このライフハックを生み出してきたのかということを知ると、リスペクトにあふれるね。まあ、それにしても、商業出版で、こういうマイノリティのための仕事術の本が売れる時代ってのはすごい。(もしかすると、もはや発達障害は、マイノリティではないのかもしれないけれど)。

発達障害で生きづらさを感じている人は読んで損なしだ。

二次障害の苦しみ

このnoteでも再三、取り上げているが、発達障害の苦しみの大半は二次障害によるものだ。うまいこと、社会に適合していければ、ADHDでもASDでも比較的幸せに生きていける。普通の人の幸せとは違うけれど。とはいえ、発達障害が、二次障害を起こさないのはとても難しいこと。

著者が言うように、発達障害の苦しみは下記の3点に要約される。

1:仕事
2:人間関係
3:日常生活

つまり、「人生すべてがキツイ」ということだ(笑)

著者は、双極性障害やうつ病を患い、ほとんどアル中(依存症)のような状況を経験した。まさに、どん底まで行ったのだ。この本の主たるメッセージは何度も繰り返されている。

「生存」「生きていればOK」ということだ。

起業を失敗し、借金を抱え、うつ病になり本気で自死を選ぼうとした著者だからこそのライフハックだ。目指すのは死なないこと。生き続けていくことだ。ハイスコア自慢の自己啓発・成功本の中で、異例の目標地点だといえる。特に、ADHDは、なぜだか自分の実力値を大いに勘違いして、壮大な夢を見ることが多い。その結果、ハイスコアを目指させる自己啓発業界のカモになりやすい。

発達障害は、頑張らなくていい。生きているだけで立派なんだ。まずは、その前提に立つことだ。(あきらめではなく、現実を受け止めて幸せに生きるために大事なこと)

ADHDは「アナログ」人間

レビューを見ていると「もっと高度なライフハック(デジタルツールなど)を期待していたのに、これじゃアナログすぎる」というものがある。私は、このレビューを見て、ADHDの仕事術に、そんな高度なものを期待するほうが間違っていると思ったよ。

確かに、かばんぶっこみ・バインダー・本質ボックス、1冊のノート術、とにかくアナログなライフハックだらけ。でも、結局、最終的に生きるのはアナログだ。ADHDは、目には見えないものを理解できない(変な意味ではなく、クラウド上のデータは見えないのですっかり忘れて失ってしまう)。目に見えるもの、手に触れられるもので、管理しないと、モノの管理は不可能なのだ。

借金玉さんは、オリジナルバッグまで開発してしまっている。

私の仕事術も、基本的にアナログに偏っている。1冊のノート術(PDCAノート)やクリアファイルを使った書類整理術、フセンをひたすら並び替える行動計画表などなど。アナログに偏るのは、しょうがないんじゃないかな。

まあ、デジタルツールは好きなので、いろいろ手は出すけどデジタルは「管理」には適していない。「ライフハック」という言葉からイメージするには、あまりにも、レベルが低すぎる(失礼!)ノウハウなのかもしれない。普通の人にとっては。

ただ、ADHD特性のある私にとっては、大いに役立つノウハウが多かったし、まったく同じではないけれど、似たような工夫を色々やっているなぁと思わせられるものが多かった。仕事ハックに関しては。

「休む」ことは最優先事項

著者は、うつ病になり、どん底を経験しているので「休む」ことの大切さを切々と訴えている。発達障害の人は、セルフモニタリングの能力が低いと言われる。今の自分の心身の状態が正確にわからないのだ。私もそうだった。以前の職場では「お前は止まると死ぬマグロか」と言われ続けた。

そして、休みなく働き続けて、いきなりばったり倒れて高熱を出すパターンにはまっていた。しかし、上司から細かく生活指導を受け、このパターンを脱することができた。カギは倒れる前に休むことだった。自分で疲れていると思うかどうかにかかわらず、定期的にオフを取ることで、倒れる前に持ち直せるようになったのだ。これは私の人生でも衝撃的な発見だった。

この発見を応用して、今は仕事も、一定のタイミング(25分集中+5分の休憩:ポモドーロテクニック)で休養を取り、集中しすぎないように気を付けている。細かく休むことが、安定した仕事術のベースになっていること。今は確信している。

著者は、もっと大きなスパンで休むことの効用を掲げてい。毎月、完全な「オフの日」を予定に含めること。所要をこなすのではなく、とにかく、ただ休める日を設けることだ。私はこれは実現できていないと感じている。特にフリーになってからは、24時間365日営業中のような生活スタイルになってしまっている。休むことの罪悪感は大きくて重い。

もう少し、休み上手になることが、今の目標だ。

さて、最後に、、

すべての人に当てはまるノウハウなどない

どんな自己啓発本も成功本も、仕事術も、すべての人に当てはまるような方法などない。そして、この本もそうだ。前書きに書かれているように、発達障害の特性は人によって大きく違う。著者はADHD診断を受けていて、服薬もしているが、ASD特性も強く持っているタイプだ。この本の人間関係・空気の読み方に関する章などは、完全にASD向けという感じだ。

ADHDでも、文章が得意なタイプもいるし苦手なタイプもいる、コミュニケーションが得意なタイプも苦手なタイプもいる。内向型だって、外向型だっているのだ。発達障害にパーソナリティ障害や、他の精神疾患が重ね着している人もいる。まるで働けない人もいれば、バリバリ一流企業で働いている人もいる。ほんと、人によって違うのだ。同じ一言で語るには、広すぎるのが発達障害というキーワードだ。

だから「スペクトラム」という。自分の観点だけから見ると「著者は発達障害じゃないよ。これがしたくてもできないのが発達障害なんだ」と愚痴を言いたくなるのかもしれない。でも、障害を競っても、何も始まらない。「俺は何もできないんだ。」、そんなことを自慢すんなってんだ。

普通とは違う、自分は普通にはできないと悟ったところから、どうやって、二次障害を起こさないように、できるだけ世の中に適合していけるのかというストーリーにこそ意味があるのだ。特に借金玉さんは、適合する努力を怠った結果、一度は死にかけたのだ。そこから、どのように生還したのかという、その生きざまに意味があるのだ。一人一人がどのように、それを読み解いて、自分の人生に活用するかが大事なんだ。

まとめ

借金玉さんの本は、単なる仕事術、軽めのライフハックではない。

発達障害がベースにある、うつ病や依存症からのサバイバー体験記として読むとよいと思った。借金玉さんは、自分の経験から、発達障害に悩む人が、そこまで落ち切らないようにあらゆる手段で訴えかけているのだ。とにかく無理しないで「生きてくれ!」って。泣けるじゃないか。

もっと、できるようになりたい。もっとうまくなりたい。もっと強くなりたい。そんな衝動に駆られて、書いているnoteだけど、本当は、もっともっと力を抜くことのほうが、大事なのかもしれないと気づけたのが大きな収穫だったような気がする。

仕事ハックにとどまらず、生活ハックシリーズも発売された。いつものように、キレのある本だった。こちらもおすすめ。


#大人の発達障害 #発達障害 #ADHD #大人のADHD #ADHDの仕事術 #ライフハック #借金玉 #仕事術 #書評 #読書感想文

この記事が参加している募集

読書感想文

大人のADHDグレーゾーンの片隅でひっそりと生活しています。メンタルを強くするために、睡眠至上主義・糖質制限プロテイン生活で生きています。プチkindle作家です(出品一覧:https://amzn.to/3oOl8tq