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『メンタル不調』の科学と指針

この記事は三人の登場人物の対話形式で進めていきます。
りお:若手人事担当
持続的に繁栄できる強い組織にするべく、あらゆることを探求し、人事活動に活かしていきたい若手人事。少し捻くれている。
としぞう:精神科医
個人の行動変容や組織全体の行動に詳しい精神科医
わたるん:仙人
複雑な事象を整理し正確に言語化してくれる。たまにしか出てこない。

りお>
人事をやっていると、なぜか突然、メンタル不調になって、離職・休職になってしまうというケースが散見されます。
なぜ、もっと早く気づいて対応することが出来なかったのかと、とても後悔する気持ちが毎回出てくる一方で、なぜ突然メンタル不調という状況になってしまうのか、理解することもできず、打開策が全く見えず、改善ができず、その状況を受け入れるしかないという状況になっています。
特に最近はリモートワークなども増えて、察知する機会も減っています。
今回はメンタル不調という現象を科学し、メンタル不調への向き合い方に指針が立てばいいなと考えています。としぞうさん、よろしくお願いします。
なぜ、周りがメンタル不調の兆候を察知できず、突然休職になってしまうという現象が起きるのでしょうか。

としぞう>
精神科医として任せて下さい!という質問ありがとうございます。この質問は多く頂きます。多くの方からメンタル不調の人が突然出るのを解決するために、早めに察知して予防したいという要望を頂くのですが、実はこの方針ではメンタル不調の問題を解決できないんですよね。

りお>
えっ….!?
その心を教えてください!

としぞう>
人事側からみると、メンタル不調の人が1人出ると大変ですから、もっと早くに見つけて対応すればこんなに大変にならなかったのに、と思いますよね。
そもそもメンタル不調を正確に見つける方法は確立していないですし、さらに、実際に早く見つけたとしても、本人に自覚がなかったり、メンタル不調だと思われたくなかったりして、解決しようとしても上手くいかないことが多いです。

りお>
なるほど。言われてみると、確かにそもそも自覚がないから本人は言えないし、メンタル不調だと認めるのも嫌ですもんね。“普通じゃない状態を嫌がることも原始人による反応“な気がします。

りお>
では、どのような方針だとメンタル不調の状況をより良くできるのでしょうか。

としぞう>
データを分析して、メンタル不調を早期発見して「あなたはメンタル不調です!」とやってしまうとうまくいかない。
実はメンタル不調を正確に見つける方法どころか、うつ病かどうかも明確に区別できるわけじゃないんですよね。(精神科医であっても)
なので、メンタル不調を正確に把握する!ではなく、メンタル不調になる前に本人から自主的に調子が悪いと言ってもらうためにはどうすれば良いか?と考えるのが大事です。
自分から言ってもらうことができれば、自覚ない中無理にメンタル不調だ!という必要もないし、仕事を休みなさい!と説得する必要もないので、効果的な対策がとれるんですよね。

りお>
メンタル不調の場合、発見して知らせてもなぜうまくいかないんですか?
本人にそれなりの自覚があれば、あ、そうなんだと気づいて適切に対処できそうですよね。そして、本人にそれなりの自覚があるケースの方が多い気がします。

としぞう>
自覚に関しては、ほとんどの人は、ストレスはあるという自覚はあるけど、メンタル不調になる可能性があるから休む必要があるという自覚はない、という人が多いんですよね。そして、多くの職場ではうつになったことがわかると、残念ながら管理職の候補から外れたり、悪い情報として残ってしまう職場が少なくありません。それでなかなかストレスがあって休みたいといいにくくなってしまうケースも多いでしょう。ストレスチェックとかを使ってもうまくいかないのはこの辺りで、どうしても休みにくい職場だと自分がストレスがあるということを隠してしまうことが多いので見つけようとしても見つけられないんですよね。知らせてあげて、あそうなんだ、じゃ休もう、と思えるためには、まずはストレスがあるから辛いです、と言って大丈夫なんだと思ってもらえる環境が必要ですし、そのような環境になっていて『お互いに』ちょっと辛いと言えれば、多くの場合はストレスがあるという自覚はあるわけなので、早めに自主的に言ってもらうことができるし、ストレスチェック などにも正直に入力してくれて早期発見もできる。だからこそ、予防のために重要なのは、メンタル不調を正しく発見できるかどうか?というよりはメンタル不調と言いやすいかどうか?になってくるんですよね。

りお>
確かに、メンタル不調と言いやすいかどうか?が解決の突破口になりそうですね!
しかし、やはり組織としては、メンタル不調が起きやすい人と、起きにくい人であれば、リーダーとしてどっちを選ぶか?で言えば、メンタル不調が起きにくい人になることが多いだろうと思います。
メンタル不調が起きやすいかどうかは、職場の環境だけではなく、遺伝的なものや、過去の経験的なものが影響するので、例えば、過去の経験などによってメンタル不調が起きやすいが、なんとか責任ある職についてやりがいを持ってやりたいと考えている場合、組織としてはどのようなコミュニケーションがとれたらよいのでしょうか?

としぞう>
メンタル不調が起きにくい人を選ぶというのは、その個人に着目すれば生産性の観点で確かに重要です。ただ、選ぶ時に『メンタル不調になりやすい人かどうかをみてやろう』、『その方法を精神科医なら知ってるんだろう教えてくれ!』となってしまうと、そのスタンス自体が心理的安全性を下げてしまうが故に、たとえメンタル不調になりにくい人を選んだとしても、だれかがメンタル不調になりますよ、ということです。そして、コミュニケーションで大事なのはその人が無理してないか?ですね。メンタル不調だと思われるのが嫌だと思うあまりにあえて責任がある職について認められたい、という原始人に支配されていると、どこかで無理が出てきてしまいます。責任ある職につけるかどうか?ではなく、その人が何がしたいのか?そのために責任がある職が必要なのか?を考えることが大事ですが、これはメンタル不調の人だけに必要というよりは誰にとっても大事なことになります。管理職や人事が、メンタル不調の人が突然出るから何とかコントロールしたい!と思っている限りどんな方法をとってもうまくいきません。また、メンタル不調はいつでも突然に生じるものだから、それは個人レベルでどうにかしようとするものだと思って行動すると逆効果です。メンタル不調の人が突然に出るのは防がなくてはいけないことではなく、組織全体に問題があることを教えてくれるありがたいサインだ。そのサインを受けてじゃあどうやって組織全体を良くして行こうか?というスタンスが最終的にメンタルヘルスを含めた様々な問題がチームの生産性に影響を及ぼす確率を減らすことができます。

りお>
パワハラの記事の時と同じように、それが悪い事だ!早期発見して解決しよう!とするとうまくいかないということですね。
ありがとうございました。


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