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英国のリアルな(庶民の)TEA事情

最近見かける「ヌン活」という言葉。なんだか愉快な響き、だけど聞いたことがある気がする…あ、それはヌンチャクだった、と一人ツッコミしました。
ではいったい何かと思ったら「アフタヌーンティー活動」の略のようで。アフタヌーンティーを嗜むことをアクティビティー化? それほど行くのかと感心しきり。

というのも、私は日本でも英国でも、アフタヌーンティーを嗜んだことが(たぶん)ない。
「本場英国の」と冠がつくことはもちろん知っています。

情報を探してみると、

アフタヌーンティーとは、1840年ころに、『午後の紅茶』のパッケージでおなじみの英国女性、7代目ベッドフォード公爵夫人のアンナ・マリアによって始められたもの。当時の貴族はたっぷりの朝食と夜8時頃の夕食の2食で、アンナ・マリアはお腹が空く午後4時頃にサンドイッチや焼き菓子などの軽食を食べ始めた。それが貴婦人たちの社交の場として発展した

次第に中産階級にも広がったため、上流階級は差別化を図るためにしつらいやテーブルマナーなどのスタイルを重んじるようになった

というのが定説のよう。

3段の素敵なティースタンドときれいなティーセットでいただく、「ヌン活」のイメージにある高級感あふれるアフタヌーンティーは、「posh(贅沢な、上流階級的な)」なもの、と思っている。
夫に言わせると「普通の人は、誕生日とかに行くかもしれないね」とのことで、やっぱりアフタヌーンティー体験はちょっとしたスペシャル。

というわけで、家族の家に泊まり、ロンドンに行っても泊まるのはビジネスホテル的なホテル、ハロッズやリバティなどのデパートにも寄りつかず、日常生活に近い滞在をしている私には縁がないわけなのである。

お土産用にだけ、名の通ったフォートナム&メイソン、ハロッズ、ウィッタードなどちょっとポッシュなティーを購入。ウィッタードは日本で知られていないけれど、英国では有名なブランドとのこと。ちなみにハロッズはお店に行ったわけではなく、帰りの空港で見つけた。


でも昨年、義母と話していて、実家暮らしのおそらく子どものころの生活の話に、「アフタヌーンティー」というワードが登場した。

「アフタヌーンティーが生活の中にあったの!?」とすごく驚きつつ、続く話を聞いた。

義母のお父さんは、朝食を食べて仕事に出かけ、毎日お昼に家に戻ってきてしっかりランチをとっていた。家族にとってそれが1日でいちばんボリュームのある食事だった。

夕方、お父さんが仕事から帰ると、お腹が空いているのですぐに「アフタヌーンティー」の時間になったのだという。そのメニューは、サンドイッチのような軽食とティーだった。
3段のスタンドに盛られたサンドイッチとスコーンとケーキではもちろんなく。
 
そして、空腹では眠れないから、夜に小腹を満たすクラッカーとチーズ程度のスナックを食べた。
 
しっかりした食事は1日に1食。それが、1960年代頃のイングランドの庶民の珍しくない生活スタイルだったようだ。大多数の英国人たちにとってのアフタヌーンティーは、社交の場やキラキラしたものではなくて、生活に根差した、日本の感覚でお茶とおにぎり1つで小腹を満たす、言葉の通りの「午後のお茶の時間」だった。


「ヌン活」のアフタヌーンティーは、日本でいう茶道のようなものなのかもしれない。
日本人だって茶道を嗜む人は多くない。私も、簡易的に抹茶を淹れてもらって飲んだことはあっても、本格的なお作法に則ってお茶室で抹茶をいただいたことはない。
3段スタンドのアフタヌーンティーも、きっと英国の庶民にとってはそれに近いのではないかと想像している。
 

では英国庶民はどのようにティーを嗜むかというと、私の印象では「がぶがぶ飲む」。夫は毎朝、大きなマグカップにたいてい2杯。日によっては、さらにもう1杯。大きいカップだなと測ったら容量350mlだったから、2杯飲んだら約1パイント(UKパイントは568ml)。朝からビール並みによく飲む。

義母、義父、義理の兄弟、その妻たち、義伯母、泊めてもらった夫の友人カップルもその感覚に大差ないようだったので、きっとそれが一般的。
英国人にとってのティーは、格式高いというより気取りのないもの。きっと、日本で緑茶やほうじ茶、麦茶などのお茶が身近にあるように。

夫が毎朝ティーを飲む愛用のマグカップ(右)と、私のいちばん大きなマグカップ(左)。私のものもかなり大きいと思っていたけれど、さらに大きい。これで2杯飲んだらお腹がタプタプになりそう。ちなみに夫のマグの柄は、「SUBBUTEO(サブティオ)」という英国発祥の「おはじきサッカー」のコマ(おはじき)とのこと。


夫は必ず、ティーを淹れる前にカップを温める。それにはこだわりがある様子。そして、ケトル(電気ポット)でぐらぐらと沸騰させたお湯を使って淹れる。我が家にはティーポットがないので、カップにティーバッグを入れてお茶を抽出し、「Drop of(しずくの←少しの)」牛乳を加えてミルクティーに。

感覚で淹れているのだろうし、よくインストラクションにあるように「4~5分」も抽出していない気がするのだけれど、私には夫が淹れるミルクティーのほうがおいしい。私は長く抽出するとただ渋くなってしまう気がして、早く出してしまう。なぜ夫のティーがおいしいのかは、まだわかっていない。


ミルクティーの牛乳は、冷たいもの。
数年前の義母の来日中、ちょっぴり気取った感じの喫茶店とレストランの間くらいのお店で休憩したとき、「ミルクをつけて」と紅茶をオーダーした夫と義母の2人。提供されたのは、ミルクポットに入った、温められた牛乳だった。
触って温かいことを知った義母の「おやまぁ…」という反応を受けた夫が、連携プレーで「スミマセン」と店員さんに声をかけて「これ、冷たい牛乳にしてください」。

店員さんのかすかな戸惑いを私は見逃さなかった。


若いころ、「ミルクティーの牛乳は温めたものを提供するのが、気の利いたお店」というふうに、“常識”が切り替わった時期があった。「せっかくのお紅茶を、冷まさないための心遣い」。私は、「知らなかった!」と、なんだか恥じ入ったことを覚えている。

でも、それはきっと日本人の誰かの発明だったのだろう。
その日、義母は言った。「熱くて飲めないわ」。
ミルクティーのミルクは、100℃のお湯で淹れるのがよしとされる熱いティーを、飲める温度にする役割も果たしているようだ。

なーんだ…。「ミルクティーには温かい牛乳」は、別にお作法ではなかったのか。考えてみたら理にかなった話だった。


夫には、ティーポットで家族分のティーを淹れた子どものころのイメージが強く残っている様子。薄いのが好みのママの分を最初に、濃いのが好みのパパの分を最後に淹れたと話していた。家族分を淹れた彼の記憶にあるティーポットは、日本の昭和な会社の給湯室でみんなにお茶を淹れるような、小さ目のやかんくらいの大きさ。かなり大きい。

夫がティーポットを欲しがって見に行っても、彼のイメージ合う大きさは日本ではほぼ見つからない。2人暮らしなのでそんなに大きいものはいらないし、置く場所がないので見つかっても困るのだけれど。


英国のイートインカフェでティーをオーダーすると、ポットで出てくることが多い。カップに2杯分くらいある。義母とお茶をしていて、1杯で下げようとしたので「まだもう1杯分あるんじゃない?」と言うと、「私、濃いティー(strong tea)は好きじゃないの」。

夫から聞いていたことを思い出した。飲まないくらい好きじゃないのね。お米の一粒を残さない食文化で育った私は、全部飲まなきゃ「モッタイナイ」と思ってしまいました…いえ、ただ意地汚いだけか…失礼しました。


夫と付き合いが始まったとき、ティーが飲みたいと言われたらどんなものを出したらいいんだろう?と緊張した。私は、そんなにいい“お紅茶”は買わない…。でも、それは杞憂に終わった。正直、日本のスーパーで売られている品質なら何でもいいらしい。

そりゃそうか。だって、お茶を飲む習慣がある日本人だって、いつも玉露を飲んでいるわけではないのだから。日常的に飲むものが高価だったら経済的にもたない。


彼にティーを出したことがなかったとき、里帰りして帰国後すぐ私の家に泊まった彼が、私が目を覚ますと起きてティーを飲んでいた。「時差ぼけで早くに目を覚ましたから」と。
いやそれよりも。
「紅茶、見つけたの?」と驚いて聞くと、「女の人がティーを入れておくのは、だいたい缶の中と決まってるからね」とウィンク。実際、スーパーで買った普通の紅茶のティーバッグを、気に入った缶に入れ替えていた。英国男性、独特の嗅覚!


英国のスーパーで売られている一般的なティーは、日本と同様にティーバッグ。
大きな違いは、日本のティーバッグについている糸の持ち手がないこと。ちょうど、日本の麦茶のティーバッグのような形。正直、不便だけれど、慣れているみなさんは器用にスプーンで絞ってカップから出す。慣れていない私はうまくできません。
(でも、実は絞ると渋味や雑味が出るのであまりよくないらしい)

糸がついていない英国のティーバッグ。1つのティーバッグで2煎くらいは普通に飲むので、ティーバッグの一時保管場所として小さなお皿が必要。義母のキッチンにあったティーポット型の小皿に憧れ、ウェールズのレッドドラゴン柄のものを自分へのお土産に買ってきた。


向こうのスーパーには、日本でもあちこちで売られている「TWININGS」(トワイニング)もあるし、とてもメジャーなのが「YORKSHIRE TEA」(ヨークシャーティー)や、「PG tips」(ピージーティップス)で、日本でもよく紹介されている。義母は「Welsh BREW」(ウェルシュ・ブリュー)というウェールズのブランドがお気に入りだと言っていた。


結婚前の夫の部屋を訪れたとき、部屋にあった袋が印象に残った。お米の袋を連想させるサイズ感。そのパッケージの色合いが昔飼っていたウサギのエサかワラみたいで、ウサギのエサはさすがにないだろうから、何だろう?と思った。
後から知ってたまげた。ヨークシャーティー1㎏バッグだった! 日本でこんなサイズのお茶が売られているのは見たことがない。

ラグビーW杯観戦で義兄が来日するときに夫がお土産にティーを頼んだら届いた、YORKSHIRE TEAの1㎏の袋(右)。かさばるので袋ごと真空パックしてあるけれど、かなり大きい。比較のため、当時使っていた小さいiphoneを置いた。反対側にあるのが、私がお願いしたショートブレッド。スーパーのプライベートブランドの200g程度のものでいいと言ったのに、日本の輸入食品店でもよく見かけるWalkers の、これまた大きな箱を買ってきてくれた。


夫と初めて渡英したとき、義母にコッツウォルズに連れて行ってもらった。「はちみつ色の家々」と紹介される、独特な黄色がかった石造りの古い家が保存された街並みに風情がある。日本で言えば白川郷のような場所と言えるのだろうか。

といっても、夫に「コッツウォルズに行ってみたい」と言ったとき、「ママの家の周りでじゅうぶんにきれいなのに、わざわざ景色を見に行くの?」と難色を示された。それでも義母に聞いてみてくれたらしく、その後、「ママの家、コッツウォルズのはずれなんだって」。

実は夫はコッツウォルズをよく知らなかった。景観で有名なコッツウォルズ地方なのだから、ママの家の周りはきれいなわけである。夫は、気づかないうちにコッツウォルズをほめていたことになる。


義母の家からコッツウォルズには、車で1時間かからなかったと思う。家並みが有名な2つの村に連れていってもらい、15時くらいになったころ私が散策に満足して、遅いランチを食べようということになった。

でも、小さい村の中のお店はほとんど閉まっていて、唯一開いていたカフェもラストオーダー間近。
「クリームティーしかないわ。でも仕方ないわね」と言う義母に、夫が続いた。

「クリームティー…? クリームが乗った紅茶? 聞いたことがないけど。確かに紅茶だけではお腹がいっぱいにならないな…」と後をついていった私。

気乗りしなかったぶんの反動もあったとは思うけれど、クリームティーは、英国の食体験でインパクトが大きいもののひとつになった。
このとき唯一の選択肢だったクリームティーを何かわからずオーダーして、出てきたのは…「スコーンと紅茶のセット」でした。(義母にとってはランチではなくあくまでもおやつだったのでしょう)

“はちみつ色”のコッツウォルズの街。どの村だったか名前が思い出せないけれど、この並びのカフェでクリームティーに出合った。


英国のスコーンには「クロテッドクリーム」が欠かせない。それで、「スコーンティー」と呼ばずに「クリームティー」と呼ぶようです。


あまり日本では売られていないクロテッドクリーム。見た目とテクスチャーは、サワークリームに近い。でも、クリームを乳酸菌で発酵させたサワークリームと違い、酸味はない。調べてみると、バターと生クリームの間くらいのもの、という解説がたくさん見つかった。

生クリームは生乳を遠心分離させて取り出した乳脂肪分で、乳脂肪分は40%程度。
生乳から取り出したクリームを混ぜて肪の粒を集めたのがバターで、乳脂肪分は80%くらい。
クロテッドクリームは製法が違い、牛乳を加熱して表面で固まった脂肪分で、乳脂肪分は60%前後。

生クリームよりリッチ、バターよりあっさり。そして乳臭さなどのクセがない、と個人的には思う。だからジャムとケンカせず、しっくりと合う。むしろ引き立て合う。

そう、スコーンはクロテッドクリームとジャムが一緒についてくる。このジャムは、ストロベリージャムが多い気がする。


ジャムを先につけるのがコーンウォール流、クリームを先に盛るのがデヴォン流と地域性があり、どちらが正統派かという論争のウンチクが、ガイドブックには必ず載っている。

けれどそれはマナーではないので、お好みで。先に甘いのを感じたければジャムを先に、後から甘いのがくるほうがよければジャムを塗ってからクリームをつけて食べればいいのだ。私は、ときどきクリームを先に、ときどきジャムを先につけたりして、いろいろのこだわりなし派。

果物が嫌いでジャムを食べない夫は、お店ではクロテッドクリームだけ。家では、はちみつをつけたりもする。


濃厚、でも重すぎないクロテッドクリームに、ジャムをプラスして甘さをカスタマイズ。紅茶とよく合い、スコーンが大きいのでしっかりお腹も満たされた。そして英国の情緒も感じられて。
私はアフタヌーンティーの縮小版のようなクリームティーで、じゅうぶんposhな気分を味わった。大ファンになって、英国滞在中に一度は必ず!というスペシャル体験になっている。

あちこちのカフェで見つけられて、日本のカフェでお茶をする感覚の価格帯で(ポンドを円に換算するといまは高いですが…)気軽に楽しめる、英国らしいティータイム。 
 
 
 
料理好きの英国人たちは、自分のお気に入りスコーンレシピをもっているみたいだ。義父がつくったスコーンの写真をWhat’sApp(LINEのような通信アプリ)の家族のグループに送ってきたこともあった。
 
昨年、遊びにいったときには、義母のレシピでスコーンを焼いた。「簡単よ!」と言う彼女の手にかかると、材料を混ぜて平べったくして、型抜きして、オーブンに入れて、本当にあっという間にできた。
 
そういえば義母は、「そうそう、クロテッドクリームがあるから、スコーンを焼かなきゃ」と言った。常備しているわけではないクロテッドクリーム、もしかしたら私たちが遊びに行くから買っておいてくれたのかもしれない。
いつもいつも焼いて食べているわけではないけれど、ときどき思いついてクロテッドクリームを買って、「あれがあるから食べよう!」という感じ。英国の生活の中のスコーンの存在感は、身近だけど少しだけ非日常のおやつという感じなのかな。

(左)義母のキッチンにて。オーブンを開けると、もくもくとした湯気の中から焼きあがったスコーン。
(右)義父が送ってきた写真のホームメイドスコーンには、目玉がついていた。料理男子のいたずら心!


 
 夫の影響で私のルーティーンにもなった朝のミルクティーだけれど、だいぶ暑くなってきて、そろそろ冷たいカフェオレに変えようかな、と思う時期だ。私は真夏だけは、朝の熱い紅茶の気分になれない。
一方、どんなに暑い日の朝でも夫のこの「ルーTEAン」は変わらない。
 
 
一昨年の夏の渡欧のときは猛暑で、私はあまりティーを飲まなかった。
だけど、一度英国を離れてスペイン・バルセロナ~南仏の旅行に行って戻り、泊めてもらった義母の家に到着して「何か飲む?」と言われたとき、「Could I have a cup of tea?(紅茶をもらえますか?)」と言っていた。
 
バルセロナも南仏もとても暑いところだ。外に出れば強い日差しがじりじりしていて、室内に入れば冷房がよく効いている。あるいは、冷房はないけれど、湿度が低くて不快指数は低いので、明け放されたテラスから抜けていく風と冷たい飲み物で涼む。
泊まったホテルには当たり前のようにケトルがなくて、温かいものが飲めなかった。
 
熱されては冷やされ、ほとんどの場所で冷たい飲み物を飲んでいた私が、ほっとしたくて欲したのが、「熱いお茶」だった。
言った後で、「私、疲れてたんだな」と自覚した。
 
 
熱いお茶で一息つく。
これって、英国人と日本人がわかちあえる、大切な共通の感覚なのかもしれません。

ヨークの気軽なカフェ(左)と、ヴィクトリア&アルバート博物館のカフェ(右)のクリームティー。どちらもファストフード系なので、クオリティ的には正直あまり高くないものの、緑にあふれる屋外や、ウィリアム・モリスが手掛けた素敵な内装のお店でいただくスペシャル感で、私にはちょっとポッシュな英国体験。


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