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2022年1月の記事一覧

果肉と詩集。

果肉と詩集。

果肉と詩集。

このタイトルにしたのは
血や肉や土につながるものに
したかったのと
果実の、外はかさかさでも中は
みずみずしいところが
好きだったから。

70編の集大成のような詩集に
さらっと2文字でタイトル付けるの
気持ちよかった。

いろいろなしあわせがある。

詩集「果肉」草舟あんとす号さんにて再び完売。

詩集「果肉」草舟あんとす号さんにて再び完売。

詩集「果肉」
草舟あんとす号さんにて
再び完売とのこと。
ありがとうございますね。

手のひらサイズに
ぎっしりつめこんだ言葉の情景を
好きなところからひらいて
無闇に旅してくださいませ。

すぐに追加納品
させていただきます。

どんなともだちがほしい?

どんなともだちがほしい?

どんなともだちがほしい?
子ぐまが訊いた。
たよれるひと?
いやされるひと?

クマが答えた。

風景をくれるひと。

悪い時に粛々と生きられたら、自分をほめてあげよう。

悪い時に粛々と生きられたら、自分をほめてあげよう。

悪いときに
粛々と生きられたら
自分をほめてあげよう。

いいときに
誰かを傷つけずに
粛々と生きられたら
自分をほめてあげよう。

いずれにせよ
ぽんこつなのに
今日まで生きてこれたから
自分をあたためながら
ほめてあげよう。

ちいさな手袋屋さん。

ちいさな手袋屋さん。

西の最果て。
リスボン唯一の手袋屋さん。

1925年からの創業。

女性のオーナーさんは、
そのひとの手を見ただけで、
ぴったりのサイズの手袋を
出してくれる。

好みをいうと、オーナーさんが
箱の積み重なった奥に行って
もってきてくれる。

ダイアゴン横町の
杖屋さんみたいに。

このとてもちいさな手袋屋さんへは
早春に行った。
いまでも行き方は覚えている。

旅行は何も残らない。
でも西の最

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ヴィオラだけを持って生きなさい。

ヴィオラだけを持って生きなさい。

少年は生まれる前に
誰かに言われた。

ヴィオラだけを持って生きなさい。
あなたが多くを失ったときに。

少年はその言葉を忘れ大人になった。
多くを欲しがり手に入れ失った。

大人になった少年は彷徨い
たどり着いた未来のゲートで
守衛に持ち物を訊かれ答えた。

ヴィオラだけを持ってきました。

雪が茂みから落ちる音を。

雪が茂みから落ちる音を。

雪が茂みから
かさっと落ちる音を
ギターの響きで描けないか
新雪についたささやかな
鳥のあしあとを表現できないか
あたたかなてぶくろの裏生地を
ねむたくなる暖炉を
あらゆる冬の呪術を
ギターと指と声にまとえないか
すべてのことをあとまわしにして
考えながらギターを弾いている。

いちごは赤く熱く。

いちごは赤く熱く。

#冬の辺境と冬の旅人

最果ての吹雪の夜、旅人は
残った魔法で小屋を出し
暖炉に火をおこした。

悲しみだせばきりがないので
ちいさなキッチンで
いちごのスープをつくった。

片栗粉でとろみをつけて
赤いカップによそった。

いちごは赤く熱く
とろみは身体の芯を
あたためた。

ある一月の時間。

ある一月の時間。

母はものわすれが多いけれど
食卓に庭の水仙を
飾っていた。
それ以上に必要なことはない。

早春の水仙の匂いを
かぎながら
父が起きてくるのを
のんびり待っている。

起きてきたら
お雑煮つくる

これをしなければ。

これをしなければ。

お正月にお節を食べるときに
毎年家族の写真を父が
タイマーで撮っている。
定点観測だから衰えがわかる。
両親、猫、環境、自分。

悲しいからお節を丁寧につくる。

これをしなければ
なにもなくなってしまう。

ものづくりはみんな
そうゆうかなしみとあせりから
はじまっているのかニャ。

お正月という神話を信じてあげないといけない。

お正月という神話を信じてあげないといけない。

お料理とかおせちとか
たんたんとできる人間に
とうていなれない。
ただお正月とかクリスマスとかは
神話だから
信じてあげて火をくべないといけない。
神話のためなら
かんぴょうで昆布を
巻かないといけない。
本もうたも、そしておそらく
日々も自分も神話。
だから信じてあげないといけない。