盲学校からの発信「視覚障がいに関連する自立活動をまとめてみた」
以前も自立活動について紹介しました。
盲学校で自立活動といえば、伝統的に点字、弱視レンズ(拡大読書器)、歩行、PCですが、それだけではありません。
今回は『自立活動学習指導要領解説』を参考に、視覚障がいに関連する6区分27項目ある自立活動の指導内容や具体的な支援の手立てについて紹介していきます。
(画像は山口県より)
また自立活動については広島県立広島中央特別支援学校の『自立活動指導書』もぜひ参考にしてください。
1 健康の保持
生命を維持し、日常生活を行うために必要な健康状態の維持・改善を身体的な側面を中心として図る観点から内容が示されています。
(1)生活のリズムや生活習慣の形成に関すること
視覚障がい児の場合、昼夜の区別がつきにくいことから覚醒と睡眠のリズムが不規則になり、昼夜逆転した生活になることがあります。
(画像はいらすとやより)
朝起きてご飯を食べて、着替えて散歩に行って、昼食を食べて昼寝して、少し遊んでから夕食を食べて、お風呂に入って寝る…といったように、わかりやすい、ご飯とお風呂から自然な生活リズムを整えていきましょう。夜は暗くて静かにし、大人もリズムを合わせていきます。家庭との連携が必要不可欠です。
また、相手からどのように見られているのかがわからず、洗顔や歯磨き、整髪、着衣の乱れなど身だしなみを整えることに関心が向かないことがあります。
(画像はもりサポ就活応援ブログより)
周りからどう思われているかや、身だしなみや清潔の大切さを言葉で伝えることで本人が必要性を実感するかもしれません(特に先輩や友だちの意見を聞くと納得することが多いです)。盲学校の寄宿舎では、外部講師を招いてメイク講習会を行なっているところもあります。
(2)病気の状態の理解と生活管理に関すること
緑内障や網膜色素変性症、糖尿網脈症などの進行性疾患のある場合、自分の眼疾患を正しく理解し、日々の体調や病気の状態の変化に留意しながら、過度の運動及び適度な運動に対する理解や、身体機能の低下を予防するよう生活の自己管理に留意した指導を行う必要があります。
服薬(点眼)や義眼を管理することや、自分の眼圧や血糖値などの数値を把握すること、下を向く姿勢や強い衝撃を避けるなどの注意事項を理解し守ることも欠かせません。
そのためには、定期的な受診をして体調を管理し、医師から自分の眼疾患について説明を受けることや、注意事項を守り服薬を忘れないようにするために周囲の人の理解や協力を得ることも有効です。
(3)身体各部の状態の理解と養護に関すること
視覚障がい児の場合、発達の段階に応じて、眼の構造や働き、自己の視力や視野などの状態について十分な理解を図ることが必要になります(筑波附属視覚特別支援学校の理科の授業で豚の眼球を解剖されていました)。
その上で、保有する視機能を維持するため、斜面台を使用するなど学習中の姿勢に留意したり、眼への強い衝撃があるなど危険な場面での対処方法を学んだりして、視覚管理を適切に行うことができるように指導することが大切です。
(画像は八王子自助具工房フレンズより)
(4)障害の特性の理解と生活環境の調整に関すること
視野障がい児の場合、慣れている学校内であっても、見える範囲が限られることにより周囲の状況把握が困難な場合があります。 このような場合には、自分の見え方の特徴を理解した上で、部屋に置かれた様々なものの位置などを自ら触ったり、他者から教えてもらったりしながら確認することが必要になります。
その際は、ものの位置関係が把握しやすいように、順序よくていねいに確認することや、自分にわかりやすいように整理・工夫したり(大きな目印や触ってわかるシールなどを貼る)、置く場所を決めたりしておくことを身につけておく必要があります。
(画像はPR TIMEより)
他にも、盲学校では、廊下にモノを置かない、廊下は右側通行などのルールが設定され、校内には点字ブロックが敷設されています。子どもたちが主体的に行動していくためにはこのような安全に配慮した環境設定も必要です。
(画像は横浜Walkerより)
(5)健康状態の維持・改善に関すること
特に卒業後に運動する機会がなくなってしまう子どもたちも多いので、余暇活動の一環として障がい者スポーツセンターなどをはじめ、ランニング、水泳、フロアバレーボール、サウンドテーブルテニス、グランドソフトボール、ブラインドテニス、ゴールボール 、ブラインドテニス、ボルダリングなどの視覚障がいスポーツに在学中から触れておくといいのではないでしょうか。
(画像はスポーツTOKYOインフォメーションより)
2 心理的な安定
自分の気持ちや情緒をコントロールして変化する状況に適切に対応するとともに、障がいによる学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服する意欲の向上を図りら自己のよさに気付く観点から内容が示されています。
(1)情緒の安定に関すること
障がいのある子どもたちは、生活環境など様々な要因から、心理的に緊張したり不安になったりする状態が継続し、集団に参加することが難しくなることがあります。
環境的な要因が心理面に大きく関与していることも考えられることから、睡眠、生活のリズム、体調、天気、家庭生活、人間関係など、その要因を明らかにし、情緒の安定を図ります。また必要に応じて環境を改善していきます。
(2)状況の理解と変化への対応に関すること
視覚障がい児の場合、見えない、見えにくいことから周囲の状況を即座に把握することが難しく、初めての環境や周囲の変化に対して不安になることがあります。
そこで、教員や周囲の子どもたちが周囲の状況を説明してその子が状況を把握するための時間を確保したり、あらかじめ幼児児童生徒予告しておいたり、一緒に確かめたりすることによって情緒的な安定を図ります。
また、子どもたちが主体的に行動できるよう、日ごろから一定の場所に置かれている遊具など、移動する可能性の少ないものを目印にして行動したり、周りの声や音を聞き取って判断したりといった、触覚・聴覚などの保有する感覚を活用したりして状況を把握する力や、周囲の状況やその変化について教員や友だちに尋ねて情報を得たり具体的な内容を確認したりするなど的確な援助を依頼する力などを身に付けることも必要になります。心理的な安定は、「人間関係の形成」や「環境の把握」とも関連しているのです。
(画像はいらすとやより)
(3)障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服する意欲に関すること
進行性の眼疾患や中途視覚障がいの場合、自身の見えづらさを受け入れられず、心理的な安定を図ることが困難な状態にあることがあるかもしれません。同じ視覚障がいのある者同士の自然なかかわりを大切にしたり、社会で活躍している先輩の生き方や考え方を参考にできるようにして、心理的な安定を図ることが、障がいによる困難な状態を改善・克服して積極的に行動しようとする態度につながるかもしれません。
3 人間関係の形成
自他の理解を深め、対人関係を円滑にし、集団参 加の基盤を培う観点から内容が示されています。
(1)他者とのかかわりの基礎に関すること
視覚障がい児の場合、相手の顔が見えない・見えにくいために、他者とのかかわりが消極的・受動的になってしまうことがあります。このような場合、誰かが話し掛けてきた場面では、自分の顔を相手の声が聞こえてくる方向に向けるようにしたり、相手との距離を意識して声の大きさを調整したりするなどのコミュニケーションの基本的なルールやマナーを知っておくことが大切です(視野障がいの場合、相手の方に自分の顔を向けると相手の顔が見えなくなることがあるので、事前にそのことを伝えておくことが必要になります)。
また、その場の状況の変化が分からないときには、必要に応じて、友だちや周りにいる人に問いかけることも必要です。
(2)他者の意図や感情の理解に関すること
視覚障がい児の場合、相手の表情が見えず、相手の意図や感情の変化を読み取ることが難しいことごあります。
(画像はいらすとやより)
そのため、発言内容から推測したり、相手の声の抑揚や調子の変化などを聞き分けたりして、相手の意図や感情を考える力をつけることが必要になります。もちろん相手の気持ちを推測するためには、相手のことを知っておくことも大切なので、コミュニケーションの力も必要になります。
(3)自己の理解と行動の調整に関すること
障がいのある子たちは、経験が少ないことや課題に取り組んでもできなかった経験(成功体験が少ないこと)などから、自己に肯定的な感情をもつことができない状態に陥っている場合があります。活動が消極的になったり、苦手な活動から逃避したりしてしまうのです。
そのため、早期から成就感を味わうことができるような活動を設定したり、自己を肯定的に捉えられるように指導することが重要になります。
(4)集団への参加の基礎に関すること
視覚障がい児の場合、目で見ればすぐに分かるようなゲームのルールなどがとらえにくく、集団の中に入っていけないことがあります。なので、あらかじめ集団に参加するための手順やきまり、必要な情報を得るための質問の仕方などを確認して、積極的に参加できるように準備しておく必要があります。
また運動などでは周りと同じルールで参加するのが難しい場合もあります。盲学校では伴走や音源走、視覚障がいスポーツといった工夫がされていますが、その子が参加できる配慮や工夫も必要になります。
4 環境の把握
感覚を有効に活用し、空間や時間などの概念を手掛かりとして、周囲の状況を把握したり、環境と自己との関係を理解したりして、的確に判断し、行動できるようにする観点から内容が示されています。
(1)保有する感覚の活用に関すること
視覚障がい児の場合、聴覚や触覚、(弱視なら)保有する視覚を最大限に活用して、学習や日常生活に必要な情報を収集することが重要です。
例えば、 ある目的地に行くための歩行指導において、目的地の途中にあるパン屋のにおいが自分の位置を判断する手掛かりになったり、理科の実験において、化学変化の様子がにおいの変化でわかったりすることもあります。においも学習や日常生活に必要な情報となるので、様々なにおいを体験したり、知っているにおいを言葉で表現したりできるように、家庭とも連携して様々な機会に指導することが大切です。
特に触覚を使って事物を観察する「触察」は、盲学校での学習に欠かせません。
視覚や触覚、聴覚を活用するための工夫について別の記事で紹介していますので、よければ参考にしてください。
(2)感覚や認知の特性についての理解と対応に関すること
障がいの特性により屋外の太陽光だけでなく屋内においても蛍光灯などにまぶしさを強く感じること(羞明)がある場合があります。そのため、遮光眼鏡や遮光カーテン、卓上ライトなどで見えやすい明るさを調整できることが必要になります。
(画像は和光インテリアより)
(画像はオプトナカムラより)
反対に夜盲のため、暗い場所では見えにくくなる場合もあります。夜間歩行の際にはライトなどを活用します。
また音声で説明を受ける際、子どもたちが全体像を理解できるよう、構造化した伝え方をすることも大切です。
認知や情報処理特性を知っておくことも大事です。視覚障がいの方は、耳からの情報が主になるので、聴覚優位で継次処理タイプの方が多いという話を聞いたことがあります。
(3)感覚の補助及び代行手段の活用に関すること
視覚障がい児の場合、小さな文字など細かなものや遠くのものを読み取ることが難しくなります。そのため、遠用・近用などの各種の弱視レンズや拡大読書器などの視覚補助具、タブレット型端末などを必要に応じて効果的に活用できるように指導することが大切です。そのため、盲学校ではルーペや単眼鏡、拡大読書器やタブレット型端末などの使用訓練を行なっています。
例えば、動いているバスの行き先表示や時刻表、街頭の標識などの方向に素早 くレンズを向け、細かなピント合わせをするよう発達の段階に応じて指導したり、表やグラフの読み取りのため、ルーペを速く正確に動かして数値などを把握する指導をしたりしています。これらの指導は、緻密な作業を円滑に遂行する能力を高める指導と関連付けて行われます。
さらに、思春期になると周囲の人から見られることを気にして弱視レンズの使用をためらうことがあります。そこで、低学年から各種の弱視レンズなどを使ってよく見える体験を繰り返し、本人や周囲に対して障がいへの理解を図り、障がいによる困難な状態を改善・克服する意欲を喚起する指導を行うことが大切になります。
(画像は日本眼科医会より)
弱視レンズ以外に、明るさの変化を音の変化に変える感光器や、色を音声化するカラートークのように視覚以外の感覚で確認できる機器もあります。
参考に視覚障がいの方向けの便利グッズを紹介した記事を貼っておきます。
(4)感覚を総合的に活用した周囲の状況についての把握と状況に応じた行動に関すること
視覚障がい児童の場合、白杖を用いて一人で市街を歩くときには、その前に、頭の中で出発点から目的地までの道順(メンタルマップ)を描けていないといけません。また歩き始めてからは、白杖や足下からの情報、周囲の音、太陽の位置、吹き抜ける風、においなど様々な感覚を通して得られる情報を総合的に活用して、それらの情報と頭の中に描いた 道順とを照らし合わせ、確かめながら歩かなくてはいけません。なので、感覚を活用して周囲の状況を把握し、それに基づいて自分のいる場所や進むべき方向などを的確に判断し行動できるよう指導することが重要になります。
この歩行訓練指導の専門家として歩行訓練士がいます。そして盲学校の自立活動の柱の一つがこの歩行訓練です。
また必要に応じて、携帯電話やスマートフォンのナビゲーション機能などを利用して自分の位置と周囲の状況を把握する方法もあります。
(画像はMobility for ALLより)
身体各部の名称や位置の確認、身体の左右・上下・前後の確認などボディイメージの認知を高めることも大切です。
(5)認知や行動の手掛かりとなる概念の形成に関すること
視覚障がい児の場合、事物・事象の全体像を捉え、必要な情報を抽出して、的確な概念を形成することが難しく、そのことが言葉だけの理解、バーバリズムにつながります。そこで、子どもが触覚や保有する視覚などを用い、対象物の形や大きさ、手触り、構造、機能等を丁寧に時間をかけて観察することで的確な概念を形成できるようにします。
例えば、魚のアジを丁寧に触ることで全体像やエラ、ヒレ、目などの位置関係を確認し魚の形を把握します。こうしてアジという魚の基本の形を知ることで、サンマやカレイといった別の魚を理解することが容易になります。これが「核となる体験」です。
そして、こうして獲得した概念を日常の学習や生活における認知や行動の手掛りとして活用できるように指導していきます。
例えば、校舎模型を使って諸室をていねいに確認する学習に取り組み、その位置関係をしっかりと理解することで、様々な教室間の移動につなげていきます。
(画像は岡山県立岡山盲学校より)
他にも駅の発車案内板の位置や表示の仕組みを十分に理解しておくことで、単眼鏡を使っての読み取りが容易になるなど、多様な概念を知ることで、見通しを持って行動できるようになるのです。
(画像は通信用語の基礎知識より)
また弱視児は、見ようとするものに極端に目を近づけたり、見える範囲が限られるため、全体像が捉えにくく、地図やグラフなどに示されている情報の中から必要な情報を読み取ることが困難なことがあります。そのため、不必要な情報を削除したり、コントラストを高めたりして認知しやすい 教材を提供します。触図で絵や図の構造を単純化することも同じです。
シンプルで見やすい教材の例に『みんなの地図帳』があります。
5 身体の動き
日常生活や作業に必要な基本動作を習得し、生活の中 で適切な身体の動きができるようにする観点から内容が示されています。
(1)姿勢と運動・動作の基本的技能に関すること
視覚障がい児の場合、身体の動き等を模倣することを通して基本的な運動・動作を習得することが困難になります。
そこで、姿勢や身体の動きについて、教師の身体や模型などに直接触らせて確認させた後、子どもが自分の身体を実際に使って、その姿勢や動きを繰り返し学習するとともに、その都度、教員が、口頭で説明したり、手を添えたり、二人羽織のように同じ向きに身体を重ねて確認するなどして、正しい姿勢の保持や運動・動作を習得します。
またフォームの獲得では動きの形(運動局面途中の静 止した状態)のイメージを指導するよりも,動きや力のイメージを伝えるほうが効果的といわれています。フォームの全体像をまず伝えてから個々の細部の動きを伝えるような指導法が効果的なのだそうです。
またボディイメージの獲得も課題の1つです。棒や壁を使うことで、伸ばす、曲げる、ひねるなどの動きのイメージがわかりやすくなります。
(2)姿勢保持と運動・動作の補助的手段の活用に関すること
自立活動学習指導要領解説には、補助用具の例として座位安定のためのいす、作業能率向上のための机、移動のためのつえ、歩行器、車いす、白杖、持ちやすいように握りを太くしたり、ベルトを取り付けたりしたスプーンや鉛筆、食器やノートを机上に固定する装置、着脱しやすいようにデザインされた衣服、手すりなどを取り付けた便器があげられています。
歩行訓練で使用される白杖を購入する際は、用途やサイズなど適切なものを選べるよう、歩行訓練士に相談しましょう。
(3)日常生活に必要な基本動作に関すること
食事(食具の使い方、食器を持って食べる、こぼさずに食べる、食事の姿勢)、排せつ、更衣(靴の履き替え、ボタン・ファスナー・ひもなど)、入浴、手洗い・洗面、歯磨きといったADL(日常生活動作)に関連する動作を身につけます。
見えないことに対して、触覚の活用するなど工夫した方法で、少しずつスモールステップで取り組みます。
(4)身体の移動能力に関すること
視覚障がい児の場合、発達の段階に応じて、伝い歩き(防御姿勢)やガイド歩行(手引き歩行)、基本的な白杖の操作技術、他者に援助を依頼する方法などを身に付けて安全に目的地まで行けるように指導します。これが歩行訓練で、多くの場合歩行訓練士によって指導されます。
(画像は広島中央特別支援学校より)
(画像はsoarより)
(画像は産経新聞より)
また弱視児の場合は、白杖を用いた歩行の際に、保有する視覚を十分に活用したり、単眼鏡で信号機や駅の発車案内板を読み取るなど視覚補助具を適切に使ったりできる力を付けることも必要です。
(5)作業に必要な動作と円滑な遂行に関すること
視覚障がい児の場合、周囲の動作を見てまねることが困難なことから、作業の指導が難しいと感じる場合があるかもしれません。ですが、やり方を工夫することで1人で作業できるようになります。例えば、机を拭く場合には、台ふきで手前→奥→手前→1枚分横にずれる→手前→奥→…と繰り返すと、ふきもれがなくなります。また端と端を触って確認することでタオルや衣服を畳むことができます。このように、触覚などを活用し、本人が確認できるやり方で取り組むことが大切です。
実際に視覚障がいの方が、箱の組み立て作業を驚くようなスピードでされている施設もあります。
(画像はハートネットより)
6 コミュニケーション
場や相手に応じて、コミュニケーションを円滑に行うことができるようにする観点から内容が示されています。
(1)コミュニケーションの基礎的能力に関すること
(2)言語の受容と表出に関すること
(3)言語の形成と活用に関すること
視覚障がい児の場合、一面的な理解で、事物、事象や動作と言葉が結びついてしまい、言葉だけでの理解(バーバリズム)になってしまうことが少なくありません。そこで、実際に体験ができるような教材・教具を工夫したり、触覚や聴覚、あるいは保有する視覚を適切に活用したりして,言葉の意味を正しく理解し、活用できるよう指導す ることが大切になります。
例えば、「さかな」という言葉の概念を形成するためには、切り身の「さかな」だけではなく、調理前の一尾そのままを触って、形や触感、においを確認したり、水中の魚に触れて動きを感じたりすることが大切です。 その際、教員が子どものそれまでの経験を生かせるように、分かりやすい言葉を添えたり、感じたことを言語化していくことで「さかな」についての理解が深まっていくのです。
(画像はいらすとやより)
(4)コミュニケーション手段の選択と活用に関すること
視覚障がい者のシンボルとして点字が知られています。全ての視覚障がい児が点字を学ぶ訳ではなく、大半を占める弱視児は弱視レンズや拡大読書器を使用したり、文字を拡大したりします(見え方によっては文字を拡大すると見えにくくなる場合もあります)。また録音再生機(デイジー)やスマートフォン/タブレット端末/PCの読み上げ機能を使って音声で情報を得ている方もたくさんいます。
(画像は株式会社ブライトより)
点字を使用して学習する視覚障がい児の場合、点字器や点字タイプライターの使用や点字の読みに習熟することはもちろん必要不可欠です。だだ将来のことを考えるとキーボードでの入力や点字ディスプレイへの出力に慣れて点字と普通文字(墨字)を相互変換したり、PCの読み上げ機能を使って文書処理をしたりするなど、コンピュータを操作する技能の習得を図ることも必要になります。普通文字(墨字)を理解するためには漢字を知っておかなければなりません。
(画像は視覚障がいリハビリテーション協会より)
弱視児の場合、自分にとって学習効率の良い文字サイズを知り、拡大文字の資料を必要とする場合などに、PCやタブレット端末の拡大機能などを使って、 文字サイズ、行間、コントラスト等を調整し読みやすい資料を表示したり、作成したり、依頼したりできる力が必要になります。
(画像はLVCより)
(画像は視覚障がいリハビリテーション協会より)
また進行性の眼疾患などで普通の文字を使用した学習が困難になった場合は、適切な時期に使用文字を点字に切り替えるなど、学習効率を考えた文字選択の配慮が必要になります。
視覚と聴覚の両方に障害のある盲ろう児の場合、保有する視覚と聴覚の活用、触覚を活用したコミュニケーション手段が考えられます。触覚を活用したコミュニケーション手段として、身振りサインに触ること、手話や指文字に触れて読み取る触手話・触指文字、指点字、手書き文字などがあります。その子の障がいの状態や発達段階等を考慮して、適切なコミュニケーション手段の選択・活用に努めることが大切です。
(画像はOHKより)
(5)状況に応じたコミュニケーションに関すること
視覚障がい児の場合、視覚的な情報の入手に困難があることから、場に応じた話題の選択や、部屋の広さや状況に応じた声の大きさの調節、話し方などに課題が見られることがあります。こうしたたときに、例えば、相手の声の様子や握手をした際の手の位置から、相手の体格や年齢などを推測して話を進めたり、声の響き方から部屋の広さや相手との距離を判断して声の出し方を調節したりするなど、場や状況に応じた話し方を身に付ける必要があります。
まとめ
仕事の関係で、自立活動学習指導要領解説を読んでいたときに思い立ち、視覚障がいに関連する内容をまとめてみました。個人的には「盲学校で働いているときに作っておけばよかったのに!」と思っています笑。
養護・訓練の時代から、盲学校では点字や弱視レンズ、歩行といった内容が行われてきていて、指導の積み重ねがあります。一方でそれ以外の自立活動についてはまだ実践の積み重ねや共有が必要なのかなというのが盲学校で働いていた当時の実感でした。
もう転勤して3年になりますが…盲学校での自立活動の取り組みのお役に立てば幸いです。
参考にしたサイト
1.『特別支援学校教育要領・学習指導要領解説
自立活動編(幼稚部・小学部・中学部)平成 30 年 3 月(文部科学省)』
3.『えがおのいっぽ〜見えない・見えにくい子どもたちとともに〜(京都府)』
4.「視覚障害者のスポーツにおける指導と支援
(香田 泰子/筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター)」
表紙の画像はいらすとやの画像を組み合わせて作りました。点字やルーペ、白杖歩行など視覚障がいに関するいろんなイラストがあるのに驚きました。