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特別支援学校からの発信「自立活動ってなに?SSTとどう違うの?」

「自立活動」という言葉を聞いたことがありますか?今回は自立活動のおおまかな概要とイメージをお伝えしたいと思います。

自立活動とは?

自立活動とは、特別支援学校、特別支援学級、通級による指導の教育課程において、特別に設けられた指導領域です。かつては「養護・訓練」と呼ばれていました。

自立活動の目的は、特別支援学校学習指導要領(平成29年4月公示)第7章に次のように示されています。

「個々の児童又は生徒が自立を目指し、障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服するために必要な知識、技能、態度及び習慣を養い、もって心身の調和的発達の基盤を培う。」

「一人ひとりの実態に対応した活動であり、よりよく生きていくことを目指した主体的な取組を促す教育活動」なんて言うと固い感じですが、「障がいの特性によって感じる生きにくさを緩やかにしてあげるための取り組み」なんてイメージでしょうか。

支援学校では、各教科等の授業と同じように「自立活動」の授業が行われます。また自立活動の授業だけでなく、各教科の指導など学校の教育活動全体において自立活動の指導を行うことも示されています。

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(画像は島根県教育センターより)

支援学校、支援学級や通級指導教室に通う児童生徒が自立活動の対象です。また通常学級に在籍する配慮の必要な子に対しても、自立活動の内容を参考にした指導を行うものとされています。

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(画像は島根県教育センターより)

では具体的な自立活動の内容、6区分27項目を見ていきましょう。

自立活動の6区分27項目

1 健康の保持
①生活のリズムや生活習慣の形成に関すること。
②病気の状態の理解と生活管理に関すること。
③身体各部の状態の理解と養護に関すること。
④障害の特性の理解と生活環境の調整に関すること。
⑤健康状態の維持・改善に関すること。

2 心理的な安定
①情緒の安定に関すること。
②状況の理解と変化への対応に関すること。
③障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服する意欲に関すること。

3 人間関係の形成
①他者とのかかわりの基礎に関すること。
②他者の意図や感情の理解に関すること。
③自己の理解と行動の調整に関すること。
④集団への参加の基礎に関すること。

4 環境の把握
①保有する感覚の活用に関すること。
②感覚や認知の特性についての理解と対応に関すること。
③感覚の補助及び代行手段の活用に関すること。
④感覚を総合的に活用した周囲の状況についての
把握と状況に応じた行動に関すること。
⑤認知や行動の手掛かりとなる概念の形成に関すること。

5 身体の動き
①姿勢と運動・動作の基本的技能に関すること。
②姿勢保持と運動・動作の補助的手段の活用に関すること。
③日常生活に必要な基本動作に関すること。
④身体の移動能力に関すること。
⑤作業に必要な動作と円滑な遂行に関すること。

6 コミュニケーション
①コミュニケーションの基礎的能力に関すること。
②言語の受容と表出に関すること。
③言語の形成と活用に関すること。
④コミュニケーション手段の選択と活用に関すること。
⑤状況に応じたコミュニケーションに関すること。


それでは区分ごとにその内容やイメージを確認していきましょう。以前の勤務先で先輩が大人の自立活動というテーマで自立活動をわかりやすく説明されていたのを参考に、僕の一言も付け加えてみました。

1 健康の保持

生命を維持し、日常生活を行うために必要な身体の健康状態の維持・改善を図ることがねらいです。

例えば、体温調節や覚醒睡眠リズム、食事や排泄といった生活習慣を獲得したり、自分の病気や身体の状態を理解したり、服薬管理なども含めた健康面を自己管理できるようになることなどを学習します。

(画像は株式会社グリーンハウスより)

(画像は認知症の人の家族の会より)

品目や栄養バランス、量を考えた食事、適度な運動、安定した睡眠リズムの確保といった生活リズムと健康の維持…自分で言ってて自分の胸に突き刺さります笑。僕にも自立活動が必要みたいです。

2 心理的な安定

自分の気持ちや情緒をコントロールして、変化する状況に適切に対応したり、障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服する意欲の向上を図ることがねらいです。

例えば、情緒の安定のための取組や場所・場面の状況や変化する状況を理解して、適切な対応ができるようになること、アンガーマネジメント(怒りの感情コントロール)などを学習します。

(画像はLITALICO発達ナビより)

(画像は読売新聞オンラインより)

自分の気持ちや情緒のコントロールって…職場など大人同士の関係だとすごく難しいですよね。上から降りてくる指示がその日によって変わったりする状況の中で心理的な安定を保つのは僕にとっても難しい課題です笑。

3 人間関係の形成

自分や他人をよく理解し、対人関係を円滑にし、集団参加の基礎を培うことがねらいです。

例えば、人に対する基本的な信頼感を持ち、人からの働きかけを受け止め、応ずることができるようにしたり、他者の意図や感情を理解したり、場に応じた適切な行動を取れるようになることなどを学習します。

(画像はリスタ!より)

(画像はヒヨコのギモンより)

(画像はLITALICO発達ナビより)

個人や集団との関わり方、付き合い方、振る舞い方って所属している文化や風土、組織によっても変わるのでとっても難しいですよね。夫婦の間でも難しいときもありますよね…笑。そして、人間関係を築いていくためには、相手のことを考えるだけでなく、自分の気持ちのコントロールやコミュニケーションも大切になります。

4 環境の把握

感覚を有効に活用し、空間や時間などの概念を手掛かりに、周囲の状況や環境と自分の関係を理して的確に判断し、行動できることがねらいです。

例えば、持っている感覚を十分に活用できるようにする指導や感覚過敏や認知の偏り等が課題となる子どもへの指導も行われます。視覚支援学校での点字や弱視レンズ、聴覚支援学校での手話や口話の訓練なども含まれます。

(画像は筑波大学附属視覚特別支援学校より)

(画像は筑波大学附属視覚特別支援学校より)

僕は自分が人と話をするときに、その内容を図解してまとめていくタイプですし、でもフロアバレーボールをしていたからか意外と聴覚認知が得意で周りの話が聴こえてきます(就活のときは自分のことを耳の大きなキリンにたとえていました)。こだわりだしたら止まらなくなる一方で、興味関心のベクトルに波があるので、やりすぎないように意図的に手を止めたり、いくつかの仕事を並行して進めるようにしています。

これも自分の認知特性を知っているからこそ語れることですよね。

盲学校時代はフロアバレーボールで前衛(全盲)プレイヤーをしていたので、耳まで聞いた情報を元に試合の状況をイメージしていましたし、その成果か今でも夜中目が覚めてから目をつまったまま手の触覚で確認しながらトイレへ行ってまたベッドまで戻ることができます。

5 身体の動き

日常生活や作業に必要な基本動作を習得し、生活の中で適切な身体の動きができるようになること
がねらいです。

例えば、日常生活に必要な動作の基本となる姿勢保持や手足の動きの改善、ボディイメージの向上、関節拘縮や変形の予防、筋力の維持・強化を行ったり、必要な補助具を活用したり、歩行や歩行器、車いすを使った移動の練習、手の使い方などを学習します。食事や更衣、排泄、移動といった日常生活動作も含まれます。

(画像は障害関連その他色々ブログより)

(画像はLIFULLより)

僕は猫背で年中首肩背中腰が凝っていますし、ボディイメージも悪いのです。運動センスはなく見たままにサッと真似できないのでコツコツ繰り返して覚えるタイプなので、シングルプレイヤーの父親からゴルフを習ったときに「お前は鏡を見ながらひたすらスイングの動きを反復練習しておけ!」と言われたのもいい思い出です笑。

6 コミュニケーション

場や相手に応じてコミュニケー ションを円滑に行えるようにな ることがねらいです。 

例えば、コミュニケーションの 基礎的能力として、表情で表すことや身ぶりやサインや発声の基礎となる呼気、発音の練習だけでなく、写真展示絵カード(PECS)やAAC(拡大代替 コミュニケーション)を利用して意思を伝える学習や状況に応じたコミュニケーションの学習も行います。

(画像は大阪府教育センターより)

大人でも相手の意図を読み取れなかったり、自分の思いや意図をうまく伝えられないことはありますよね。相手を受け止めつつ、自分の主張はしっかりアサーティブな伝え方、僕も身につけたいです。

自立活動の内容ってすごく幅広い

こうやって具体的な内容を確認していくと、自立活動の内容ってすごく幅広いことに気づきます。

ソーシャルスキルトレーニング(SST)で学ぶ、ルールを守ることや他者の感情を推測すること、自分の感情をコントロールすることももちろん心理的な安定や人間関係の形成、コミュニケーションに含まれます。

食事、排泄、整容(着替え、洗面、歯みがき、整髪など)、移動、入浴など人が日常生活において繰り返す基本的かつ具体的な活動である日常生活動作(ADL)も環境の把握に含まれます。

健康管理から対人関係まで、日々の生活を大過なく送れることを目的としたライフスキルトレーニング(LST)や、電話の使い方、買い物、家事、移動、外出、服薬の管理、金銭の管理など生活や就労で必要になる手段的日常生活動作(IADL)もそうです。作業療法(OT)や理学療法(PT)、言語聴覚療法(ST)などで取り組んでいる内容も自立活動に含まれます。

聞く、話す、読む、書く、計算する、推論するといった学習の基礎となる能力の習得ももちろん含まれます。

それぞれの項目が関連している

そして6項目27区分はそれぞれに関連しています。

例えば視覚障がいの子が校外で歩行練習をするときのことを考えてみましょう。

(画像は国立障害者リハビリテーションセンターより)

残ってる視力や周囲の音や匂い、白杖から伝わる触覚や音など保有する感覚を活用して周囲の情報を得て歩行します。真っ直ぐ進んだり、左右に曲がったり、白杖を左右に均等に振るためには身体の動きが不可欠です。突然の大きな音や道がわからなくなった、バスが時刻通りに来ないなどのトラブル時に落ち着いて対応するためには心理的な安定が欠かせません。わからないとき、周囲の人に尋ねたり、援助を依頼したりするコミュニケーションの力が必要です。

このように子どもたちがいろんなスキルを身につけるときに、自立活動の各項目は互いに関連しあっているのです。どれか1つの区分だけ取り組むと決まっている訳ではないのです。

まとめ

自立活動についての話どうでしたか?なんとなく自立活動についてのイメージが持てたでしょうか?

僕自身は、自立活動以外の教科学習などでも自立活動の視点を持つことと、自立活動の観点から子どもにスキルを身につける指導をするだけでなく楽にできる環境や道具を工夫することが大事だなと思っています(「努力より工夫を」というのが僕の好きな言葉です)。

今回は自立活動のおおまかな概要とイメージをお伝えすることをメインに書いたので、より具体的な自立活動についてや、環境の調整や道具の工夫など(これがいわゆる合理的配慮というやつです)については、また別の記事で紹介したいと思います。

参考にしたサイト

1.「自立活動って何だろう?(島根県教育センター)」

2.「自閉症のある子どもの自立活動の指導について考えよう!(国立特別支援教育総合研究所)」

3.「自立活動だより(紀北支援学校)」



表紙の画像は、DINF 障害保健福祉研究情報システムより引用したICF(国際生活機能分類)の「生活機能モデル」です。