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特別支援学校からの発信「あなたは継次処理派?それとも同時処理派?僕はどちらかというと同時処理派なんですけども」

前回は、視覚優位、聴覚優位、言語優位、身体感覚優位など、人によって違う認知特性について紹介しました。

その認知特性とも関連するのですが、今回は|継次《けいじ》処理同時処理という、物事について考えたり、情報を整理したり、記憶したり、理解したり、作業の進めたりする際の方法の2つのタイプについて紹介していきます。

あなたは継次処理派?それとも同時処理派?

いくつか質問をしていくので考えて、自分がAかBのどちらに近いかを答えてみてください。

①使っている腕時計は…

A:デジタル派
B:アナログ派

②スケジュール管理をする時は…

A:時系列(毎日を時間ごとに並べて)で管理する
B:カテゴリーで(1週間や1か月など全体を見渡して)管理する

③目的地までのナビゲーションは…

A:音声や文字での案内が分かりやすい
B:地図を見ての案内が分かりやすい

④テストなどの問題を…

A:初めから順番に解いていく
B:全体を見てできそうな問題を解いていく

⑤物事の説明をするときは… 

A:場面の経過に沿って話す
B:内容の大体を話す

⑥工作では…

A:細かいパーツや部品から作り始める
B:大まかな形から作り始める

⑦昨日の夕食はと聞かれて…

A:時間の流れに沿って作った順番に思い出した
B:食卓の上に並んでいた映像が浮かんできた

Aが多かった方は「継次処理」タイプが優位、Bが多かった方は「同時処理」タイプが優位と言えるようです。

誰しもが継次処理と同時処理どちらも行なっていますが、発達障がいの方には優位な処理に偏りのある方が少なくありません。また親子や兄弟でも優位な情報処理タイプが同じとは限りません。

ではそれぞれの特徴をみていきましょう。

継次処理タイプの特徴

継次処理は、情報を1つずつ順序立てて理解するのが得意なタイプです。マニュアルや手順書に従って、1つずつ手順を進めていくイメージです。

・まず何をするのかから始めて、やることの手順(道筋)を考える。
・やることを順番に説明された仕事が得意。
・文章で示されていると、すぐに理解できる(説明書を読むのが得意)。
・見本があると、同じようにできる。
・1つずつ行うので、細かいミスが少ない。
・「最初に〜して、次は〜、最後は〜した。」と時間に沿って考えているので、経験したことが記憶に残りやすい。
・「手順の再現が得意」なので、相手に説明することやマニュアルづくりが得意。

事務仕事など、手順が大事になる仕事が得意な人が多いイメージです。

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(画像はチェックリストシステムアニーより)

一方で、苦手なこともあります。

・目的や最終地点など全体だけを示されてもイメージが湧かないので、全体的な情報だけを示されると、混乱してしまう。
・情報が不足している場合も、見本がいないと「何からすれば良いの?」と困ってしまう。
・マニュアルのない臨機応変さが求められる仕事は苦手。

今日の出来事を話すなら、あった出来事を最初から時系列に話していくタイプです。言いたいことのクライマックスは、一番最後に出てきます。

また道順を説明する際には、 地図だけでは経路は覚えにくいので、地図と一緒にメモを見たり、道順を読んだり、聞いたりすることで覚えられます。

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(画像は宮城県総合教育センターより)

聴覚優位の方や言語優位の方は継次処理タイプのことが多いそうです。

同時処理タイプの特徴

同時処理は、情報の全体を捉えてから、部分同士を関連付けて理解するタイプです。

・仕事で最初に目的を教えると理解が早い。
・地図を見て位置関係の把握ができる。
・料理、洗濯、掃除など複数のタスクを同時に進められる。
・ 曖昧な指示でも動ける。
・一見無関係なものでも規則性を見出して覚える(説明書を読まなくても、なんとなく触って電化製品を使える)。

僕の中では、研修会で学んだ「主婦・主夫の方が、同時並行で料理を進めている」…みそ汁のお湯を沸かしながら、皮をむいて切って水にさらしたジャガイモを電子レンジでチンしながら、野菜やお肉をまな板で切っている…みたいなイメージです。

私事ですが、はじめは継次処理で一品ずつ作っていましたが、今では同時処理で段取りし、並行して進められるようになりました。

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(画像は「共働き夫婦」の時短レシピより)

一方で、苦手なこともあります。

・やり方だけ指示された仕事(マニュアル通り、段取り通り)が苦手。
・順序立てて考える仕事が苦手。
・文字だけで紹介されている説明書などは、「なぜそれが必要なのか?」という目的がわからないので、理解するのが苦手。
・全体像を大雑把に捉えるため、細部のミスが多くなりがち。

会議や会話では、「とにかく結論は何か」「息子は何を言いたいのか」を先に聞きたいタイプです。

また道順を説明する際は、言葉よりも地図を見た方がわかるタイプです。

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(画像は宮城総合教育センターより)

視覚優位の方は同時処理タイプのことが多いそうです。

どちらのタイプにも伝わるように

授業や仕事を進めるとき、私たちは知らず知らずに自分の得意な認知特性や認知処理タイプで進めてしまいがちです。

継次処理、同時処理の2つの力は全ての人が持っていますが、多くの人は得意な力を無意識に優先して使っています。そして発達障がいを抱えている方は、どちらに強く偏っていることが多いのです。

そのため、授業など集団に対して情報を与える時には、言葉や文字だけで伝える、絵だけで伝えるなど、偏って伝えると十分に伝わらない子たちが出てくるはずです。

・黒板に手順を書いてから、言葉で指示する。
・全体の目的・概要を伝えてから、次に1から順序立てて説明する。

・全体図を示してから、手順・マニュアルを示す。

などのように、継次処理・同時処理どちらのタイプにも伝わる説明を意識しなければなりません。

両方の処理タイプへ伝わる工夫をして、二刀流でどちらも提示する、ということを覚えておいてください。

具体的な支援・指導方法の紹介

継次処理タイプ、同時処理タイプそれぞれに配慮した具体的な支援・指導の方法を紹介します。

1.掃除

継次処理タイプには、作業の手順を順番に示した表を提示します。

1 前をほうきではく
2 つくえを前に出す
3 うしろをほうきでらく
4 ごみをまるにあつめる
5 ごみをすてる
6 つくえをもとにもどす
7 あとかたづけ

同時処理タイプには、まず掃除が終わった状態(ゴール)の写真を見せ、続いて掃除の手順に従った写真(ほうきで掃く→ゴミを集める→掃除用具を片付ける)を示します。

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(画像は宮崎市立宮崎小学校より)

2.棒グラフ

継次処理タイプには、棒グラフのかき方を順に示して、最終的に棒グラフがかけるようにします。

1 表題を書くり
2 たてに人数の目もり(数)と単位(人)を書く。
3 横に食べ物の名前を書く。
4 人数に合わせてぼうをかく。

同時処理タイプには、3年1組の好きな食べ物の表と完成した棒グラフを示すことで、目指すべきゴールを共有し、1組のグラフと同じようにすれば2組のグラフがかけるようにします。

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(画像は宮崎市立宮崎小学校より)

3.時計

継次処理タイプには、既製の学習用時計を活用して学習を進めます。

①既製の学習用時計を使って、短針の読みから教える。
②さらに1分刻みで針を動かし、 1時間が60分であることを読み取らせる。
③長針の読み、かけ算の5の段を使って分を教える。
④30分の短針の位置に気付かせる。
⑤時刻の読み取りや、針の記入を練習する。

同時処理タイプには、自作の時計を活用して学習を続けます。

①ダンボール等で作った時計を提示する。(長針・短針は色を変える)
②数字、短針、長針を分解させる。
③数字を元の位置に戻しながら時間を教える。
④1分ごとの目盛りを記入させ,1時間が60分であることに気づかせる。
⑤かけ算の5の段を使って、分を教える。
⑥ 短針をつけて(割ピンなど)、●時の読み取りをする。
⑦ 長針をつけて、短針との関係をふまえて分の読み取りをする。
⑧既製の学習用時計に移行し、読み取りを徹底する。
⑨時計に針を記入する学習を繰り返す。
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(画像は皆与志養護学校より)

4.板書例(円柱の表面積を求めよう)

継次処理タイプには、円柱の表面積の求め方の具体的な手順を示す。

同時処理タイプには、授業の目的(めあて)の「円柱の表面積の求め方を考えよう」をまず確認する。また表面積の全体像を視覚的にイメージできるよう、円柱の展開図を示す。

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(画像は宮城県総合教育センターより)

5.ワークシート例(心肺蘇生法)

継次処理タイプには、対応の流れをチェックリスト形式で順序立て示します。

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(画像は宮城県総合教育センターより)

6.学習支援

継次処理タイプは、1から順番に、手順を踏んで学習させる。できたページ数分、プリント枚数分のシールを表などに貼り達成感を感じさせる。漢字は書き順が掲載されているドリルやワークを使用する。計算問題は筆算しやすいように枠がある問題集を選ぶ。

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(画像は子育てパパがなにかやらかしています。より)

同時処理タイプは、単元ごとにプリントを分け、勉強したいところから取り組めるよう工夫する。また小テストなど小さな目標を掲げてそこに向けて勉強のモチベーションを上げる。

まとめ

今回は継次処理と同時処理という2つの情報処理タイプの特性について紹介しました。

当たり前ですが、同時処理タイプの子に1つずつ丁寧に教え込んだり、継次処理タイプの子に全体像をパァーッと伝えて「じゃあやってみて」ではなかなか上手くいきません。

でも、前回の認知特性も今回の情報処理特性もみんなそれぞれ違うはずなのに、そのことを知らないと自分の特性がスタンダードになってしまい、不幸な押し付けになってしまうことがあるかもしれません。

特別支援といえば視覚支援!なんて聞いたこともありますが、視覚支援が合わない子だっています。

自分の得意なタイプを知ること、子どもの特性を知ってそれに合った方法で支援していくことは、当たり前ですがすごく大切なことです。

以前別の記事でも紹介した「#私の情報処理の勝ちパターン」についてのツイートを掲載しておきます。

認知についてちょっと書いてみようという思いから始まった記事ですが、自分自身の再確認にもなりました。次のワーキングメモリは難しいのでちょっと不安ですが…笑。

人によって得意な学び方や考え方が違うという当たり前のことが広まり、自分に合った方法で学び考えるのが当たり前になりますように。


参考にしたサイト

1.宮城県総合教育センター「認知特性とは」

2.親子DE発達凸凹86「第357号 あなたは「継次処理」「同時処理」どちらのタイプ?」

3.こども発達支援研究会「同時に考える力と順番に考える力〜同時処理と継次処理〜」

4.東京都教職員研修センター「子供一人一人の『分かり方の特性』を生かした指導をしましょう」

5.note「同時処理能力・継次処理能力とは何だろう?どう学習に活かす?」



表紙の画像はよつばCOLORSブログより引用しました。